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第九話 この御恩は必ずや

 令嬢勇者を加えた同盟は、護衛依頼達成の慰労会を兼ねた歓迎会を開くことになった。


 さしあたって令嬢は今"白骸"と共に風呂で身を清めていた。久方ぶりの暖かい風呂は、疲弊した心と身体を癒した。


「あぁ、気持ちいい……ふふっ、誰かと一緒に入るなんて本当に久しぶりですわ」


 令嬢はすっかり顔が綻んでいた。


「……あ、あの、失礼ですが令嬢勇者さんは今おいくつですか?」

「半年ほど前に16歳になりましたわ。貴女は?」

「15です……1つ歳上、だったんですね……何と言うか、凄く大人びてるというか……私とは大違いというか……」


 "白骸"は自分と令嬢勇者の身体を見比べる。

 肉付きの良い尻、程よく括れた腰、一際目を引くたわわに実った豊満な胸。汚れが落とされ美しさを取り戻した金髪に、多少の疲れがまだ目につくものの美少女と言って差し支えない整った顔立ち。総じて齢(よわい)16の少女が出して良い色気とは到底思えなかった。


「ほんの1、2年前はこんなに大きくはなかったはずなのですけど……」

「うそ……でしょ……? ほんの数年で、こんなに……!?」


 "白骸"の勇者はいまだかつてない程戦慄していた。

 自分と歳が1つしか違わないはずの少女に圧倒的戦力差を見せつけられた"白骸"は、己の貧相な平野に手をやるとしめやかに涙した。



 暫く後、風呂から上がった令嬢は手足以外の下着鎧を身に付けバスタオルを羽織る。どういう訳かこの鎧は己以外の装備や衣類を受け付けないらしく、纏うそばからたちまち灰塵に帰してしまうのだ。試行錯誤した後、マントのように羽織る程度であれば許されるようなので、渋々このような格好に落ち着いたという訳だ。幸いなことに熱や寒さを軽減する効果でもあるのだろう、露出の多さの割にはそういった面での不便さは感じなかった。



「ああ、お待ちしてました。夕食が出来てますよ。今日は腕に縒りをかけて作りましたよ!」


 テーブルに並んだ料理を見た少女2人は揃って感嘆の声を上げる。

 遠征先で手に入れて来た貴重な香辛料(スパイス)を惜しみ無く使って焼かれた異国風の鶏のグリル、数種の根菜や香味野菜を形失う寸前まで煮溶かしたスープ、酢と卵と塩で作られた流行りのソースを添えた新鮮な野菜のサラダ、柔らかい白パンに上等な酒と果実水。

 舌の肥えた令嬢から見ても相当なご馳走であった。

 食欲を刺激する香辛料の香りに、思わず腹が催促の音を立ててしまい令嬢は赤面する。


「さぁ、どうぞ召し上がれ! お口に合えば良いのですが……」

「いただきます……っ! んっ、美味しぃ……!」


 令嬢はスープに口を付ける。一口、暖かいものが喉を通り、その美味さに目を見開く。続いて二口、三口と、瞬く間に令嬢はスープを飲み干してしまった。

 令嬢があまりにも美味しそうに食べるもので、作った"鬼謀"は大層上機嫌になり、お代わりを進めた。


「おう、良い食いっぷりじゃねぇか! 遠慮すんな、いっぱい食って強くなれ!」

「は、はいっ! ありがとうございます……!」


 "暴勇"に促され次々と料理に手を付ける令嬢。マナーもへったくれも無い粗野な男ではあるが、この時ばかりは令嬢もはしたない姿を気にせずに食事に没入出来たので有り難かった。



「──ふぅ、ご馳走さま。皆様のお陰で漸く満たされましたわ。ありがとうございます……!」

「いえいえ、こちらこそあんなに美味しそうに食べていただけたのなら料理人冥利に尽きるというもの。感謝するのはこちらの方ですよ」

「満足したみてぇだな。んじゃ、食べながらで構わねぇから明日以降の話をしようじゃねぇの」


 "暴勇"が音頭を取り、同盟会議が始まった。


「まずはそうさな、手始めに嬢ちゃんの実力が知りてぇ。いきなり依頼(クエスト)を受けようかとも考えたが、その前に俺と打ち込み稽古だな」

「それも良いですけど令嬢勇者さん用の日用品を買い足さないとでは?」

「ふむ……では、明日の午前中は日用品や備品一式の買い出しに、午後からは"暴勇"との稽古でよろしいですな?」

「ち、ちょっと待ってください! その、備品の買い出しをしたいのは山々なのですが……わたくし、生憎と手持ちに余裕が……」


 令嬢は申し訳無さそうに打ち明ける。

 実際、鎧を手に入れてからは多少マシにはなったとはいえ、懐事情は相も変わらず芳しくなかったのだ。


「ああ、それくらいなら同盟の共有財産から出しますよ。所謂先行投資です。返済は出世払いで構いませんとも」

「ここでは常にそうなんです。驚いたでしょう?」


 ああそうだ、と"鬼謀"は包みを持って来ると令嬢へと手渡した。


「新しいマントです。丁度、新調した物が届いてました。どうぞお使いください。貴女にはこれが必要でしょう」

「何から何まで……ありがとうございます! この御恩は、必ずや働きでお返しいたしますわ!」


 頭を深々と下げる令嬢の目には大粒の涙が浮かんでいた。

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