第20話 休憩
「少し休憩するか」
魔王城の頂上部、王の間までは後少しだった。
ここまで休みなしで随分と長い間、進んできている。
目に見えない疲労も溜まっているはずだ。
「そうね、ニーナ、私たちも休みましょう」
「はい! ダリア様」
「よし、俺が紅茶を入れてやろう」
「えっ? こんなとこで?」
「こんなところだからこそ。こういうときに余裕を持つことが大切なんだ」
俺は亜空間に置いている茶道具一式を取り出す。
魔法で火をつけ、水を温める。
「ダリア様、怪我はないですか?」
「私は大丈夫よ。それよりはあなたは大丈夫?」
「私は大丈夫です」
「ほんとに……? ほら怪我してるじゃない」
「こんなのなんでもないです」
「ダメよ。はい――」
ダリアは回復魔法でニーナを回復する。
「……ありがとうございます」
「無理はしないでね、ニーナ」
「私の命はダリア様のためにあります」
「そんなこといわないの。あなたの幸せは私の幸せよ」
「……ありがとうございます」
「横からいいか?」
俺は出来上がった紅茶を二人に差し出す。
「まあ、ありがとう」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
「ほら、ラミアも」
「ありがとうございます!」
ズズっとそれぞれ紅茶を飲む。
「美味しい……」
紅茶のいい香りと成分によってリラックス効果がもたらされ、空気が緩む。
「不思議……まるで戦場じゃないみたい……」
「俺の紅茶は特別性だ」
「そうね……あら?」
ニーナはダリアの膝の上でかわいく寝息をたてはじめた。
「緊張の糸が切れたんだろう。こうしてみるとほんの子供だな」
「ええ、無理させてしまってるわ……」
「訳ありか?」
「……彼女は孤児でね。数年前に私が保護したんだけど、早くに両親をなくしてスラムでゴミを漁りながら、なんとか生きてたみたいなの。そのスラムでたちの悪いのに捕まってたみたいで。話を聞くと…………彼女が体験したことは、一言でいうとこの世の地獄ね。だから私以外の人間に心を開かないし、すごく強いトラウマを持ってしまってるの……」
「ニーナじゃないといけないのか? 付き人は」
「できれば子供らしい生活をさせて上げたいんだけど、彼女のほどの強さを誇る人間が教会にもいなくて……」
「上からの命令もあって、仕方なしか……」
「ええ……」
「うーんうーん……」
ニーナがうなされている。
「ニーナは毎晩うなされるの……まだ心の傷が癒えてないわ……」
そこでニーナはばっと飛び起きる。
そして怯えた目で辺りをキョロキョロと見回す。
聖女ダリアの姿を確認すると安心したような表情になる。
「よく寝れたか」
「……う、うん」
ニーナはまだ俺には警戒感が強いらしい。
「休憩か?」
一人の男が通りががる。
こいつは……。
「ああ、そろそろ終わるけど」
「そうか、この先まで突破できているのはお前たちと……」
「後、仮面のパーティーだけだろ。あんたソロか? 名前は?」
「ギレッド。お前はザウスだな。それに聖女様に……ああ、俺はソロだ。一人が気楽でな。じゃあお先に……」
「ああ、俺たちもすぐにいく」
ギレッドは別れ際、ちらりとダリアを盗み見るようにして立ち去る。
その見方がちょっと気になった。
「俺たちもそろそろいくか」
みんな立ち上がる。
それぞれ顔つきが変わり、緩んだ空気が徐々に締まっていった。




