第十九話 Beat the Amalgam
ローブの男……死霊術師の命令に応えるかのようにキマイラゾンビが吼える。
無数の生物の声が混じり合ったようなおぞましい咆哮を聞いてしまい、"白骸"は身が竦んだ。
「しゃらくせぇッ!!」
"暴勇"は全く怯まず目の前の驚異に向かって駆け出し、大剣を胴体に叩き込む!
だがしかし、動屍体であるキマイラは全く意に介していない!
キマイラは腕を振るい"暴勇"を叩き潰そうとするも、彼は咄嗟に大剣を盾にすることで難を逃れた。
「クソッ! 全然効いてねぇ!」
「"白骸"の、どうにかできませんか?」
"白骸"は魔法を試してみた。が、しかし──
「……駄目です! やはり動屍体と同じく、コントロールを奪えません!」
"白骸"の骨を操る魔術は、例え動屍体であろうと『活動しているもの』に対しては機能しないのだ。
一度倒して魔力のパスを切る必要がある。
「貴様、死霊術師か? 無駄なことを。この森一帯は、既に我が支配下である。……力量差がわからぬ程愚かではあるまい?」
死霊術師が"白骸"に手を向けると、肩に乗せていた骨鼠がカタカタと震え出した。
「っ!? ごめん!」
一瞬、魔力のパスを通じて自分のものではない異質な魔力が流れ込んで来る嫌な感覚を覚えた"白骸"は、慌てて骨鼠を振り落とすとその頭を踏み砕いた。
──恐らくだが今、コントロールを奪われそうになったのだと"白骸"は直感で理解した。そして同時に相手との力量差を理解らされた。
「チクショウ! おい"鬼謀"! 何か策は無ぇのか!?」
"暴勇"がキマイラの気を引きながらひたすら斬り続ける。
──が、斬りつけた部分が早くも再生している。生半可な傷では回復速度の方が勝り、致命傷にはなり得ないということらしい。
「私を、忘れるなぁ!!」
吹き飛ばされていた獣人勇者も復帰し、攻撃に加わる。
だが、それでもキマイラを倒すには至らない。
「これは……非常に不味いですね」
"鬼謀"も援護しながら必死で頭を回した。
およそ想定していた中でも最悪のパターンであり、用意していた策が悉く使えなくなるという泣き面に蜂な状況であった。
「(命を預かると啖呵を切っておいて、何て様だ。逃げることは、不可能……むしろここで奴を見逃したら、どんな被害が起こるか想像もつかない……!)」
動屍体との戦闘を想定してガソリンは持ってきているものの、あの大型のキマイラを仕留めきれるような量ではない。
ましてやそれを死霊術師が黙って見てるとは思えない。
「せめて……せめてあの死霊術師さえ倒せれば……っ!」
「……死霊術師を倒せば良いんですね?」
「"白骸"の、貴女何を……?」
「答えてください。死霊術師さえ倒せれば勝てるんですか……!?」
言葉を途中で遮り、"白骸"は迫った。
「……ええ、見たところあのキマイラは術者からの魔力供給を受けて動いています。それが同時にあの驚異的な耐久力の源かと。しかし、主人を狙おうとするとキマイラが守る、と……"白骸"の、一体貴女はどうするつもりですか?」
"鬼謀"は目の前の少女に目を向ける。
「……少し、時間を稼いでもらっていいですか?」
「何か思い付いたようですね?」
"白骸"は目を見て頷いた。
実際、それは策と言えるかも怪しい試みだったが、"白骸"は己の直感を信じてみることにしたのだ。
そしてそれは、他の誰でもない、自分にしかできない役割だった。
「はい……死霊術師は、私がやります」
"白骸"の宣言に"鬼謀"は目を見開いた。
そんなの無茶だ、出来る筈がない……と、"鬼謀"は内心思ったものの、"白骸"の決意の籠った眼差しには信じてみたくなる凄味があった。
「……わかりました。貴女のことを信じましょう。可能な限り、時間を稼いでみますとも」
「ええ、お願いします!」
"白骸"はそう言うと森の中へと姿を消した。




