第17話 ボストラップ
そこには足に傷を負った女性が地面に倒れていた。
「だ、大丈夫か?」
その時、俺たちの隣りにいる聖女ダリアたちに気づく。
彼女たちも悲鳴を聞いて、助けに駆けつけたようだった。
「いまだ!」
その時、突如掛け声がかかる。
怪我していたはずの女性は後ろに飛び退く。
地面に隠された魔法陣が光り輝くと、俺たちは強制転移させられる。
転移される直前。
俺の目に写ったのは、嬉しそうに笑う、物陰に隠れていたイーゴリの顔だった。
「やられたな。だがこの罠は覚えてるぞ」
「…………」
俺は自信を持って述べるが、ラミアはもう応えてくれない。
「ボストラップだ。そしてその相手は古の邪竜、イビルドラゴンだ!」
「……目の前にいるので、誰でもわかりますが」
「グギャオオオオオオーーーッ!!」
イビルドラゴンは地響きするような唸り声を上げる。
「イ、イビルドラゴン? 伝説の邪竜がなんでこんな所に?」
ダリアは当然の疑問を投げかける。
俺がまだ魔王時代。
何やら悪さをしている邪竜がいるという話を耳にした。
その後、邪竜を倒した後に反省させる為にも、ここに閉じ込めていたのだった。
「久しぶりの肉が食える! 新鮮な人間、しかも女もいる! なぶり殺しながらゆっくり食してやるぞ。悲鳴と泣き声をスパイスになあ!」
全く反省していないみたいだ。
プラス100年の謹慎確定だな。
「ダリア様、お下がりください! 私が相手だ!」
「いいぞ、メスガキの肉が食えるのか! かかってこい!」
「うおおおおおッ!!」
ニーナはハルバードを振りかぶりながら、大きくジャンプする。
「ふん!」
邪竜はその腕を軽く振る。
巨体に見合わず、素早い攻撃だ。
空中のニーナは攻撃をかわせない。
ハルバードで攻撃を防ぐが、大きくふっ飛ばされる。
「ぐっ……」
「はははは! ガキの割には腕に覚えがあるようだが所詮は人間よ! かつては最強を誇った我にかなうはずもなし!」
「こうなったら……」
「やめなさいニーナ! それはリスクが大きすぎる!」
なんだ?
ニーナは力を溜めている。
『理不尽達磨落とし!』
すると――彼女の目の前にダルマ落としが現れる。
「さあああーーーどれを落とす!」
「天国か地獄か? それとも外れかあ!」
ダルマの一つひとつがニーナに向かってしゃべりかける。
「黙れ!」
彼女はハンマーでダルマの一つを弾き落とす。
ダルマの目が白目になって黒目になってを繰り返す。
「ぶっぶーっ! 残念、外れだあー!!」
ダルマは煙に巻かれて姿を消す。
何も起こらない。なんだったんだ?
「よかった……」
ダリアは胸を撫で下ろしている。
「なんだ、もう終わりか? なら今度はこちらからいくぞ!」
「そこまでだ」
俺はニーナとイビルドラゴンの間に立つ。
「なんだお前は……もしかして騎士道精神とやらか? それで早死にしたいなら、望みを叶えてやる!」
「ふん、寝言は寝ていえ。また調教してやるから、さっさとかかってこい!」
「ちょ、調教だと!? 貴様、誰に向かっていっている!?」
「ああ? 俺の目の前に駄トカゲにいってるんだよ」
竜族に対してトカゲ呼ばわりは最大限の侮辱だ。
ラミアに向かっていった日には、ブチ切れられるだろう。
怖くて言ったことはないが。
「こ、こ、こ……」
「こここ? ニワトリかお前は?」
「ぶち殺してやるぅうううううッ!!」
イビルドラゴンは銀色に煌めく炎を、俺に向かって吐き出す。




