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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
2章

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89話

 優しい温もりに包まれている。

 朧気な意識の中で、すぐ側に心が安らぐような"何か"を感じていた。


 手を伸ばすと、はピクリと肩を震わせて、受け入れるように静止する。

 重たい目蓋を持ち上げると、すぐ目の前に裏懺悔の顔があった。


「おはよ~、クロガネ」


 どうやら同じベッドに寝ていたらしい。

 直前の記憶が曖昧だ。


 気怠げに体を起き上がらせると、ブランケットがするりと滑り落ちた。


「……?」


 その動作に引っ張られ、裏懺悔の肩に掛かっていたブランケットが剥がされる。

 どうやら下着姿で潜り込んでいたらしい。

 普段のゴシックパンクな服装とは違い、ピンク色の飾り気の無いものを付けている。


 滑り落ちたブランケットは、当然ながらクロガネの素肌も顕にする。

 自分も下着姿だ――と、気付いて殺気を向けると。


「さすがに魔力欠乏が酷かったからさー。回復を早めるために密着してたんだ」


 力を使いすぎたでしょ、と裏懺悔が肩を竦める。


 まだ倦怠感が残っていた。

 眠気も取れず、あくびを噛み殺しつつ頭を働かせようとする。


「魔力の譲渡を受けられるなんて、他の魔女には無い能力だからねー。それでも三日間、ずーっと眠りっぱなしだったんだよ?」

「……三日も?」


 裏懺悔は頷いて、近くにあった電子時計を指差す。

 時刻表示の下にある日付を見れば、確かに三日経過していた。


 どうやら、どこかのホテルを借りていたらしい。

  寝ぼけ眼で周囲を見回して、なんとなく高級そうだ……と感想を抱く。


 裏懺悔の介抱があってなお、動ける程度まで回復するのに三日も掛かってしまった。

 それほどまでに体も魔力も消耗しきっていたようだ。

 無理矢理に"遺物を取り込んだ"ことで、相応の反動があったのだろう。


「……」


 原初の魔女と繋がりは感じられない。

 それは自由を得たと同時に、元の世界に帰るためのアテを失ったことにもなる。


 彼女の言葉が真実かどうか定かではない。

 もし元の世界に戻すことが可能だったとしても、復活と同時に用済みだと処分される可能性もあった。

 信用を預けられる相手でないならば、手を切っても痛くはない。


 幸いにも、クロガネには以前の能力が丸ごと残っている。

 魔女や魔物を殺せば糧になり、自身の力を高めることもできるはずだ。


 当面は依頼をこなしつつ実戦経験を積み、元の世界に帰るための手掛かりを探すことになるだろう。


「結因はどうなった?」


 今回の依頼で最も重要なことだ。

 目が覚めてくるにつれて、気を失う直前のことを思い出す。


「ダメだったよ。一度エーテル過剰に陥っちゃうと、取り返しが付かないくらい体がボロボロになっちゃうみたい」

「……そう」


 期待しない方がいい。

 そう言われていたとはいえ、現実はあまりにも非情だ。


 嘆息するが、裏懺悔は首を振る。


「でも、ちょこっとだけ……ほんの数分くらいだけど、正気を取り戻していたんだ」


 別れを告げるには十分な時間だった……と、裏懺悔は言う。

 死の直前に言葉を交わすことができたらしい。

 詳しい内容は真兎に話を聞いてみるしかないだろう。


「アモジの処分は?」

「それも真兎がやったよ。結因と話した後に……あのハンマーで、思いっきり潰してぺしゃんこちゃったんだ~」


 一等市民の殺害は重罪だ。

 戦闘の余波によって犯人の特定は難しいだろうが、あの場に居合わせたユーガスマが勘付く可能性もある。


「……気は晴れてそうだった?」


 仇敵に復讐を果たして、その先で真兎は何を見出だせたのだろう。


 それを勧めたのは自分だ。

 無責任に投げ出すつもりはない。


「すっごいスッキリした顔だったね~」

「……ならよかった」


 安堵したように呟く。

 それならば、無法魔女アウトローとして生きていけそうだ……と。

 真兎を紹介する良いアテがあった。


「今回は大変だったね~。思ってた以上に大事になっちゃってさ」


 想定外の事態になってしまい、裏懺悔に頼らざるを得なかった。

 依頼を引き受けたのだから自分の手で片を付けたかったのがクロガネの本音だ。


 とはいえ、収穫も多いのだから結果だけ見れば上々だ。

 原初の魔女に従う日々は終わりを向かえ、今度こそ本当の意味で自由を得られたのだから。

 

「……裏懺悔」

「んー、なにかな~?」

「今度、私に戦い方を教えて欲しい」


 真剣な表情で頼み込む。

 目の前にいるのは、恐らく無法魔女アウトローの中で最も強い実力者だ。

 彼女から学べるならば、機動試験以上の経験を得られることだろう。


 クロガネは魔女として目覚めてから日が浅い。

 今回、裏懺悔が見せた多様な力の使い方を習得したいと思っていた。


「それは構わないけど……もう少しだけ休んでいいんじゃないかな?」


 裏懺悔がクロガネをベッドに引き倒す。

 ブランケットの下で抱き着くように密着してきた。


「ほらほら~、裏懺悔ちゃんの魔力はおいしいよー?」


 肌と肌が触れ合って少しずつ魔力が流れ込んでくる。

 甘やかすような素振りを見せつつも、裏懺悔は甘えるように擦り付いてきた。


 肌が触れるだけでは吸収も僅かだ。

 より深く接触すれば魔力の回復も早いだろう。

 とはいえ、これだけ疲労しきっている状態ではそんな気も起きなかった。


「魔力が回復するまで、耳元でいっぱい愛を囁いてあげよっか? そういえば耳舐めとかも流行ってるらしいね~」


 と、悪戯っぽく囁くも――。


「あ~……寝ちゃったかな?」


 既に寝息を立てていた。

 裏懺悔に心を開いている……というわけではなく、まだ起き上がれるほど回復していなかっただけのようだ。

 それだけ『限定解除』の反動は酷かったらしい。


「もぉ~……」


 嘆息しつつ、仕方がないと肩を竦める。

 不相応な力を借り受けたことで、器となるクロガネは擦り切れてしまっている。


 理不尽な繋がりは断たれた。

 遺物を通して干渉されることもなくなり、今こうして寝ているのは"禍つ黒鉄"という一人の無法魔女アウトローだ。


 こうして味方に引き込めたのだから、裏懺悔にとって調に進んでいると言えるだろう。


 手駒を奪われた原初の魔女が何かを仕出かすかもしれない。

 破壊の左腕があるように、他の部位にも対応した遺物がどこかに存在している。


 恐らくはアルケー戦域――最大の封鎖区域だろうと見当は付いているものの、全域が統一政府カリギュラの管理下に置かれてしまっている。

 裏懺悔としても無闇に手を出そうとまでは思えない。

 そこまで好き放題に動けば、相手も本腰を入れて全面戦争を仕掛けてくるはずだ。


 だが、もし新たな使徒を生み出して報復してくるようであれば。

 その時は裏懺悔自身も動かざるを得ない。


 とはいえ、今しばらくは安全が保たれるはずだ。

 脅威となるほどの魔女を育て上げるには時間が掛かる。

 この程度の休息くらいは許されるはずだ。


「んー、役得ってやつかな?」


 この場所を他の誰かに譲るつもりはない。

 寝顔を眺めながら、裏懺悔は頬を緩ませて介抱を続ける。

File:アルケー戦域-page1


世界最大の封鎖区域で、極めて高いエーテル値が全域に渡って観測されている。

凶悪な魔物で溢れているため、統一政府カリギュラから指示を受けた魔法省によって厳重に管理されている。

遺物"破壊の左腕"が発見された場所でもある。

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