第ニ十一話 免許皆伝と見知らぬ声
主人の死に呼応するかのように、キマイラゾンビは力を失い倒れ込み、グズグズに腐敗してしまった。
「……やぁ、やってくれると思ってましたよ」
「え、へへ……お、お待たせしました……」
"白骸"の勇者は骨竜の頭骸骨に跨がり鼻血を垂らしながら笑顔で返した。魔力欠乏になるほど無茶をした結果であった。
「……ったく、大した奴だぜ"白骸"はよ」
"暴勇"が獣人勇者を抱えながらやって来た。
「うぅ……師匠、面目ありません……」
「最後の一刀、ありゃ見事だったぜ。誰がどう見ても免許皆伝だろ」
「ええ、それに仲間を信じて戦い、充分な時間を稼ぐこともできました。免許皆伝で間違いないかと」
"鬼謀"も頷いた。
以前の彼女であれば、魔法が使えない"白骸"や非力な"鬼謀"を弱者と決め付け切り捨てていただろう。
それが今回、仲間を信じて戦えるようになったのだから、随分と成長したものである。
「あ、ありがとうございます、師匠……!」
獣人の勇者は尻尾を千切れんばかりに振った。
「ンン……我を起こしたのは、そなたか…?」
突如、知らない声がした。
「……? 今の誰?」
"白骸"が周りをキョロキョロとしていると、"鬼謀"ら3人が一様に目を見開いて"白骸"の方を指差している。
「応えよ。我を起こしたのは、そなたか?」
竜 骨 が 喋 っ て い る 。
「……は、はいいい! 私が蘇らせてしまいましたごめんなさいいい殺さないでえええ!!?」
事態を理解した"白骸"は慌てて頭蓋骨から滑り落ちるように降りると即座に骨竜に向かって土下座した。
「よい。表を上げよ。ふむ……して、勇なる者が雁首揃えて、何用か?」
「え、ええと、何用というか、そこの死霊術師を倒すのを手伝ってもらったというか……」
骨竜は手を上げる。踏み潰され赤い染みと化した死霊術師がそこにあった。
それを見て骨竜は大笑いした。
「ふははは! なるほど、そうであったか! 愉快、愉快である!」
骨竜は一通り笑うと"白骸"へと向き直った。
「感謝するぞ、勇の者よ。そなたはこの愚か者と違い、我を従えようとはせんのだな?」
その一言で"白骸"に視線が集まる。
「お、おいどういうことだ? こいつぁ嬢ちゃんが支配してるんじゃねぇのか……!?」
「え、ええとですね……他の骨みたいに支配下に置こうとすると物凄い魔力を消費しちゃうので、色々と手順を端折ったというか、一瞬だけ動けるようにしたというか……そうしたはず、なんですが……」
「左様、我とその娘は主従にあらず。ただ一時呼び起こされたまでよ。ふふ……愉快なり」
骨であるため表情は伺い知れないが、骨竜は上機嫌のようであった。
「で、でも、注いだ魔力が切れたらまた骨に戻りますので……」
「ふむ、それは困るな。……ああ、これだこれだ」
そう言うと骨竜は沼に顔を突っ込み、底から瘴気を放つ結晶を拾いあげ飲み込んだ。
骨だけの身体であるにも関わらず、結晶は喉を通り心臓の位置で止まると、今度は先程とは逆に周囲の瘴気を吸い始めた。
「り、竜の心臓……無限の魔力を発する宝玉ですよ……だとしたら貴方は、古の……!?」
"鬼謀"の細目は度重なる驚愕で見開きっぱなしであった。
「ふふ、これで帰らずに済むでな」
骨竜改め、不死竜と化した竜は、森中の瘴気を吸い尽くすと失われた肉を瘴気の妖炎で補った。
「ふむ、こんなものか。ちと細いが、是非も無し」
「えっと、あ、ありがとうございます」
"白骸"が頭を下げると不死竜は首を傾げた。
「ンン……? 不思議な娘よ。何故感謝する?」
「……そこから先は私が説明致しましょう。偉大なる御方よ」
"鬼謀"が代表して前に出ると全員の紹介と、ここに至るまでの経緯を話した。
「──ということです。恐らくですが、貴方の心臓から漏れ出た魔力が瘴気と化し、森全体に拡がったことで動屍体が発生していたのかと」
「ふむ、我の瘴気に当てられ動屍体がなぁ……」
「はい、瘴気を納めていただき感謝いたします」
"白骸"は再び頭を下げた。
「よい。全ては我の為すがままよ。それはそうと、娘。そなたは勇の者でありながら、闇の魔術師でもあるのだな。だが……我を殺した闇の魔術師とは、些か違うようだ。……ああ、そうか。故に我を呼び戻せたか。ふふ、愉快なり……」
「それってどういう……?」
"白骸"が首を傾げていると"鬼謀"がまたもや目を見開いた。
「もしや……偉大なる御方よ、"光輝"の勇者はご存知でしょうか? 当代の聖剣の担い手です」
「その呼び名は、知らぬ。だが、光り輝く聖剣の使い手ならばよく知っておる。我に痛打を与えし勇の者。見事なものよ」
「じゃあ、貴方は"光輝"の勇者に倒されたってこと?」
"白骸"の言葉を聞き、不死竜の顔が近付く。
「言葉には気を付けるがよい。我を殺したのは聖剣使いにあらず。その傍らにいた、闇魔術師よ」




