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第三話 "鬼謀"の勇者

「そう言う貴方は"暴勇"の勇者」


 斥候(スカウト)あるいは野伏(レンジャー)めいた軽装に身を包んだ、どこか胡散臭さを感じる黒髪糸目の優男。

 "鬼謀"と呼ばれたこの男もまた勇者であった。


「お前が独りとは珍しいな臆病者(マンチキン)。いつもの取り巻きはどうしたよ?」

「それ、自分にも刺さってることに気付きませんか?」

「あ……チッ……」


 皮肉のつもりが自らに返ってきたことに"暴勇"は苦い顔をする。


「……まぁ、貴方になら良いでしょう。先程、一党(パーティー)を追放されましてね」

「へぇ、そいつは御愁傷さんだな」


 "暴勇"は皮肉ったらしい態度で返すも、本心は目の前に居る自分と同じ境遇の勇者(おとこ)に興味が湧いていた。


「『犠牲を考慮しない勇者にはついて行けない』と言われました。……私としましては、これでも最善を尽くして来たつもりでしたがね」

「……今度は何をやったんだ?」

「何も。いつも通りですよ」


 "鬼謀"の勇者の『いつも通り』と聞いて"暴勇"は顔をしかめた。

 彼の勇者は常に『犠牲を前提』に戦術を組むことで有名だった。自爆や囮は当たり前、時には奪還対象の村を焼き払ってまで敵を殲滅する。

 盤上遊戯(ボードゲーム)で例えるなら、PC(やる側)としては正しい判断かもしれないが、仲間やGM(やられる側)からしたらたまったものではない。


「犠牲の無い戦いなど無いというのに……」

「余計な犠牲を増やすなって言ってんだよ。……ったく、そりゃ愛想尽かされるわ……」

「そう言う貴方こそパーティーに愛想尽かされてるじゃあないですか」

「ぐっ……」


 "鬼謀"の情け容赦の無い口撃に"暴勇"は閉口した。皮肉に関しては、この男に勝てる道理がなかった。


「こう見えて噂には耳聡いものでしてね」

「……俺は悪くねぇ」


 "暴勇"は酒を呷り、本日何度目かわからない自己弁護の言葉を絞り出す。


「……聞かせてもらいましょう」


 "鬼謀"はそう言うと隣に座り、酒を注ぐ。彼もまた、自分と同じ境遇の勇者(おとこ)に興味が湧いていた。


「俺は悪くねぇ……俺は最強の勇者だぞ。俺が敵陣に突っ込めば、それだけで(カタ)が付いてたんだ……」

「ええ、そうでしたね。"暴勇"の由来にもなったその武勇は、私も良く知ってますとも」

「……けど、いつの間にか勝てなくなってきた……俺は弱くなんかなってねぇ……最強なんだ……」


 再び酒を呷る"暴勇"。空いたグラスに酒を注ぎながら"鬼謀"は続きを促した。


「俺は悪くねぇ……あいつらが、仲間が悪かったんだ。盾役の重騎士はすぐにへばる根性無しだったからクビにしてやった。弓士は俺が調子ノッて来た頃に限って誤射しやがって……それを責めたら、今度はビビって全然火力として役に立ちやしねぇ。黒魔術師、あの優等生は……頭目(リーダー)の俺を差し置いて活躍しやがるのが心底気に入らねぇ。俺に仕事させねぇとかふざけてんのか? 調教師のガキに関しては金食い虫の穀潰しだったし、魔法使いの付与魔法は結成当初は有り難かったんだが、最近じゃ効いてるんだか効いてないんだかさっぱりだ。ありゃぜってぇサボってやがる。だから、俺は悪くねぇ……」


「……なるほど、そうでしたか。(……後半は私怨と人を見る目が無いのが原因のようですが、言うだけ野暮という奴ですかねぇ……)」


 "暴勇"のあまりの稚拙さに"鬼謀"は閉口してしまった。


「(しかし、どうにも妙ですね……私の情報が正しければ、あれほど優秀な魔法使いの付与魔法が効いてるかどうかわからない、というのは少々気になりますな……サボっているようには思えませんが……)」


 未だ確証は無いが"鬼謀"の脳裏に違和感を感じていた。


「"暴勇"の、少々気になることが……」

「……れは……悪くにぇ……グゥ……」


 酔いが回ったのか話し疲れたのか"暴勇"は突っ伏して既に寝息を立て始めていた。


 "鬼謀"は肩を竦めた。しかし、ここで彼を捨て置いて帰るほど"鬼謀"は無慈悲にはなれなかった。──このまま自分が去れば、この男は朝には心無い輩に身ぐるみを剥がされてることだろう。


 暫く寝かせてやろう……"鬼謀"はそう思い自分用に追加の酒を頼もうとした矢先、酒場の扉が開いた。

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