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第四話 駆け出し少女と勇者の天啓

 入ってきたのは──白い髪の少女であった。格好と装備の真新しさから察するに、駆け出しの冒険者のようだ。しかし小柄で童顔なせいか、より一層幼く見えた。


「いらっしゃい。……っと、ここは嬢ちゃんのようなガキが来るところじゃねぇぞ」

「……成人の儀は済ませてます。お酒と、何か摘まめる物を」


 店主から子供扱いされた少女は、腹立たしげにそう告げると酒場の隅のカウンター席──奇しくも"鬼謀"の隣に座った。


「こんばんは、お嬢さん……おや、表情が優れませんね? 何かありましたかな?」

「……どうも。今は少し飲みたい気分なんです」

「それはそれは……一杯奢らせて頂きますので、差し支えなければ事情を聞かせていただいても?」


 我ながら胡散臭いなと内心苦笑つつ、"鬼謀"は果実水を頼んだ。


「結構です……ッ、ケホッケホッ」


 少女は酒を一口含むと、その酒精の強さに堪らず噎せた。


「……背伸びしたい気持ちはわかりますが、無理をしてまで飲まなくてよろしい」


 そう言うと"鬼謀"は少女の酒を取り上げると自分が頼んだ果実水と取り換えた。


「せ、背伸びなんてしてませんっ! 返してください!」

「いけません」首を横に振る"鬼謀"。

「どうして……!?」

「お酒は楽しんで飲むものです。辛いことからの逃げ道に使うものではありません。……そこを履き違えると、間違いなく破滅しますよ?」

「っ……」


 見ず知らずの男に諭され少女は閉口してしまう。


「……ですが、気持ちを和らげる助けにはなります。ここで会ったのも何かの縁。どうでしょう、私に胸の内を話してみては? 多少は気が楽になりますよ」


 少女は少し俯き、そして決心したのかポツリポツリと話し始めた。


「……私は、勇者です。先日、成人の儀を迎え天啓をいただきました」

「ほぉ、それはそれは……」


 この世界では15歳で成人の儀を迎えると、女神から己の天職を『天啓』という形で知らされる。自分が最も才能や適正を活かせる職を天から啓示されるのだから、実に有難い話だ。


 勿論、天啓の内容に納得がいかなければ、己の望む道を見つけて進む自由もある。茨の道であるのは否めないが、仮に天啓に従っていたとしても、必ずしも万事上手くいく訳でもなし。食うに困って冒険者に身を落とす輩も多いのが実状であり、その大部分の末路はと言うと……語るに及ばずである。


「でも私は、勇者なんて器じゃないんです。だって勇者は、いつも最前線に立って、どんな巨大な敵にも勇敢に立ち向かい、仲間を鼓舞して、最後まで絶対諦めない。……そういう職業でしょう? わ、私には無理です……」

「ふむ……しかし、貴女は『勇者』という天啓を授かった。少なからず何らかの素質があるはず……」

「才能なんてっ! 私に出来ることなんて……こんな、忌み嫌われるようなことしか……!」


 そう言うと少女は皿に乗った食べかけのウズラの丸焼きに手をかざした。こんがり焼かれたウズラから独りでに肉が離れ骨だけの姿になり、生前同様にテーブルの上を歩き始めた。


「これは……死霊魔術(ネクロマンシー)ですか」

「勇者は、こんな()()()()()なんか使いません……私はっ、勇者なんかじゃありません……!」


 少女はここに来るまでの出来事を涙ながらに語り始めた。

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