表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/312

9話

 面倒なことになった――と、クロガネは歯軋りする。

 色差魔も厄介な相手ではあるのだが、それ以上に、脱走したことがあの男にバレることの方が最悪だ。


 もしかすれば首輪を遠隔操作出来るかもしれない。

 どこまで高性能なのか、現時点のクロガネでは『解析』しきれていないのだ。


「……退かないなら殺す」

「おーこわ。でもあたしだって、仕事を放棄するわけにもいかないし~」


 腕に自信があるのだろう。

 魔女の中でも上位の魔力を持っていて、更にそれを生業として世を渡っているのだ。

 豆鉄砲で脅したところで逃げるような手合いではない。


「……ッ」


 面倒だ、とクロガネは苛立ちを露にする。

 首輪に繋がれた状態で、大罪級の魔女を相手にどれだけ戦えるのだろうか。

 同じ等級でも、機動試験で用意された魔物とは大きく異なる。


 魔女を相手にする時、最も厄介なのは知性があることだ。

 狡猾に罠を張り巡らせて待ち構える者もいる。


 現時点で、色差魔を中心に何らかの魔法が展開されているのは明らかだ。

 鮮やかなマーブル模様の領域に、果たして何を仕込んでいるのか。


「でもさー。生け捕りにさせてくれたら、遺物を切除するだけで済むんだよ?」


 だから投降しろ、と。

 当然ながら、その選択肢は有り得ない。


 この世界はクロガネの常識から逸脱している。

 もしかすれば元の世界にも、似たような倫理観の地域があったかもしれないが、どちらにせよ縁の無い話だった。


 生き延びるには力が必要だ。

 この場を無傷で乗り切ったとして、魔女の力を失った状態で、果たして理不尽な世界を生き抜くことが出来るだろうか。


――否、だ。


 要求を飲むことはしない。

 勝てばいい。

 命を擲ってでも屈したくはない。


 この世界が嫌いだ。

 全てが憎い。

 破壊し尽くしてしまいたいほどに。


「多分、ここの実験の被害者なんでしょ? 大変だったと思うけど――」


 殺気を指に込めて引き金を引く。

 撃ち出された弾丸は、色差魔の肩を捉え――大きく仰け反らせた。


「いったぁッ……なんか、さっきより痛い」


 ただ撃ち出すだけではない。

 魔力を銃身に込めて、より威力を高めていた。

 不十分だが、通らないわけではない。


 だが、それはエーゲリッヒ・ブライ本来の機能ではない。

 無理矢理に威力を高めるのは効率的とは言い難く、慣れないことを強引に行った結果――激しい頭痛が襲う。


「――チッ」


 全てが不完全だった。

 そして運が悪かった。

 元を辿れば、この世界に来た時点で最悪だった。


 銃を構え――駆け出す。

 クロガネは殺気を剥き出しにして、色差魔の生み出した領域に足を踏み入れる。


 気持ち悪くなるほどに視界が揺らぐ空間。

 酷い酩酊感。

 足が縺れそうになるほど感覚を狂わされる。


 これが彼女の力なのだろう。

 気を抜けば色差魔の姿を見失うだけでなく、五感まで致命的なレベルで狂わされてしまう。


 だが、決して見失わない。

 強烈な殺意を抱いて、その姿のみを視界に据えて駆ける。


「ちょっと、待っ――あぐぅッ」


 明確な殺意を込め――全力の拳を腹部に叩き込んだ。


 首輪は身体能力まで低下させるものではない。

 あくまで魔力を抑えるものであって、それ自体は全力に遜色無い。


「――『探知』」


 交戦の僅かな間に兵士たちが集まり始めている。

 これ以上続けるのは危険だ。


 悶絶する色差魔の傍らをすり抜け、目的の部屋に駆け込む。


 視界に映るのは、首輪や拘束具などの道具。

 どれも検体を捕獲するためのものだ。

 自分の他にどれだけの人間が犠牲になってきたのか――気にしている余裕はない。


「……あった」


 首輪の解除装置を手に取る。

 片手で持てるほどの小さな機械だ。

 使用方法はマニュアルを読む必要もないほどに単純。


 首輪に向けてボタンを押し、解除信号を送る。

 カチリという音を立てて、気が抜けるほど呆気なく床に落ちた。


「……」


 静かに体の感覚を確かめる。

 特に大きな変化は見られないが、頭痛は綺麗に消え去っていた。


 今なら全力を出せる。

 煩わしいだけの鉛玉エーゲリッヒ・ブライよりも更に強力な魔法を使える。


 しかし、ふと嫌なことを考えてしまう。

 その想像は、どのように転んだとしても不味い展開だ。


 これだけ派手に暴れているというのに――。


――なぜ、あの男はまだ気付かない?

File:MED


『magical-effect disturber』通称MEDエムイーディー

魔女の持つ反魔力を擬似的に再現した装置。

軍用等の表ルートで流通しているものはさほど高性能ではない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ