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7話

――兵士が来ている。


 即座に試験室に身を隠し、そっと通路を様子見る。

 二人組で、その手には自動小銃。


 何者かの襲撃があったのだろう。

 魔物か魔女か、或いは敵対勢力でもなんでも構わない。

 自分から目を逸らしてくれるのであれば都合が良い。


 可能な限り近くまで引き付け、手早く片付ける。

 足音は徐々に近付いて、荒々しい息遣いも迫ってきて――。


「――ッ!」


 通路に躍り出ると、一気に距離を詰め――左の兵士の顎を掌で強打する。

 昏倒させるだけのつもりだったが、力加減を誤って首の骨を折ってしまった。


「貴様、どうやって試験室から――」


 状況を把握しきれずに困惑する兵士。

 もう何秒と命は無いというのに、命乞いする判断さえ出来ないらしい。


 クロガネは加速し、瞬時に相手の視界から消え去る。

 振り向く前に頭を抱えるように掴み――首が捩じ切れそうなほど力任せに捻る。


 兵士は膝から崩れ落ち、動くことはなくなった。


「……っ」


 呆気ない。

 こんな奴らに自分は良いようにされていたのかと思うと腹立たしくて仕方がなかった。

 どれだけ訓練されていようと、生身の人間と魔女には覆しようの無い差があるらしい。


 だが、武装に関しては警戒すべきだろう。

 元の世界の知識があるため、さすがに物々しい銃まで自分に効かないとは思えなかった。


 先ずは第一歩。

 確実に脱出に近付いている。


 問題があるとすれば、クロガネが施設内の地図を全く知らないことだろう。

 精々、研究プログラムに必要な部屋と、そこを往き来するための通路くらいだ。

 変に進んで深部に着いてしまったら袋の鼠だ。


 兵士たちの向かっていた方へ進むべきだろうか。

 もし外敵の侵入に対処しようとしていたのであれば、この先が出口に近いはずだ。


――殺し足りない。


 これだけの目に遭って、ただ逃げるだけでは割に合わない。

 力を有効活用しなければ勿体無い。


 少なくとも、視界に入った者は生かしておくつもりはなかった。

 殺すことで"原初の魔女"への供物となり、クロガネ自身の強さにも繋がるのだ。


 雑魚を狩ったとして腹は満たされないだろう。

 良質な魂ほど糧となるらしく、機動試験の際にもその差はしっかりと感じ取れるほどだった。

 だが、積み重ねていけばいずれは誤差の範囲に収まることだろう。


 無理に相手をしてまで危険を冒す必要はない。

 だが、少しくらいは足しになるだろうし、クロガネにとってもストレスの解消に繋がる。


 通路を進んでいく。

 これまでは鎖に繋がれて連行されていたというのに、今では獲物を探す捕食者側に立っている。


「……ッ!」


 前方に曲がり角――その右側から慌ただしい足音が聞こえてきた。

 先程の兵士たちと同じ音だった。


 近さからして、相手の方が先に角を曲がるだろう。

 奇襲を仕掛けるにしても状況が窺えない。


 あまり物音を立てるわけにもいかなかったが、どちらにせよ、今は襲撃者が入り口の方で暴れている状況だ。

 クロガネは迎え撃つように二丁の銃を突き出して構える。


 足音は複数――。


「――死ねッ!」


 最初に出てきた兵士の頭を撃ち抜く。

 慌ただしく駆けてきたためか、すぐに立ち止まることも出来ず何人かが後に続いて撃ち抜かれた。


 まだ全員ではない。

 壁を背にして隠れている兵士が――。


「――『探知』」


――三人いる。


 己の支配領域を広げ、五感を拡張させることで内部の全てを把握する。

 まだ使い慣れない高度な魔法だったが、隠れている敵の数くらいは容易く数えられる。


「……チッ」


 頭を撃ち抜かれた兵士たちの死体が、ちょうど曲がり角のところで障害物になっていた。

 血で滑るため足場としては最悪だ。


 クロガネが一気に駆け出すと、様子を窺おうと僅かに顔を覗かせた兵士を即座に撃つ。


「――っぁぁああああッ!?」


 頭蓋骨を掠め、兵士が痛みで絶叫する。

 走っていたために狙いが僅かにブレてしまった。

 射撃の腕はまだ満足できない。


 曲がり角に接近すると、力強く床を蹴って――跳躍。

 勢いをそのままに壁を蹴るように走って敵の目の前に躍り出る。


「な、0040Δフォーティーデルタ!?」

「撃て、撃てぇ!」


 判断があまりに遅い。

 否、追い付かないほどにクロガネが加速しているのだ。

 哀れなことに、彼ら兵士たちも並みの人間と比べれば優秀なはずだった。


「――ッ!」


 壁を伝っての強襲、そして至近距離での銃撃戦。

 命懸けの戦いを何度も繰り返してきたクロガネにとって、彼らの訓練など散歩にもならないくらいだ。


 弾丸は兵士たちの胴を捉え、怯んだところに何発も続いて撃ち込む。

 空のマガジンを排出し――『装填』


「……はぁ」


 不愉快そうに脇腹を擦る。

 一発だけ被弾してしまったらしい。


 軽く小突かれたような痛みで、アザが出来るかさえ怪しい。

 この程度の武器を怖がっていたのかと思うと、なんだか馬鹿らしくなってきてしまった。


「……?」


 そこでふと、兵士の身に付けた無線機が鳴っていることに気付く。


『――D4突破されましたッ! もう持たないッ』

『――無法魔女アウトローです、はやく照会と対処法をッ!』


――攻め込んできたのは魔女だ。


 なぜ、と考える必要はない。

 こんな非人道的な研究を行っているのだから、様々なところから目を付けられていてもおかしくはない。

 無法魔女アウトローという言葉を聞くに、少なくとも公的機関からの刺客ではないだろう。


 兵士の死体を蹴り飛ばして、進んできた道を僅かに戻る。

 前方から現れたということは、道中で選ばなかった別の道が正解なのかもしれない。


 引き返している最中――突然、無線機から少女の声が聞こえてきた。

File:無法魔女アウトロー


魔女適正管理法によって、魔女は魔法省の管理下に置かれなければならない。

魔女名簿と呼ばれるリストに登録されると、エーテル公害の調査や魔物発生等に駆り出されることになる。

無法魔女は魔法省に管理されることを嫌がって、或いは後ろ暗いものを抱えて拒否している者たちを指し、その存在は違法であり処罰の対象となる。

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