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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
2章

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78話

 真兎は咎人級――当然ながら、魔力も少なく特殊な能力も発現していない。

 並の人間より身体能力が高いだけだ。


 無法魔女アウトローとして生き抜けるような状態ではない。

 一連の事件を考えれば、今さら登録魔女に入ることも許されないだろう。


「上級-鎚型対魔武器――起動」


 三十センチほどに収まっていた柄が二メートルほどに伸び、先端部分が展開を始める。

 大岩と見紛うようなヘッドパーツが現れると、内蔵された動力源からエネルギーが流れ込んでいく。


「うわっ……っと」


 予想以上の重さで、真兎がよろめく。

 扱えないほどではないが、自由自在に振り回すには少し腕力が足りないらしい。


 その辺りは今後のトレーニング次第だろう。

 魔力の扱いに慣れたり体を鍛えたりすれば問題ない範囲で、戦闘における技術面もまだ空白の状態だ。

 命のやり取りに身を投じさせる――その経験が大切だ。


 クロガネは周囲を見渡す。

 荒野が続くばかりで、建物らしいものは何もない。


「裏懺悔が来るまで、真兎には怨廻エンネを倒してもらう」

「うへぇ……アレをですか?」


 五十メートルほど前方では、怨廻エンネが這いずりながら不気味に蠢いている。

 液状の体だが、這った場所に跡が残っているということもない。


――『解析』


 危険性は極めて低い。

 魔物として分類されているが、そこらの野良犬よりも動きは緩慢だ。

 不可思議な肉体を除けば脅威にはならないだろう。


 実態があるようで、体の殆どはエーテルによって構成されているらしい。

 負の感情を司る魔物……その形容は正しいらしく、何を思ってか、苦しみ悶えるように蠢くのみだった。


「……エーテルを感知して動いてる」


 その本質は、大地を汚染しているエーテルと変わりない。

 魔物として変質させる対象を見付けられず、そのまま彷徨うように寄り集まったエーテルが怨廻エンネになったのだろうか。


 既に一帯を『探知』して、監視システムが無いことは把握済みだ。

 研究区画に近付かなければCEMケムに捕捉される心配はない。


「――いきますっ!」


 真兎が駆け出す。

 武器の重量はかなりのものだが、やはり並の人間より動きが速い。


 直線を走らせるだけなら、武器を持っていてもトップアスリートに遜色無いほどだ。

 もっとも、それ以外の部分は全て素人レベルだ。


「おっとと……えいっ!」


 振り上げた鎚の重さにバランスを崩しつつも、勢い任せにそのまま叩き付ける。

 だが不安定な体勢から放ったせいで狙いは僅かに逸れて大地を砕くのみ。


 外してしまえば、目の前に怨廻エンネがいる状態で無防備な姿を晒してしまう。

 液状の体から枯れ枝のような腕が伸び――。


「力みすぎ」


 乾いた音が響く。

 弾丸は容易く中心部を穿ち、怨廻エンネの体内に隠れたコアを撃ち抜いた。


「ご、ごめんなさい……」

「一撃で仕留める……なんて考える必要はない。初めは当てることを考えて」


 真兎が手にしているのは上級の対魔武器だ。

 生身の人間を相手にするならば、それこそ軽く当てるだけでも十分すぎるほどの威力がある。


「焦らないで、しっかり狙って」

「はいっ!」


 一回のミスで落ち込んでいられるほど悠長には構えられない。

 それを理解していて、真兎も気を引き締めて再度挑戦する。


 体力に自信があるのだろう。

 何度も繰り返していく内に動きが良くなっている。

 息切れもせずに戦闘を繰り返せるのは、クロガネから見ても感心できる点だった。


 当然、身のこなしは素人そのものだ。

 一朝一夕で習得できるようなものではないため、今回は最低限の動き方だけを教えている。


「よーっす……って、あれ? なんか楽しそうなことしてるね~」


 半刻ほど経過した頃に裏懺悔が到着する。

 服装も普段通りのゴシックパンクで、武器の一つも持っていない。


「これからCEMケムの研究施設を潰す」

「ちぇ~、デートだと思ってたのに」


 裏懺悔は残念そうに言う。

 だが、彼女を一晩借りられるというのに利用しない手は無い。


「まあいいけどさ~。裏懺悔ちゃんがいれば心強いもんね」


 クロガネが知る範囲で最も強い魔女だ。

 CEMケムや魔法省からの扱いを見るに、その実力は社会全体として共通認識なのだろう。


「ユーガスマが出てきたら相手をしてほしい」

「それ以外は?」

「こっちで片付ける」


 全てを押し付ければ何の苦もなく依頼は完了することだろう。

 事実として、裏懺悔はそれを可能とする力量の持ち主だ。


「もっと使ってくれてもいいのに~」


 そう言いつつも、彼女もこの仕事内容に納得しているらしい。

 不都合があれば簡単に覆せるような存在が、口を尖らせつつも反対まではしていない。


「でもでも、一つだけ。力は貸してあげるけど、魔法は使わないからね~」


 冗談交じりの調子で言っているが、本気なのだろう。

 クロガネもその条件に文句を言うつもりはない。

 この場にいる魔女全員で相手したとしても、素手の裏懺悔に傷一つ付けられるかさえ怪しいくらいだ。


「真兎。そろそろ仕事を始める」

「はいっ!」


 真兎は元気良く返事をすると、鎚を形状変化させて腰のホルダーに戻す。


――やはり息切れしていない。


 そういった能力なのだろうか……と、クロガネは首を傾げる。

 咎人級とはいえ、その本質は身体能力の向上だけではないのかもしれない。

 休まずに動き続けられるのは大きな利点だ。


「……」


 クロガネは懐からメモ書きを取り出す。

 烟から得た情報の中に、警備システムのメンテナンス時間が記されていた。


 間もなく五分程度の自動メンテナンス作業が始まる。


 周辺のエーテル値による影響か、時間内の異変は処理されるタイミングがズレる場合があると書いてあった。

 この隙を突く形で仕掛ければ、ほんの僅かな効果だが撹乱を狙えるだろう。

File:咎人級『真兎』-page2


魔女としての等級は低いが、継戦能力は比較的高い方に分類される。

マクガレーノから譲り受けた上級-鎚型対魔武器を使用することで戦力となる。

また、反魔力の低さを補うため服の内側に簡易的なESSアーマーを着込んでいる。

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