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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
2章

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67話

――魔法工学研究所ゲハルト支部、中央区画。


 慌ただしく研究員たちが駆け回る。

 襲撃者の戦力は彼らの想定を大きく上回り、警備兵も瞬く間に制圧されていった。


『第三区画、突破されましたッ――応援を――ッ』


 無線から流れる必死な声に、老齢の男は嘆息しつつ無線機の電源を落とした。


「どいつもこいつも、使い物にならん愚図共め」


 腹立たしげにモニターを眺める。

 施設内の防犯カメラが、彼我の圧倒的な戦力差を写し出している。


「マクガレーノめ、裏切りおったな?」


 鎖に繋いでいたはずだというのに……と。

 彼女の溢れ出る野心を買って手元に置いていたが、近頃では持て余してしまうほどの才覚を感じていた。


 襲撃者の中には、以前捕らえたはずの魔女――大罪級『屍姫』が混ざっていた。


 死者の行軍。

 命を落とした者は、皆等しく彼女の下僕となるのだ。

 気付けば半数がアンデッドとして使役され、数の有利さえ覆ってしまった。


「うーむ、研究に没頭しすぎていたか」


 男は白衣のポケットから通信端末を取り出して、どこかへ連絡をする。

 この場の戦力だけでは逆立ちしても解決できない。


 だが、彼は欠片さえ焦りを見せなかった。


「施設は放棄するとして……」


 即座に計画を整えていく。

 易々と殺されるつもりはない。


 ゲハルト支部責任者にして魔法工学の第一人者――アモジ・ベクレル博士。

 その脳内は深淵と呼び讃えられるほどで、常人には全く理解が及ばない領域にあるという。


「だが、うーむ……計画を早めなければならんなぁ」


 傍らに置かれた巨大な金属のカプセルを撫でる。

 魔法工学に大いなる変革を齎すのだ……と、笑みを浮かべていた。



   ◆◇◆◇◆



「次ッ――」


 クロガネがロックされたドアを蹴破ると、色差魔が強襲を仕掛ける。

 大罪級の身体能力があれば、並みの警備兵など脅威にならない。


 常に『探知』を怠らない。

 研究施設内は相手のホームだ。

 直感的に動き回れないのは面倒だった。


 施設内の大半は把握できていたが、何ヵ所か『探知』を阻むように魔法物質で守られた部屋があった。

 以前と同じ"静性メディ=アルミニウム"による魔力遮断だろう。

 クロガネからすれば、重要機密はここに眠っていると教えられているようなものだ。


 真兎と屍姫は別行動で、マクガレーノたちも好き放題に暴れている。

 このままいけば施設ごと制圧するのに時間はかからないだろう。


「雑魚ばっかりで退屈しちゃう」


 色差魔は肩を竦める。

 警備兵の練度は相応に高いのだが、魔女相手に通用するとしても精々が愚者級までだろう。


 さすがに上級対魔武器を量産することは難しい。

 この施設も魔法省の捜査官よりはマシな装備を揃えているが、その程度の差では脅威にならない。


 この施設が危険なのは、一等市民居住区フォルトゥナに隣接しているという点にある。

 レーデンハイト一番街には魔法省の支部があり、この研究施設に動員する際にほとんど時間はかからない。

 もうじき応援が現れる……と、クロガネは警戒していた。


「そろそろ中央区画に着く頃よね。それっぽい反応はある?」

「……見つからない」


 機密室を除けば、あるのは人間の反応のみだ。

 もっとも、逃げ遅れた研究者たちは、屍姫の使役するアンデッド軍団の餌食となって数を減らしていく。


 研究施設そのものを手中に収めたのと同じようなものだろう。

 その気になれば魔法工学研究所を立ち上げられるほどだ。


 彼女の使役するアンデッドは、生前の知識や能力の大半を受け継いでいる。

 娼館の受付カウンターで見た"ヴィンセント"も、使役するための魔力反応さえ気にしなければ人間と変わらない。


「……そこの大部屋を抉じ開ける。中の様子が分からないから警戒して」


 厳重な電子ロックがかけられており、素材自体も様々な魔法物質で構成されている。

 力ずくで突破するには厄介なドアだがクロガネには関係ない。


――『破壊』


 以前、PCのロック画面を解除させた時と同様の使い方だ。

 物理的な破壊に留まるような能力ではない。

 システム内部にまで侵入して、ドアの制御データそのものに損傷を与える。


 あとは、力任せに引けばいいだけ。

 クロガネは扉を抉じ開けようとして――。


「伏せてッ」


 即座に体を伏せる。

 直後、二人のすぐ真上を弾がすり抜けていった。


「――また貴様か。ロムエ開拓区で会って以来だな」


 聞き覚えのある声だった。

 先ほどまで誰もいなかったはずの空間に、彼女は当然のように佇んでいる。


 スタイルの良い長身に、煌びやかな金髪と碧い瞳。

 そして『空間転移』という極めて強力な能力を持つ魔女。

 背後には当然のように捜査官たちが控えており、この場での戦力差は易々と覆されてしまった。


 戦慄級『徒花』――魔法省の登録魔女であり、無法魔女アウトロー狩りを専門とする執行官。


 その名を忘れるはずもない。

 次は絶対に殺すのだと、殺意を研いでいた相手だった。

File:アモジ・ベクレル。


IQ190を誇る魔法工学の第一人者。

一等市民の老人でレーデンハイト一番街に住む。

兵器開発が主だが、携行型よりも規模の大きなものを好んで研究することが多い。

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