表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/331

92話

「遅い」


 クロガネは苛立ったように呟く。

 彼が遅れたせいで面倒な状況になってしまった。


「悪い悪い、色々あったんだ」


 カルロの衣服はやや乱れており、息遣いも荒い。

 どうやら一悶着あったらしい。

 遅刻の言い訳になるかは内容次第だ。


 いつの間にか気絶していた売人を放ると、カルロに煌性発魔剤を投げ渡す。


「これ、そっちで関わってる?」

「知らないな。ボスに聞けば何か分かるかもしれねえが……」


 フィルツェ商業区はガレット・デ・ロワの縄張りだ。

 堂々と踏み荒らせるような無謀な組織はそういないだろう。


「……多分、オーレアム・トリアの仕業だ」


 カルロは困ったように肩を竦め、嘆息する。


「なあ、このクスリは何なんだ?」

「煌性発魔剤。魔女に使うと一時的に魔力を向上させる……けど、これは混ぜ物がされた粗悪品」


 売人は"マギブースター"と呼んでいたが、成分構成比は混ぜ物を除けば同一のものだ。

 アモジの研究施設は完全に破壊されたはずだったが、どこか別ルートから流れているのだろうか。


「そんなご大層なモンなら、無法魔女アウトロー向けにさぞ高値で売れるんだろうな」

「本来の煌性発魔剤ならそうだけど。これは多分……」


 麻薬としての側面が強い。

 魔力向上による高揚感とエルバーム剥薬による抑制効果によって依存を煽るようなクスリだ。

 効果もある程度は見込めるだろうが、結因の時のように二段階も災害等級を高めるほどの効果は無い。


 とはいえ、他で扱われていないような希少性の高い薬物であれば、シンジケートとしての稼業に都合が良い。

 実際の効能を知らない魔女は良いカモだ。

 そういった相手を狙って、混ぜ物によって依存性を高めたりしてまで広めたいらしい。


 倒れている売人も中毒者の一人なのだろう。

 殺気を向けられても反応を示さないというのは、鈍感という言葉を用いるにしても異常な範囲だ。


「ガレット・デ・ロワのお膝元で、こんな愚行を許してるの?」

「ここ最近出来た組織なんだ。こっちでも調査してるんだが……末端ばかりで本体を掴めてない」


 遅刻した理由も移動中に襲撃を受けたからだ……と、カルロは申し訳なさそうに言う。

 その様子から嘘を言っているようには見えない。


「一人で?」

「いや、ベルナッドと一緒だ。あんたも前に顔を見たはずだ」


 そう言われて、クロガネは始めて受けた依頼のことを思い出す。

 性的なサービスを伴う酒場『白兎亭』の受付を任されていた、スキンヘッドの大男――ベルナッド。


 元々は使い捨ての準構成員だった。

 だが、あの一件で色々と知ってしまったせいか、最近は構成員と直に関わるような仕事を多く任されているらしい。

 とはいえ、大半は足役としてドライバーを務めているらしい。


「まぁ、襲撃者は俺一人で追い払ってやったんだけどな」


 カルロは胸を張って言う。

 冗談めかしているが、掠り傷の一つもせずに返り討ちにしたことは称賛すべきだろう。


 死地を乗り切ることにかけては、あのアダムからも一目置かれている男だ。

 銃撃戦も人並み以上の腕がある。

 運の良さだけに留まらない"何か"があるのだろう。


 カルロは受け取った煌性発魔剤をじっと見詰める。

 これまで流通していなかった薬物だ。


 何故このタイミングでクロガネに接触したのか。

 ここに予め魔女が現れると分かった上で声をかけたのだろうか。

 さらに言えば、合流するために向かっていたカルロたちにも刺客が差し向けられている。


「……内通者がいるのか?」


 外部の人間では知り得ない情報だ。

 疑惑が浮かび上がってしまい、組織内部まで探る必要性が生じてしまった。


「で、依頼内容は?」


 大体の想像は付いているが、一応尋ねる。

 規模の大きな話になりそうだった。


「ああ。頼みたいのは、最近ウチのシマを荒らしているシンジケート……オーレアム・トリアを潰すのに協力してほしい」


 組織間の抗争に手を貸してほしい……と。

 内容自体は至ってシンプルだ。


「報酬は相場の五倍出す。また、あんたの力を借りたい」

「分かった。引き受ける」


 ガレット・デ・ロワは裏懺悔と直接の繋がりがあるような組織だ。

 クロガネ自身も武器類の仕入れなどで利用している。

 断る理由は無い。


 大規模な殺し合いの依頼となれば、魔力を高める良い機会にもなるだろう。

 相手側も外部から無法魔女アウトローや殺し屋を雇うはずだ。


「恩に着るぜ。車は近くに停めてある」


 アジトで詳しい話をしたい……と、カルロが言う。


 さすがに正規の構成員に内通者がいるとは思い難い。

 仮にいたとしても、あのアダムの懐で野放しになっているとも思えなかった。


 路地から少し離れた場所に古びた車が停めてあった。

 襲撃にあったせいかスクラップ同然の見た目だ。

 その傍らでは、ベルナッドが車体を眺めながら唸っていた。


「戻ったぞ」

「おぉ、カルロ! ……と、禍つ黒鉄」


 急に顔を青ざめさせて、ベルナッドは胃の辺りを抑える。

 以前ドライバーを務めた際にトラウマを刻み込まれていたらしい。


「何か不満でも?」

「い、いやいや! 俺はむしろ大歓迎で、えーっと……」


 視線を泳がせて、そのまま車の方に向ける。


「あぁそうだ! さっきの襲撃でタイヤがやられちまったみたいなんだ」


 必死に指を差してアピールする。

 彼の言う通り、車体前方右側のタイヤが酷く歪んでいた。


 とても走行できる状態ではない。

 ゴム部分は大きく破損して、ホイールも曲がってしまっている。

 放棄する他にないだろう。


 だが、カルロは首を振る。


「置き捨てるのはマズいな。ここから探られると、懇意にしてる修理屋に迷惑をかけることになる」


 うまく切り抜けてくれるだろうが……と、カルロは続けた。

 痕跡を残してしまうと、魔法省に組織を探らせる手掛かりになってしまうだろう。


「下っ端連中に片付けさせるにしても時間がかかるか……」


 カルロは手早く座標付きのメッセージを送信する。

 証拠を隠滅させるにしても、先にオーレアム・トリアか魔法省あたりに嗅ぎ付けられてしまいそうだった。


「なら壊せばいい」


 クロガネは車体のドア部分に手を添え――『解析』

 内部でドアハンドルと連結している箇所に『破壊』を行使し破損させる。


 これならば、端から見ればただの放置車両だろう。

 訝しんだとしても、バールでも携帯していない限り人間の力では抉じ開けられない。

 他のドアも全て破損させ、時間稼ぎ用の細工を終わらせた。

File:ベルナッド


『白兎亭』の受付役を任されているスキンヘッドの大男。

図体こそ大きいが気は小さく、抗争などで撃ち合いが始まった際は隅で震えて隠れている。

黙っていれば屈強な用心棒に見えるため、置物としてアダムから便利に使われている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ