第7話 魔王覚醒
時折襲ってくる植魔を瞬殺しながら進んでいく。
この森の奥に妖精女王のアマーリアが囚われている。
俺の脳裏にアマーリアとの思い出が浮かぶ。
あれは200年以上前。
アマーリアがまだ幼く、妖精女王がまだ先代の時代のことだった。
◇
「魔王ザウス。今回は我らをお救い頂きまして、ありがとうございました」
「気にするな。精霊神だったか? 女王を手に入れたいからといって幽界のみならず、現実世界まで暗黒に旬食させるとは、けしからんからな。たかが神如きが全てを手に入れられると勘違いするからだ」
俺の足元には精霊神を名乗っていた亡骸が転がっている。
魂の抜けたそれは、最早ただの土の塊だった。
それにしても妖精女王は美しい。ため息が出るような美しさだ。
見るもの全ての心は男女問わず3秒で奪われ、彼女の信望者になるというのも頷ける。
「お望みのものをいってください。例えそれが私だとしてもあなたならば――」
「ママは渡さないぞ! この悪者め!」
戦闘で退避していた女王の娘、アマーリアが戻ってきたようだ。
「これ、やめなさい、アマーリア!」
「なんで、魔王は悪者でしょ?」
「今まではそう……だけどザウスはそうではありません」
「お前、悪者じゃない?」
「元気のいい娘だな。これは跡継ぎは安泰だな女王」
「悪者はアマーリアが倒す!」
木の枝を剣にみたてて宣言する。
「よし! かかってこい!」
「えい! やあ!」
その後、戦後処理などにも関わり、何度かアマーリアと顔を合わすうちにすっかり打ち解けた。
「ザウスは悪者じゃない。ママも助けてくれたし、アマーリア、将来ザウスと結婚してあげてもいいよ」
「そうか……じゃあ、その時は是非よろしく頼むな」
月日は流れて代替わりの妖精女王の継承の儀にも呼ばれ……そうだ先代に頼まれて、アマーリアの後見人になったのだ。
すっかり忘れていた。
俺が後見人をしているアマーリアに手を出すとは――思い知らせてやらなければいけない。
◇
「ザウス! ザウス! なにボーッとしてるニャ?」
「ああ、すまない」
気がつくと目の前には先に到着している冒険者たちの姿があった。
その中心には黄金の翼のメンバーたちがいる。
彼らは植魔の魔物、キラートレントと戦闘中だった。
その奥には囚われの妖精女王アマーリアの姿が見える。
アマーリアはバリアに囲まれている。
「アマーリア……美しく成長している……」
「ご主人様、加勢しますか?」
「いや、大したことない相手だ。マルティンがいれば大丈夫だろう。ちょっと様子を見よう」
冒険者たちは全体的には押されているが、マルティンが一人、気勢を上げて頑張っている。
「おい! 魔術師たちはもっと火魔法頑張りやがれ! 斬っても斬っても、傷口からまた生えてくるからきりがねえ」
キラートレントは枝を鋭くして、自在に伸び縮みさせて攻撃している。
魔術師たちの火魔法はキラートレントに直撃しているが、火力が弱いのか、その火ではキラートレントを燃やすことができない。
「魔術師の皆さん、俺の剣に向かってファイアボールを放ってください!」
「いや、でも……」
「早く!」
「ええい!」
魔術師たちのファイアボールがマルティンの剣に向かって放たれる。
ファイアボールが当たるとマルティンの剣から火柱が上がる。
ファイアボールが当たるたびに火柱は大きくなっていく。
「うぉおおおおーーーっ!!」
マルティンは咆哮を上げて火の魔法剣を振るう。
「ぎぃやぁあああああーーーー!!」
先程まで火魔法をものともしなかったキラートレントたちは次々に燃え盛っていく。
マルティンはもう魔法剣まで使えるようになったのか。
驚くべき成長スピードだ。
「みんな! これで形成は逆転した! 一気に攻め込もう!」
弱ったキラートレントに味方が突っ込む。戦いは混戦となる。
順調だ。このままいけば、後しばらくで全滅させることができるだろう。
その時――敵のキラートレントの影に隠れた人影があった。
「えっ!?」
マルティンは目を見開き、驚愕の表情を浮かべる。
彼の視線の先には自らの腹部にナイフを突き刺す、ラルフの姿があった。




