第16話 生きた迷宮
「さて」
ティータイムが終わり、俺たちは迷宮の入り口の外れに向かう。
ここまでは兵も展開されていない。
「久しぶりだな、リッチー。元気にしてたか」
俺が声をかけると迷宮の壁がうねりを上げる。
迷宮リッチーは話すことは流石にできないが、こちらがいうことは理解していて、こうしたリアクションをとってくれる。
「それじゃあ、ちょっと通してもらっていいか?」
すると俺たちの目の前の壁だった場所に道ができる。
「よし、進もう」
「はい、ご主人様」
俺たちは特別なルートを通っていく。
相変わらず迷宮からは悲鳴が聞こえていた。
「よし、ついたな。じゃあなリッチー、ありがとな」
またリッチーはうねることで返事をする。
俺たちが通ってきた道は、瞬く間に壁へと変わる。
「まだ……突破者はいないようだな。ティータイムをして丁度いいくらいか」
「そうでございますね、ご主人様」
普通に進むと余りにクリア時間が早すぎると、不審に思われる可能性がある。
ふざけたように見せて、そういった意図もあってのティーブレイクだった。
「あっ、来ましたね」
最初に到着した冒険者パーティーは……仮面を被った冒険者パーティーだ。
素性を知られたら不味いのだろうか?
何やらグランドマスターの肝入りのパーティーらしい。
「ラミア」
「はい」
ラミアも彼らの強さを感じとったらしい。
特に大剣を背中に背負った一人の男。
彼は俺が魔王時代も含めて、冒険者では見たことがないくらいの強さを秘めている。
この時代にこんな強者がいるとは嬉しい誤算だ。
彼らなら口だけのSランクとは違い間違いなく、邪神とも戦いでも戦力になるだろう。
「早いな、あんた」
「たまたま、いいルールが見つかったからな」
「まあ難易度自体はイージーだった。お先」
彼らは入り口の階段に腰掛けている俺たちを追い越していく。
それから少し時間が経った後に、忘却の聖女ダリアとその付き人の少女ニーナが現れた。
ニーナは血だらけになっている。
一体中でどんな戦闘になったんだ?
彼女たちを皮切りに次々と冒険者たちが到着し出す。
「そろそろ俺たちも行くか」
「はい」
その冒険者の中にはイーゴリの姿もあった。
彼はこちらを睨みつけている。
俺たちはそれを無視して、魔王城の中へと入っていった。
「弱ったな」
魔王城に入って最初の感想がそれだった。
魔王城の設計は俺が行っている。
知恵と力があるものだけが潜り抜けられる、その構造は自信作だ。
だか。
俺は魔王城の構造を忘れてしまっていた。
そもそも魔王時代も王の間がある最上階層が生活空間になっており、下層階におりてくることは皆無だった。
「ラミアお前はわかるか?」
「…………」
黙って首を振る。
下層階は至る所に罠があるはずだった。
流石に罠の前までくれば思い出すだろう。
そう思って先に進んだ矢先――落とし穴にハマった。
「こんな所に罠仕掛たっけ?」
「ご主人様が仕掛けたはずでは?」
「まあそうなんだけど……」
気持ちいいくらいに忘れている。
この調子だと他の罠も覚えていないだらう。
落とし穴には俺たち以外に幾人かの冒険者たちもかかっていた。
「おい、この罠全く気付けなかったぞ」
「ああ、大した罠だ。この罠仕掛けた奴は大した手練れだぞ」
「どうだ、ラミア。大した罠だとよ。ふふん」
俺は得意になってラミアに伝える。
「その大した罠をご自身で作って、ご自身で引っかかっていたら世話はないですけどね」
ぐぬぬ。
だが確かにラミアがいう通りだ。
まあだが最初に配置している罠はご挨拶程度だ。
先に進めば即死級の罠が待ち構えている。
俺たちは気を取り直して先に進む。
暫く先に進んだ所だった。
「た、助けてー!」
叫び声が聞こえる。
俺たちは急いで駆けつける。




