表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/331

63話

 相手は生身の人間だが、装備は魔法省の捜査官よりも良いものを揃えている。

 隙を突かれて痛手を負うことは避けたい。


 何よりマクガレーノ自体が厄介さでも突き抜けている。

 射撃の腕は、現時点の睨み合いだけでも優れていることが窺える。


 そして彼女が持つ銃は上級対魔弾を仕込んであるらしい。

 見た目こそ目が痛くなるようなピンク色で玩具のようだが、かなり性能の高い対魔武器だ。

 侮れない相手だ。


「……クロガネ様」


 屍姫が視線を送る。

 いつ交戦が始まっても問題無いように、拳を突き出すように構えている。


 その横にいる色差魔は険しい顔で敵を見据えている。

 彼女はシクスラムダを抑え込むために『色錯世界』を維持し続けている。

 いつまでも魔法を維持しているわけにはいかない。


――『思考加速』


 戦況を有利に進めるには、頭数の差を覆さなければならない。

 殺した構成員に屍姫の能力を使うのが一番だろう。


 消耗を考えなければ、力任せに盤上を引っくり返すことも出来るかもしれない。

 クロガネにはそれが可能なだけの力がある。


「機式――」


 エーゲリッヒ・ブライでは人数差が厳しい。

 持ち替えようと召喚を解除した時――マクガレーノが嗤う。


 最初に異変を察知したのは、横にいた屍姫と色差魔の二人だった。


「これは――」


――魔法が使えない。


 隙など与えていなかったというのに、MEDが発動していた。

 建物内のどこか、或いはマクガレーノ自身が携帯していたのか。

 強力な魔力阻害装置によって、二人の魔法が完全に抑え込まれてしまう。


 屍姫は完全な素手の状態に。

 色差魔は使用中の『色錯世界』を解除され――。


『――システム回復。標的ノ排除ヲ再開シマス』


 シクスラムダが動き出す。

 そして、マクガレーノが引き金に指を掛けウインクする。


「魔女だって絶対の存在じゃない。動物園の猛獣ちゃんたちと同じ――アナタたちを狩り殺せるような人間もいるのよ」


 殺傷能力の極めて高い対魔弾。

 銃口から発火炎が吹き出し、撃ち出された弾はクロガネを狙って直進する。


 率いている者から仕留める。

 合理的な判断だ。


「……はぁ」


 クロガネは嘆息しつつ、身を揺らして弾を躱す。

 策略では完全に上を取られてしまったが、反省するのは後回しだ。


「なっ、どうやって――」


 マクガレーノが声を漏らす。

 MED制御下に置かれて、魔力を大幅に抑え込んでいるはずだ……と。


 事実として、横にいる大罪級の二人は何も出来ない。

 身体能力こそ人間と比べて高いものの、魔法が使えない魔女には限界がある。


 クロガネが弾を躱せたのは、単にMEDの性能不足で『能力向上』も『思考加速』も阻まれなかったからに他ならない。


「――"フェルス・クラフト"」


 呼び出したのは、新たな機式――アサルトライフルだ。

 その形状は通常のものと比べて一回り大きい。


 数の差を覆すのは、圧倒的な個だけだ。

 唖然とするマクガレーノに中指を立て――引き金を引く。


「ッ――!」


 薙ぎ払うように振り回して弾をばらまく。

 秒間二十五発、マガジンには五十発。


 撃ち尽くすにしても、生身の人間相手であれば十分すぎるほどの時間だ。

 構成員たちが盾を構えて身を守るが、間に合わなかった五名が胴体や肩に被弾する。


 MEDによる減衰によってESS装置を破壊するには至らない。

 だが、それで問題無い。


「――『装填』」


 この一瞬で、商会の構成員たちにほんの数秒だけ時間を稼いだ。

 この場で警戒すべき相手はマクガレーノと、もう一体。


0040Δフォーティーデルタノ捕獲ヲ優先シマス』

「いい加減、黙って――」


 リロード直後、シクスラムダ相手に向けて引き金を引く。

 マガジン内の五十発全て胴体に叩き込むのだ。


 一発だけ見ればエーゲリッヒ・ブライの弾と威力は大きく変わらない。

 だが、それが秒間二十五発ともなれば話は別だ。


 突進を阻み大きく仰け反らせる。

 故障したESSアーマーは砕け散って床に落ち、剥き出しになった胴体部分を容赦なく抉っていく。


 相手は痛覚の無い兵器だ。

 破壊し尽くすまで止まることは無い――と、そう考えていたが。


『――本体ニ甚大ナ損傷ヲ確認。撤退要請……《承認アクセプテッド》』


 弾切れの隙を突くように背を向けると、シクスラムダが逃走する。

 貴重な戦慄級の核を奪われたくないのだろう。


 深追いすればCEMケムの本体と遭遇しかねない。

 消耗を隠してはいるが、最大出力でフェアレーターを撃った時点で余力は無くなっている。


 幸いにも、魔力補給をする相手が二人もいる。

 ここを平然と過ごせば、後でどうにでも出来るだろう。


「まさか、シクスラムダちゃんを撃退するなんて……」


 マクガレーノは感心したように呟く。

 構成員たちが体勢を立て直した頃には、既に『装填』も終わっていた。


 MEDによる魔力阻害が意味を成さない。

 それが指し示す意味は、当然ながら理解していた。


「アナタ……戦慄級の魔女だったのね」


 小型の通信用端末をポケットから取り出して投げ捨てる。

 どうやらMEDを仕込んだ特注品らしい。


 マクガレーノは負傷した構成員たちに目を向ける。

 致命傷ではないが、放置するには危険な状態だ。


「アタシたちのバックにCEMケムがいることは……もちろん知っているわよね?」

「脅しのつもり?」


 殺気を込めて問う。

 だが、そうではないらしい。


「今、そこに投げた端末から通信妨害電波を出してるの。盗聴される心配はないわ」


 だから……と、マクガレーノは続ける。


「――アタシと取引しましょ。損をさせるつもりはないわよ?」

File:『機式』フェルス・クラフト


秒間二十五発、マガジン五十発。

対多数における戦闘時に真価を発揮する大型のアサルトライフル。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ