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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
3章

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94話

 アダムは椅子に腰掛けて葉巻を取り出す。

 火を付けようとカルロがナイフとライターを取り出すが、必要ないとジェスチャーで伝えてきた。


「こういう嗜好品ってのはな、一から十まで自分で愉しむモンだ」


 切れ味の良いパンチをヘッドに捩じ込む。

 その所作は乱雑なようで、どこか拘りがあるようにも見えた。


 マッチを取り出して火を付け、先端部分を炙っていく。

 丁寧に仕上げてから口もとに運んで、アダムは葉巻を燻らせる。


「かぁーっ、たまらねえな。お前さんも要るか?」

「そっちは好みじゃない」


 クロガネは誘いを断って、カルロに視線を向ける。


「あぁ、すぐ持ってくる」


 お気に入りの煙草――ピスカは彼を通して仕入れている。

 手間賃を惜しむほど金銭に困っていないため、定期的に仲介を頼んでいた。


 退室したカルロを見送ると、アダムに視線を向ける。


「随分と好き放題されてるんじゃない?」

「威勢の良い無法者が流れてきたみたいでなぁ」


 そう言いつつも、アダムの表情には余裕の色が窺える。

 ガレット・デ・ロワは新参のシンジケートより遥かに繋がりが多い組織だ。


「どれくらい把握できてるの?」

「敵組織の名前から人数、顔写真まで全部だ」


 隠蔽工作は下手らしい……と、アダムは笑う。


「だがな、ありゃ弱小の動きじゃねえ。金食い虫の殺し屋……いや、戦争屋を雇ってやがる」

「専属の無法魔女アウトローでもいるの?」


 ガレット・デ・ロワほどの組織を圧迫するほどの脅威だ。

 危険な要素は可能な限り知っておきたい。


「マジモンの無法者アウトローだ。ヴィタ・プロージットって名前に聞き覚えは?」


 クロガネは首を横に振る。

 聞き覚えのない組織の名前だ。


「奴らは人間だが、魔女狩りの専門家でもある。一応お前さんにも忠告しておくが……三白眼の男には近寄らない方が身のためだ」


 詳しい情報は後で渡す……と、アダムは続けた。


 と、そこで応接室のドアがノックされる。

 既に『探知』しているため、用件は尋ねるまでもない。


「今日は手土産がある」

「気が利くじゃねえか。いったい何を持ってきてくれたんだ?」


 ドアを開けると、回収班の男たちが拘束された魔女――先ほどの売人を放り込んだ。

 無力化してから故障車両の傍らに寝かせていたのだ。

 まだ気を失ったままだったが、乱暴に投げ入れられた衝撃で目を覚ます。


「相手側と繋がりがある売人……まあ、あまり深い事情は知らなさそうだけど」


 既にMEDが取り付けられて魔法は発動できない状況だ。

 もし拘束を外したとしても、アダムならば早々危険な目には遭わないだろう。


「……それと、これを」


 煌性発魔剤の入った箱を投げ渡す。

 アダムは中身を取り出すと、興味深そうに注射器を眺める。


「奴らの資金源か?」

「多分ね」


 マギブースターという名称で周辺地域内の無法魔女アウトローに流通させている。

 大元を辿るには時間が掛かるだろうが、ガレット・デ・ロワの情報収集能力があれば問題ないはずだ。


「ほお、魔女にだけ効くヤクなんてモンが……」


 使用リスクに釣り合うほどの効果は見込めない。

 あくまで依存性を高めることを目的とした成分配合だ。


 それでも一時的に魔力を高められるのは無法魔女アウトローにとって魅力的なのだろう。

 危険なクスリだと知った上で頼るような者もいるかもしれない。


 アダムは回収班の男たちを手招きして、売人を指差す。


「そいつの拘束を外せ。MEDもな」


 命令は絶対だ。

 危険だと進言することも許されない。


 拘束を外された魔女が、アダムの前に引きずり出される。


「お前さん、ウチのシマで売人紛いのことをしてたらしいな?」

「え、えっと……その……」


 殺気に当てられ、露骨に体を震わせている。

 本来なら魔女である彼女の方が強いはずだというのに。


「マギブースター……大層な代物じゃねえか。こんなモンが氾濫してりゃ、野良の無法魔女アウトローを雇っても戦力にならねえ」

「私はなにも知らなくて、ほ、本当に……」

「あぁ?」


 アダムは苛立ったように眉間にシワを寄せ、顔を近付ける。


「ガキが覚悟も無しに足突っ込んでんじゃねえ。お前さんが何を仕出かしたか……それだけにしか興味はねえんだ」


 以前から繋がりがあった無法魔女アウトローも、何人か連絡が途絶えてしまった。

 ガレット・デ・ロワにとって大きな損失を生み出す悪事の片棒を担いでいたのだから、そんな易々と見逃せるはずもない。


「ヤクで懐柔なんざ素人の仕事だが、モノがこれなら頷けるってもんだ。背後にどデカいのが潜んでるかもな」


 葉巻を燻らせ、煙を魔女に吹き掛ける。


「……で、だ。オーレアム・トリアについて吐ける情報はあるか?」

「本当に、取引相手の名前もなにも知らなくて……えっと……」


 末端ではこんなものだろう。

 通信器機さえ所持していないため、これ以上の尋問は無意味だ。


 アダムは注射器にマギブースターのスロットを一つ装着する。

 そして、魔女に投げ渡した。


「こいつはお前さんが持っていたモンだったな」


 これを使えば魔力が一時的に高まる。

 危機的状況から脱する唯一の手段が目の前に転がっている。


 アダムは懐から銃を取り出して魔女に見せ付ける。


「このリボルバーに弾を込めている間だけ自由をくれてやる。頭を使ってみろ」


 ほんの僅かな猶予でしかない。

 悩むよりも先に、魔女は注射器に手を伸ばす。


 彼女もまた、マギブースターを常用しているのだろう。

 その手つきは随分と手慣れていて――。


「うぁっ――」


 一瞬だけ魔力が乱れ――膨れ上がる。

 元の状態から二割増しくらいにはなっているように見えた。


 CEMケムの研究施設にあったものならば、下手をすれば数倍まで高めることができただろう。

 さすがに見劣りするものの、実際の性能を目の当たりにしてみると悪くない。


 アダムは興味深そうに魔女の様子を眺めているが、そちらに集中していて弾を込める素振りを見せない。

 そうしている間に魔女はクスリの効果を安定させて決死の覚悟を――。


 唐突に銃声が響く。

 装填されていた対魔弾が腹部を穿ち、魔女はたまらず倒れ込む。


「こりゃ随分と面白いクスリだな?」


 シリンダーにはきっちりと対魔弾が五発込められていたらしい。

 初めから自由など与えられていなかったのだ。


 痛みで動けなくなった売人の魔女を見下ろして、アダムが愉快そうに嗤う。

 そして回収班の男たちに視線を向ける。


「コイツは"知ってる目"をしてる。吐くまで拷問にかけてやれ」

「は、はいボス!」


 男たちはMEDを付け直してから部屋の外に連れていく。

 彼女の末路は尋ねるまでもないだろう。


 彼らしい残忍なやり方だ……と、クロガネは肩を竦めた。

File:マギブースター-page2


本来の魔力量の二割増し程度に向上させる性能を持つ。

思考の働きを鈍らせるが五感を遮るような薬物ではないため、痛覚はまともに機能している。

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