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99話

 直後、影濊えいせから立ち上る魔力が一気に膨れ上がった。

 マギブースターの効果によって、目に見えるほどに魔力の増幅を果たしている。


「……へえ」


 九音くおんを蹴り飛ばして退かし、クロガネは感心したように声を漏らす。

 反魔力圏内にいるというのに、手に持った剣型対魔武器に黒い霧のようなものを纏わせていた。


 大罪級程度の魔力はあるだろう。

 反魔力圏内にいても、自身の手元であれば魔法を行使できている。


 剣型対魔武器に付与を行って戦うのが本来のスタイルなのだろう。

 その佇まいは洗練されており、先ほどよりも表情に余裕があるように見えた。


「あたしの剣は大罪級にも効く……覚悟しろッ」


 地を力強く踏み込んで瞬時に距離を詰めてきた。

 マギブースターによって保有魔力が高まっている間は、その量に応じて身体能力も向上するらしい。


 突き出された剣を躱そうとして――クロガネは体を大きく捻って動きを反転させる。


「……チッ」


 剣が腕を僅かに掠め、一筋の血が伝った。

 通用するだけの威力を持っている。


 忌々しげに後方の廃ビルに視線を向ける。

 躱す方向を予測して照準を構えていたらしい。

 この連携があれば、確かに生半可な練度では太刀打ちできない。


 先に狙撃手を片付けるべきだろう……と、クロガネは嘆息する。


通信士オペレーター、他に狙撃手は?」

『一人だけだ。増援は?』

「必要ない」


 そう言うと、クロガネは手を翳し上げ――。


「機式――"シュテトスコープ・ヴィレ"」


 銃身の長い大型の機式武器――重量、サイズ共にフェアレーターに匹敵するほど。

 その上には大きなスコープが搭載された、いわゆる狙撃銃だ。


 相手が遠距離にいるならば、こちらも狙撃銃でやり返せばいい。

 クロガネは探知範囲を拡大させ、狙撃手の位置を正確に把握する。


『狙撃手が柱に隠れた。鉄骨が入ってる』

「問題ない」


 遮蔽物ごと撃ち抜けばいいだけのこと。

 クロガネは弾を込め、さらに『破壊』の力を上乗せしていく。


「よそ見すんなッ――」


 影濊が襲い掛かってくるが、探知圏内では相手の動きが手に取るように分かってしまう。

 狙撃手が柱に隠れている現状、彼女一人では脅威にならない。


 手加減せずに剣を蹴り飛ばし、体勢が崩れたところにもう一度蹴りをお見舞いする。

 ほんの数秒でも隙があれば十分だ。


 銃口を廃ビルに向け、スコープを覗き込む。

 すると、狙撃をアシストするように様々な情報が表示されていく。


 遠距離でも心音や呼吸音を拾い、さらに熱やエーテルの反応があればそれもスコープに映し出すことができる。

 どうやら狙撃手は隠れている柱の後ろにESS装置まで展開させているようだった。


「用心深いね――」


 容赦なく引き金を引く。

 敵対した時点で生かしておくつもりはないが、寝返った無法魔女アウトローたちが持っていない有益な情報があるかもしれない。


 弾は廃ビルの壁も柱も、ESS装置さえも容易く撃ち抜いて狙撃手の脚を穿つ。

 間髪入れずにもう片方の脚も撃ち抜いて、即座に通信を入れる。


通信士オペレーター? 回収班を向かわせて」

『了解。良い腕だ』


 約五百メートルの狙撃も、シュテトスコープ・ヴィレによる補助があれば外すことは無いだろう。

 これだけでも暗殺等の依頼をこなせそうだった。


「……続き、するんでしょ?」


 体勢を立て直した影濊に視線を向ける。

 狙撃手が無力化されたことで怯んでしまったのか、先ほどまでの気迫は感じられない。


「その、銃を呼び出す魔法……"禍つ黒鉄"なのか?」


 完全に戦意を失っている。

 剣に魔法を纏わせているものの、その刃先は地面に向けられている。


「それが何か?」

「戦慄級が出張ってくるなんて聞いてないって! なぁ、同業者のよしみで見逃してくれないか?」


 金なら幾らでも払うから……と、影濊はこちらの反応を窺うように引き攣った笑みを見せる。

 敵意がないことを示すように剣も放り投げて手をヒラヒラと振る。


 これまでの戦いが手加減されていたのだと気付いたのだろう。

 事実として、クロガネは彼女に対して『死渦しか』の一本のみで対峙していた。


 機式を呼び出すこともせず、さらに言えば『能力向上』や『思考加速』さえ使っていない。

 経験を積むため、接敵した時点で全ての魔法を解除していた。


「命は取らない。後の事はアダムに聞いて」


 事実上の死刑宣告だ。

 裏切り者に対して、アダムは極めて残酷な顔を見せる。

 もし奇跡的に許されたとしても、その後の人生はガレット・デ・ロワの奴隷として生き続けることになるだろう。


 高い報酬になびくのは仕方がない。

 とはいえ、自分が付くべき相手を誤るとこうなってしまう。


「ならッ――」


 影濊は地面に転がっている剣を器用に蹴り上げてキャッチする。

 決死の特攻を仕掛けようとしているようだったが――剣を構え終える前に銃声が鳴った。


「ッ……うぐぅッ」


 腹部を抑えて影濊がうずくまる。

 微かな表情の変化から、剣を拾い上げることを予測できていた。

 そのおかげで、エーゲリッヒ・ブライに持ち替える動作にも余裕を持てた。

File:愚者級『影濊えいせ


ガレット・デ・ロワから荒仕事を任されていた無法魔女アウトロー

上級-剣型対魔武器『黒染くろぞめ』に自身の持つ魔力を上乗せした特殊な剣術を得意としている。

周囲の影を操る能力を持っている。

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