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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
2章

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58/331

58話

 マクガレーノ商会の悪名は、近隣を縄張りとする組織にも知れ渡っている。

 特にCEMケムがバックに付いているため、銃火器や対魔武器等に困らないというのは大きな強みだ。


 そのため、事情を把握している無法魔女アウトローはレーデンハイト二番街に近付かない。


「……んぅっ」


 閉店後の夜――独房で、屍姫は恍惚と身を捩らせる。

 あの鋭い殺気を思い出すだけで体が火照って仕方がない。


――禍つ黒鉄。


 他の木っ端とは違う、圧倒的な存在感を放つ魔女。

 年齢こそ屍姫と大差ないものの、潜ってきた修羅場は見当も付かないほど。

 その振る舞いだけで窺い知れてしまう。


「っ……はぁっ」


 だからこそ、与えられたチャンスを逃すわけにはいかない。

 ここで失敗してしまえば関係はそれまで。

 末路は語るまでもない。


 捕らえられている商品保管庫の中で、窮屈そうに鎖を鳴らす。


「……"ヴィンセント"」


 使役するアンデッドを呼ぶ。

 MEDによる制限下で、どうしても自在に操るとまではいかない。


 普段は自立型として自然に紛れ込ませている。

 生前の記憶を失うわけではないため、喋らせてボロが出るようなことは早々ない。

 巡回のタイミングを見計らって、辛うじて使役の効力内に入ったところで命令を与えるのだ。


 部屋の近くで待機状態に入ったらしい。

 聞こえていた革靴の足音も鳴り止む。


「直近の取引リストから、結因という魔女の移送先を調べてきなさい。それと――」


 必要事項を伝えていく。

 使役されたアンデッドはただの傀儡というわけではない。

 生前の能力を不完全ながら保有しており、素体の優秀さが性能を大きく左右する。


 手駒のアンデッドは彼だけではない。

 敵対した魔女さえも使役して、極めて凶悪な死者の軍を作り上げている。


 CEMケムに目を付けられてしまうのも当然だろう。

 自身の危険性を把握しておきながら、過信によって己の身を滅ぼしてしまった。

 もし研究施設に直接送り込まれていたなら既に命を落としていたことだろう。


 主導者が悪趣味な性格をしていたために命を繋ぎ止めた。

 とはいえ、そのおかげで嬉しい出会いもあった。


「禍つ、黒鉄……クロガネ、様……」


 必要な情報を得られたら認めてもらえるだろうか。

 圧倒的な個であるクロガネに、数を揃えて手足となれる自分はきっと都合が良いはずだ……と。


 底知れない"何か"を感じていた。

 そして、覗き見ようとして一瞬にして魅了されてしまった。

 深淵よりも昏い特異な魔力に、負の力を司る屍姫は耐え難い衝動を抱えてしまう。


――愛されたい。


 その一言で、彼女の心を表現出来る。

 打算も何も含まれない純粋で一途な想い。


 自身の全てを使って奉仕したい……と、明日に焦がれて仕方がなかった。



   ◆◇◆◇◆



 昨日と同じ時刻に、クロガネは入店する。

 屍姫が情報を得られているのであれば、その場で解放して移送先を襲撃するつもりでいた。


 時間を与えて警備体制を強化されてしまうのは手間になる。

 ましてCEMケムが相手となれば、その戦力はそこらのシンジケートの比ではないはずだ。


 受付カウンターに立つ男――よく見れば、微かだがエーテルに汚染された形跡がある。

 これが屍姫の使役しているアンデッドだろう。


「No.9を一時間」

「かしこまりました。プロフィールをお持ちになって、奥の部屋でお待ち下さい」


 待合室に着くと、端の席に腰掛ける。

 プロフィール用紙を一枚捲ると、そこに屍姫が調べたであろう情報の概要が記されていた。


 待機時間を無駄にさせないためだろう。

 理知的な瞳を思い出し、仕事は出来るタイプなのかもしれない……と、クロガネは内容に目を通していく。


「……お客様、こちらへ」


 どこか熱っぽい声で屍姫が呼ぶ。

 初対面の際に見せた屈辱そうな表情も消え去って、媚びるような上目遣いで覗き込んできていた。


 昨日と同じ部屋に案内される。

 大罪級である彼女は、必ず一番良い部屋に連れていくことになっているらしい。


 ドアを閉めると、屍姫は我慢できないといった様子でクロガネに縋り付く。

 不自然ではないように見せる演技なのだとすれば――即座に『探知』を強化する。


「……何かを嗅ぎ付けられたようです」


 耳元で囁くように、屍姫が短く説明する。

 監視されるような機器は室内に存在しないはずだ。


 昨晩の"探り"が何らかのシステムによって検知されてしまった。

 そう考えるのが自然だろう。


 探知に引っ掛かったのは――自立型の機械。

 その姿形だけは人間と変わらない。

 かなり大柄な男性という程度だ。


 様々な生体部品を組み込んでいるようだったが、人間と呼ぶには意思が感じられない。

 埋め込まれた装置によって完全制御された兵器だった。


「調査はアンデッドに全てを任せていたので、こちらに気付くことはないと思いますが……」

「手早く済ませて」


 囁き声でのやりとりも早々に切り上げる。

 自身の『探知』と似たような力を持っていた場合、室内で言葉を交わしているだけでは怪しまれかねない。

 盗聴に使えるような機能を持っている可能性も有り得る。


 強引に手を引いて距離を近付け、屍姫に口付けする。

 そのままベッドに押し倒して舌を捩じ込んだ。

File:アンデッド


魔物の一種。

エーテルによって汚染された死体が動き出す事例が多く報告されており、それらを総じてアンデッドとして扱っている。

屍姫は意図的にアンデッドを生み出し、かつ使役することが可能。

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