第21話 封印
「懐かしいな……」
「ほんとに、久しぶりでございますね……」
王の間の入口。
入口の扉は、人の背丈の二人分は有にありそうな程の高さを誇っている。
表面には地獄のおどろおどろしい様子が型取られて、描かれている。
片扉で数百キロはある頑丈な鋼鉄製の扉を、俺は片手で押す。
ギギギギギギっと大層な音を響かせながら扉は開かれる。
王の間に入ってきた俺たちを、振り向いて確認するものたち。
彼らは仮面をつけた冒険者パーティーと先程の冒険者ギレッドだった。
邪神と思われるものが、王の間の王座の宙の上に浮いている。
邪神の周りは卵状のバリアが形成されているようであった。
体操座りをするように膝を抱きかかえて、その瞳を閉じていた。
眠っているのだろうか?
だが眠っていたとしても凄まじい魔力だ。
肌に突き刺さるような、通常ではありえないような魔力を感じる。
ダリアは余りの魔力に、部屋に入るだけで、少し顔色を悪くしてしまっていた。
「どうした? そいつが邪神だろ」
「ああ、おそらくな。でも下手に手を出して虎の子を起こすのも……と彼らは後続を待ってくれてたぜ」
ギレッドは仮面のパーティーの方へ視線を移動する。
「眠りから目を覚まさせるだけならイージーだ。だがあんた、ザウスは待ってたほうが良さそうだからな」
「名前は?」
「ダインだ」
他のメンバーもそれぞれ名乗りをあげる。
「じゃあ、ちゃちゃっと終わらせるか」
俺は軽い調子でいう。
「ここまではイージーだったが……相手は邪神だぞ? この凄まじい魔力を感じてるだろ」
「深刻になってもしょうがないだろ? 奴のバリアの解析はすんでいる。みんな用意はいいか?」
ヒューっとダインが口笛を鳴らす。
それぞれが武器を手に取り、戦闘態勢に入る。
「いくぞ!」
俺は解除魔法を発動する。
邪神を覆っているバリアが七色に輝く。
その後、ガラスが割れるようにパリンっと音がしてバリアは破られた。
バリアが破られたことによって、邪神の濃密な魔力が王の間に充満する。
なんの前触れもなく――邪神の瞳が見開かれる。
「…………人間どもか……我を眠りから覚ますとは愚かな。余程、早死したいらしいな」
邪神は裸だ。
股間部は平らで、性別は不詳だった。
真っ白な肌に白髪、真っ赤な瞳をしている。
魔力濃度が更に高くなる。
ダリアが頭をかかえている。魔力にやられたのだろうか?
「これはイージー……ではないな。なんて魔力だ!」
「お前ら、俺がやるから下がって――」
俺がそこまで話した所だった。
「ダリア、今だ! ザウスを封印しろ!!」
「っ!?」
ギレッドが突如、指示を飛ばす。
『絶対封印展開!!』
瞬間――時が止まる。
その時間停止をザウスだけが知覚できている。
それはただの時間停止ではない。
時の番人、クロノスが立ち会いにきている。
彼が時の停止を決めている。
ザウスとてその理りは、すぐには破れない。
正方形の結界が次から次へとザウスを囲んでいく。
それもただの結界ではない。
解除できないように暗号化された特別製だ。
百個、千個、万個……その透明な結界は公倍数的に増え、何重にも重ねられていく。
やられた……ここまでの結界、一日にして作れるものではない。
長い年月をかけた特別製だ。しかも俺専用の。
クロノスがふっと消える。
また時が刻まれはじめる。
「どういうことだ?」
仮面の冒険者パーティー、ダインたちも呆気にとられている。
彼らもこの所業は聞かされていなかったようだ。
「でかしたダリア! やっと前魔王ザウスを封印できたぞ! 我らの悲願をよく叶えた!!」
「うまくいったわね、ギレッド」
ダリアは表情が変わっている。
先程までとは別人のようだった。
「……ダリア様?」
ニーナも戸惑っている。
「……そういうことか」
「どういうことでございますか、ご主人様? 一体、なんなのこの結界は、今出して差し上げます!」
「無理だ、ラミア」
「その通り。ザウスが言う通りだよ、ラミア嬢。ほら、ダインよそ見していていいのかね」
邪神は魔力によって実体以上に透明な巨大な手を構成している。
巨大な手は指の一つ一つが鋭利な刃物のようになっている。
その手を払ってダインたちを攻撃する。
戦闘が開始された。
「くっ、ご主人様、どうすれば?」
「どうしようもない、ラミア嬢。これからザウスは未来永劫に渡って、この結界内に囚われる」
「お前ら【昏き黄昏】だな」
「如何にも」
ギレッドはニヤリと笑う。
邪神はダインたちが相手をしてくれている。
「お前はまだわかるが、まさか聖女ダリアもそうだとはな」
「ああーー、スッキリした。いくら封印術の力を貯める為とはいえ、記憶制御はキツかったわ。ギレッドに制御解除してもらってやっと本来の目的を思いだせたわ」
「だ、ダリア様?」
ニーナが不安そうにダリアに問いかける。




