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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
2章

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86話

「おお~、やってるねー」


 どこからともなく現れた裏懺悔が戦場をきょろきょろと見回す。

 最初に結因が放ったエネルギー波は彼女を狙っていたはずだが、服には僅かな砂埃さえ付いていない。


「……どこに行ってたの?」

「ちょっと気になることがあってさ。遊んでたわけじゃないよ~?」


 裏懺悔は戯けてみせる。

 そして、クロガネをじっと見つめる。


「ふーむふむ、なるほどね~」


 周囲を取り巻く『破壊』の力を恐れもせず、興味津々といった様子で近付いてきた。

 彼女はクロガネが遺物を埋め込まれたことを知っている。


 遺物の出自や根源となる"原初の魔女"についても、クロガネ以上に知っていたとして何ら不自然ではない。

 だが、簡単に喋るほど素直でもないだろう。


 場違いな振る舞いを見せているが、それを咎められる者はいない。

 ユーガスマは忌々しげに目を細めていた。


「呆れたものだ」


 検体は助からないというのに……と、嘆息して背を向ける。


 結因はエーテル公害の元凶となっている。

 本来なら己の手で始末するべきだが、そうなればこの一件に絡んでいる裏懺悔も黙っていないだろう。


 立ち去る彼に、裏懺悔は手をひらひらと振って見送った。


「さてさて、救助対象は魔物化して自我を失ってるみたいだけど……禍つ黒鉄、キミに何ができるかな?」


 その問いに、クロガネは手を翳して答える。


「――こうすればいい」


 放出された破壊の奔流が、結因から伸びる触手だけを消し去る。

 それ自体はすぐに再生することだろう。


 無力化することに苦労は無い。

 先ほどまで死を覚悟していたはずのエネルギー波も、今のクロガネなら相殺できる。


「結因を安全に切り離す」

「なら――ここを狙ってみよう!」


 裏懺悔の姿がブレたかと思うと――結因を捉えている機械部分に、幾つか引っ掻いたような×印が描かれる。


「主管理装置や貯蔵炉との連結部分だよ~。魔法回路で何重にも繋ぎ止められているけど……その力ならいけそうかも?」


 強引に助け出そうとしても回路を引き千切る形になってしまう。

 そうなれば、結因の体に酷い損傷を与えることになるだろう。


 魔法による接続は魔法によって解除すればいい。

 都合の良いことに、クロガネが持つ能力は『破壊』を根源としている。


「でも……あの子はエーテル過剰に陥ってる。期待しすぎないようにね」


 珍しく真面目な口調で、裏懺悔が眉尻を下げた。


 魔法は万能ではない。

 御伽噺のように奇跡を起こせるものではなく、その現実は物々しい社会の一部に過ぎない。

 エーテルを根源として、各々が保有する能力に見合った事象を引き起こすだけだ。


 クロガネは『破壊』の能力を両手に収束させ、結因に歩み寄っていく。


 狙いを定めるには力が大きすぎる。

 距離を詰めて確実に発動させなければならない。


ヌル――』

 

 敵意を感知して、結因が魔法を構築していく。

 あれだけの規模で連発してなお、未だに魔力切れには程遠いらしい。


黒情の星々ザイスミッシュ――』


 再び、無数のエネルギー球が浮かび上がる。

 その密度は先ほどまでよりも高い。

 こちらを明確な敵と見なして、全力で排除するつもりなのだろう。


 クロガネは歩みを止めない。

 目の前の光景は絶望的なものだが、迎え撃てるという確信があった。


「機式――"エーゲリッヒ・ブライ"」


 身に纏う破壊の力に耐えられるように、強引な形で再度召喚する。

 手元に莫大な魔力が集まって平衡感覚が狂い始めた。


 しかし、これ以上とない攻撃手段だ。

 遺物と直接リンクするように魔力が供給されている。

 あとは制御することに全力を注げばいい。


『――滅旋エルガ


 無感情に呟いて、結因がエネルギー球を放つ。

 今度は無差別な攻撃ではない。

 クロガネのみを標的として、狙いを定めて降り注がせる。


「――ッ!」


 歯を軋らせ――迎え撃つように引き金を引く。

 弾薬は供給される魔力で補って、弾切れを起こす不安もない。


 不足している技量を補うように遺物から魔法が展開されていく。

 視界に移る全てが情報となって取り込まれ、それを処理するために神経が焼き切れそうになるほど脳を酷使される。


 銃弾は正確にエネルギー球を撃ち抜いて、間を抜けてきたものは全て遺物が撃ち落としている。

 その分の消耗も全て、後でクロガネ自身に返ってきてしまう。

 不相応な力を引き出す『限定解除』には、当然ながら極めて大きな反動リバウンドが用意されている。


 これほどの戦闘技術を原初の魔女は期待しているのだろうか。

 どれだけ捧げ物をすれば、これを平常と出来るほどの力が得られるのだろうか。


ヌル――』


 結因が次の魔法を用意しようと手を翳す。

 だが、その時には狙いを定めるのに十分な場所まで接近していた。


「……ッ」


 そこで、狙いが定まらなくなって銃身が大きくブレてしまう。

 裏懺悔が描いた×印に向ける度に。


 銃口は吸い込まれるように中心部――結因に向かおうとしている。


「あぁ……供物が欲しいってこと」


 意図は単純明解。

 莫大な力を持つ結因を殺せば、それだけ原初の魔女が満たされる。

 遺物を通して"食欲に似た衝動"が流れ込んできていた。

File:エーテル過剰


動植物が体内に蓄積したエーテルによって魔物化する現象を指す。

魔女はエーテルに適応した生物だが、極めて稀に、何かしらの外的要因を切っ掛けに魔物化してしまうケースが観測されている。

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