第19話 魔物避け
中階層の広間。
かつて魔族がパーティーを開いていた場所だ。
戦時、ここは戦場へと変わる。
「ここにいるのが参加した全員の冒険者ではないですか?」
「いや、よく見ろ。あの仮面パーティーがいない。奴らだけはここを突破したようだ」
冒険者たちはほとんどがここで足止めを食らっているようだった。
それもそのはずで、パーティー会場にはスケルトンで構成された、非常に強力な魔戦兵が配置されていた。
彼らは従順な戦闘人形で自我は持たない。
知能という面では低いが、戦闘能力は下手したら魔王軍の幹部でも一部は苦戦するレベルだ。
「くそッ! また自動回復したぞ!」
「キリがない! こんな奴らどうやって倒したらいいだよ!」
攻略法はいくつかある。
単純な火力で圧倒して、回復のすきを与えないように、連撃を加えて滅する方法。
強力な支配系能力を使い、魔戦兵の命令術式を書き換える方法。
異空間へ飛ばしてしまう方法。
冒険者たちはみな火力で圧倒しようとしているが、単純に火力が足りていない。
「ふむ。これでは明日になっても、攻略はできないだろうな」
「ご主人様のおっしゃる通りです」
俺はヤクザゴリラのイーゴリの姿を確認する。
どうやら奴も苦戦しているらしい。
いい考えを思いつく。
俺はニヤリと笑みを浮かべる。
「悪巧みですか?」
「わかるか? さっきの借りを返さないといけないからな」
俺は早速仕掛けを施す。
「おい、ヤクザゴリラ」
イーゴリは魔戦兵と鍔迫り合いをしている。
こちらをチラリと見る。
「……もしかして俺のことか?」
「お前以外に誰がいるんだ?」
「ぐっ、殺すぞお前。……ぐぅおおおおおお」
魔戦兵を力任せに弾き飛ばす。
「お前ら魔戦兵、ちょっと抑えとけ」
仲間に指示を飛ばし俺たちに向き合う。
「ちっ、さっきのでくたばらなかったか。たかだがAランクが、ゴキブリみたいにしぶといやつだな」
「随分と苦戦してるな」
「ああ? てめぇもここを突破できてねえだろうが」
「俺はもうおいとまするよ。お前に挨拶だけしとこうと思ってな」
「……どういうことだ?」
俺はお守りをみせる。
「なんだそれは?」
「魔物避けだよ。これが魔戦兵にも効くみたいでな」
イーゴリの目の色が変わる。
「じゃあな。せいぜい頑張れ」
「おい待て。」
イーゴリは俺に剣を突き出す。
「そいつをよこせ」
「渡す訳ないだろ?」
「いいぜ、そしたらな……」
イーゴリの筋肉が盛り上がる。
「力づくで奪うまでだぁ!!」
「うわっ!」
俺は大げさに驚き、後方へステップバックするときにわざと魔物避けを落とす。
イーゴリはそれをすぐさま拾う。
「みんな! 見たか、こいつ俺を殺そうとしたぞ! 同じ冒険者の俺を!!」
「見たかあいつ今」
「ああ、仲間に斬りつけたぞ」
周囲の冒険者たちから声が上がる。
「くっくっく」
イーゴリは不敵に笑う。
「何がおかしい?」
「たとえ冒険者殺しの罪をおったとしても、今回の報酬は欲しいんだよ。今ので告発されたとしてもションベン刑だ。じゃあこれは俺が有意義に使わせて貰うぜ」
イーゴリは自パーティーの方へと戻っていく。
「……さて、じゃあ先に進むか」
「ご主人様、中々の演技でございました」
すまし顔でラミアが述べる。
「さっきの魔物避けではないんだよな」
「えっ、そうなの? じゃあ何?」
ダリアから疑問の声が上がる。
「逆だ。魔戦兵を集める仕掛けをしといた。時限式だがらもう少しで発動するはずだ」
「でも……私たちにだけ魔戦兵は襲いかかってこなかったけど……」
「そりゃ、自らのご主人に襲いかかってこないだろ?」
「そ、そうだったわね……」
「じゃあ、先を急ごう」
その時、魔戦兵が一箇所に集まっていくのが見える。
魔戦兵が集まる中心部から悲鳴と怒号とが上がった。




