第11話 かけられた呪い
「よかった、イルマの自らの成長封印は解かれたようだ」
イルマは泣き腫らした瞳でキョトンとしている。
無意識のうちに自己救済がされたのだろう。
「イルマ、ムギ、この後ラミアお姉ちゃんたちと魔王城にいこうね。魔王城は空の上にあるから飛んでいくからね」
「すごい!」
「にゃにゃにゃ! 空の上にあるのか!」
「その前にちょっとやることがあるけどな」
「……やること?」
「確かにそうですね」
辺りには妖精女王を救出に来ていた冒険者たちの姿はない。
そしてラルフの姿も――奴もどさくさに紛れて逃げ出していて、その姿はなかった。
「ザウス、我々を救ってくれて、どうもありがとう」
そこには本来の輝きを取り戻した、妖精女王アマーリアの姿があった。
「ありがとう」
「ありがとう、ザウス、ラミア」
「ありがとう、ありがとう」
輝く妖精たちが俺たちの周りを飛び回り、感謝を述べる。
黒く変色した木々は本来の姿に戻り、淀んだ空気も澄んだものへと変わっている。
空からは温かな木漏れ日が降り注ぎ、帰らずの森の結界も復活したようであった。
「よかった、帰らずの森も本来の姿に戻ったみたいだな。……まるで200年前のようだ」
「ですが多くの被害が発生してしまいました。年輪を重ねた巨木の多くがキラートレントと化してしまったり、この子たちも一部、ソウルイーターにやられてしまっています。これも一重に私の責任になります」
「女王様は悪くないよ」
「悪いのは植魔の王だよ」
「悪くない、悪くない女王様は」
妖精たちが女王に慰めの言葉をかける。
「私にもっと力があれば……」
「そんなの解決簡単だニャ」
ムギが頭の後ろで腕を組みながら、なんでもないように述べる。
嫌な予感がする。何をいうつもりだ?
「妖精女王も魔王軍に加入すればいいんだニャ。ついでに妖精たちもみんな加入だニャ。そうすればなにかあれば、天空魔王城から天の裁きで――ドカーーン、だニャ!」
パンっと音をたててアマーリアは手を合わせる。
「それは良い考えですね! そうですね、そうしましょう!」
「僕たち魔王軍!」
「天の裁きで守ってもらえる!」
「これで安心!」
俺は頭をかかえる。
「……ダメ? ザウス」
「いや、ダメじゃないぞ。ただ今よりもっと大所帯になってしまうなと思ってな」
「人、多い方が楽しい! イルマ、妖精お姉ちゃんが一緒でうれしい!」
「よろしくね、イルマちゃん」
「よろしく!」
こうして予期せぬ加入者によって、魔王軍は更にその数を増やすことになった。
おかしいな。魔王から転生して人間になったはずなのに、なんで元の魔王軍がその数を増やすんだ?
まあ、それはいいとして。
後、やることは……。
「アマーリア、ちょっとお願いがあるんだけど……」
「なにザウス!? なんでもいって!」
◇
「なあ、ザウス。今ならお前の黄金の扉への再加入。許してやらんでもないぞ」
ギルドでラルフに声をかけられる。
どの面下げてこいつは言ってるんだ?
「するわけないだろ、再加入なんて。聞いた所じゃ、マルティンも脱退したらしいじゃないか」
「いいんだよあんな初心者の根性なしは。あいつは適正がなかったんだよ」
「いや、パーティーリーダーに、刺し殺されそうになったら誰でも脱退するだろ」
「お前なんでそれを……」
傍らのラミアから怒気を感じる。
報酬目当てだろう。
馬鹿らしすぎて相手にする気にもなれない。
「せいぜい新メンバーの勧誘頑張るんだな。じゃあな」
「後悔するなよ?」
俺は無視して、手をヒラヒラとさせながらラルフから立ち去る。
「それではこちら今回の妖精女王救出依頼の報酬、銀貨5枚になります」
俺はイルマが報酬として用意した、なけなしの銀貨を受け取る。
後でお小遣いやらないとな。
「後、今回の依頼はSランクでしたので、ザウスさんはSランクへの昇格試験の資格を得ましたが、如何なされますか?」
「ああ、それはいい」
ランクなどどうでもよかった。
Aランクあれば最低限の便宜は図られる。
「ちょっと待ったーー!」
振り向くとそこには腕組みをして立つ、ラルフの姿があった。
「妖精女王の救出って自己申告だろ? そんなのをギルドは信じるのか?」
「で、ですが帰らずの森が正常化した、という報告は受けていますので……」
「それは俺たち冒険者みんなで、あそこの魔物を倒したのが功績だろうが! なんで大した働きもしてないザウスが依頼達成扱いになってるんだ!」
そうだそうだとラルフに便乗する冒険者たちも出てくる。
「戦闘が佳境に差し掛かったら逃げ出すのが、大した働きといえるのか?」
「そ、そんなのお前ら以外に誰か証人がいるのか? いないだろ! 依頼達成は取り消しだ! 変わりに俺たち黄金の翼を依頼達成扱いに……」
「マルティンを刺し殺そうとしてよくいうな」
ギルド内がざわつく。
「じ、事実無根のことをいうな! 何か証拠はあるのか!!」
まだ公にはなっていないが、マルティンはラルフをギルドへ告発したが証拠不十分となっている。
「じゃあ、女王救出の証拠を出してやろう。アマーリア!」
するとギルド内に花の甘い香りが漂い出す。
無数の花びらが舞いはじめ、輝く妖精たちが飛び交う。
そこに霧の中から現れるように妖精女王が現れた。
ギルド内にいるものは、例外なくアマーリアのあまりの美しさに心奪われる。
「私が妖精女王アマーリアです。今回はそこのザウスに、我々を救ってもらいました。その事実に相違はありません」
「どうだ、ラルフ?」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ」
「わざわざすまないな、アマーリア」
「とんでもない、ザウス。これくらいのこと。それでは失礼しますね」
アマーリアと妖精たちは霧が立ち消えるように消え去っていった。
仄かに花の甘い香りが残っている。
「くっ、覚えてろ!」
捨て台詞を吐いて、バツが悪そうにラルフはギルドから立ち去っていく。
「ご主人様、あの男、これですませるおつもりですか?」
「いや? 当然、すませるつもりはない。ただ仕掛けはもう終わってる」
「仕掛け……ですか?」
「ああ、あいつが一番されて嫌なこと。ある呪いをさっきアマーリアから、ラルフにかけてもらってる」
「まあ! それは一体どんな呪いですか?」
「それはな……」
俺はラミアに耳打ちする。




