第23話 忘却の聖女
「よし! 予定通りだ!! ザウスを封印して、魔王覚醒させて能力を発動させて邪神を討伐する! 全てが予定通りだ!」
ギレッドは歓喜の雄叫びを上げる。
結界は3分の1が解除できている。
「もう、ダメ、ニーナ! 止めてぇ!!」
ダリアが叫び声を上げる。
「どうしたダリア。ニーナにはまだこの部屋の邪魔な奴も、掃除してもらわないといかんだろう」
「ゔゔゔゔ……ダメ、ニーナ。もうこれ以上は……」
ダリアは頭を抱えて痛がりながら話す。
「お前まさか、記憶制御していたときの人格か?」
その時、ニーナが悲鳴を発する。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」
「ニーナぁ!!」
ニーナが苦しそうにしている。
よくみるとニーナの左腕がなくなってしまっている。
結界は半分が解除できている。
「代償で左腕がもっていかれたか。まあ、それで邪神を倒せたのなら安いものだ」
「誰を倒しただと」
まるで地獄の底から響いてくるかのような声が響く。
白い霧が王座近辺で立ち込めはじめる。
その霧はどんどん濃くなり、物体を構成しだす。
物体はどんどん輪郭をはっきりさせだす。
不気味な大きな頭と、その顔の両隣に鉤爪のついた手が出現する。
頭には二本の角が生えている。
王の間に冷気が立ち込める。
邪神から感じられる魔力は先程と比にならないないくらい強い。
「む、無理だこれは……」
ダインが思わずといった感じで絶望のつぶやきをもらす。
「かぁあああああああ」
邪神は牙を生やした口を大きく開く。
すると口の前に漆黒の槍が出現する。
その槍に莫大な魔力が注ぎ込まれている。
結界は残り3分の1だ。
「何をしているニーナ! 邪神を討伐するんだ!!」
「ニーナもう止めて! これ以上したら命をもっていかれるわ!!」
「ダリア、貴様ッ!!」
「ゔゔゔゔーーー、ダリア様、ニーナを捨てないでください! ニーナを側においてください!! ゔゔゔゔぁああああああーーーん」
ニーナは号泣している。
その様をみてラミアが牙をむく。
「邪神! おのれぇーーーッ!!」
「ラミア、止めろ!」
ラミアは自らの右手を暗黒竜の形態に変えて、邪神に襲いかかる。
だが邪神の目から光線が発せられて、すぐさま迎撃される。
「目障りな人間め。誰に手を出したか思い知らせてくれるわ!!」
遂に漆黒の槍が邪神から凄まじい勢いで放たれる。
号泣しているニーナは反応できない。
ここまでか!
――俺は見ていられず目をつぶってしまう。
その後、数秒して目を開けると信じられない光景を目にする。
ダリアがニーナの前に立ちはだかり――――邪神の槍を防いでいたのだ。
「槍に封印術を施したのか」
邪神がそう述べた後、ダリアに突き刺さっていた槍は消え去っていく。
結界は解除は後もう少しだ。
「ダリア様!!」
ニーナはすぐさまダリアに駆け寄る。
「ごめんね、ニーナ。私が大切なことを忘れてて……」
「ダリアざま、血が……ゔゔゔーー、胸に穴がぁっ!!」
ダリアが倒れている地面が鮮血に染まっていく。
「ごめんね、ニーナ。こんなところに連れてきちゃって。ごめんね、ニーナ。片手を失わさせてしまって。ごめんね」
「ゔゔゔゔゔーーー、いいんです、あだしばぁーーーいいんですーー、ダリアざまーーーー」
「ごめんね、ニーナ。もっと一緒にいてあげたかったのに。いたかったのに。子供らしい生活させてあげられないで、ごめんね」
「いやだぁーー、ダリアざまぁーーー」
ガンガン、とラミアは自らの手を血だらけにしながら、俺を閉じ込めている結界を殴る。
「止めろ、ラミア! この結界を力づくで破ることは無理だ!」
「ゔゔーー、ごじゅじんざま、わだしでは無理なんでず。ニーナちゃんとダリアを守れないんでずーー」
ラミアは泣きながら結界を殴り続ける。
「ごめんね、ニーナ。いつかした約束を守れなくて。落ち着いたら静かなところで二人で一緒に暮らそうって。ああーー、私のニーナ! ゔっ!」
「ダリア様!」
ダリアは吐血する。
彼女は自身の血をみて、何かを決意した表情に変わる。
「…………お願い、ザウス、ニーナを守って! 私の命はどうなってもいいから。私はどうなってもいいから、ニーナを守ってぇ!!」
「ゔゔゔーーーっ、ダリアざまーー」
「愛してるわニーナ…………ああ、願わくば……あなたに……幸が…………」
沈黙がその場を支配する。
「…………ダリア様? ダリア様!? ゔわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
ニーナは漆黒の強い輝きを放ちだす。
「いいぞ! 遂に魔王の本覚醒だ!! ダリア、よくやった! お前の命は無駄にはならん」
結界の破片が美しく宙を舞う。
遂に結界が解除された。
「させるかよ!」
「何!? ばかな結界が!」
俺はすぐさまニーナの元へ移動する。
「ニーナ! 抑えるんだ! ダリアはお前が魔王になることは望んでいない!!」
「ゔわぁああああああ、ダリアざまぁーーーー!!! ダリアざまぁーーーー!!!!!!」
「ダリアを悲しませるのか! 天国のダリアを悲しませるのか、ニーナ!!」
「じゃ、邪神を倒さないと……ダリア様に……側においてもらうために……邪神を……」
ニーナは目の焦点があってない。
俺は彼女の肩を持って揺する。
「しっかりしろニーナ! 邪神は俺が倒してやる!! お前を絶対に一人にしない!! お前を……つらかった小さい頃のような目には絶対にあわせない!!」
「……ザウス」
ニーナの目の焦点が合う。
俺はニーナを強く抱きしめる。
「大丈夫だ、ニーナ。後は任せろ」
「ゔゔゔゔゔゔーーーーー、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーん」
ニーナは大泣きする。
「ラミア!」
「はい!」
ラミアはニーナを抱いて下がる。
「ニーナ……後は任せろ、お前は頑張った…………ダリア……必ず仇はとってやる!!」
俺は拳を握りしめながら前に進み出て、遂に邪神と対峙する。




