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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
2章

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57話

「……貴女は、あのCEMケムを相手にする心積もりで?」


 移送先はCEMケムの研究施設だ。

 場所こそ分からないものの、それだけは確定している。


 結因という魔女を探すのであれば、必ずそこに行き着いてしまう。

 まさか情報だけ握って帰るような真似はしないだろう。

 そうなれば、屍姫から見ても手を組むメリットは十分にある。


「研究施設は潰す。後のことはどうでもいい」


 仇敵に噛み跡を残すのだ。

 この長い悪夢の元凶であるCEMケムの情報を得られたというのに、嫌がらせをしない理由はない。


「でしたら……本当に首輪を外せるなら、その件に私も力添えを致します」


 逃亡生活を続けるよりも、ここで禍根を残さないようにCEMケムを叩いた方がいい。

 屍姫にとってメリットは極めて大きく、クロガネにとっても駒を増やせるなら都合が良い


 だが、彼女の能力は屍を使役すること。

 施設を襲撃すれば戦力を丸ごと回収できてしまう。

 裏切るとは思えないが、不用意に強力な魔女を増やすのも好ましくない。


 そんな疑心を感じ取ったのだろう。

 屍姫は決心したように口を開く。


「明日、もう一度お会いしましょう。それまでに貴女の欲している情報を手に入れてみせます」


 裏切られるリスクを抱えるつもりだと宣言する。

 もし情報だけ奪われた場合、彼女には何も残らない。


「その後のことは、全て貴女の判断に委ねます」


 このまま奴隷を続けるよりは、裏切られて処分される方が気が楽かもしれない……と、屍姫は考えていた。


 それだけではない。

 何故だか縋りたくなるような魅力を目の前の魔女に感じてしまう。

 それが不思議でならなかった。


「……分かった」


 クロガネに不利益は無い提案だ。

 掌を返すような態度の変化には疑問が残るものの、害があるなら潰せば良いだけのこと。


 それに、彼女はMEDを付けた状態でマクガレーノ商会の秘密を探ろうというのだ。

 リスクを背負う覚悟があるのは確かだ。

 力量を見極めるにも丁度良い。


「えっと……では、続きの方を……っ」


 屍姫は恥じらうように上服をするりと脱ぎ捨てる。

 透き通るような白い肌が、微かに熱を帯びて紅潮していた。


「チッ……」


 クロガネは無言で首輪を掴んでベッドに倒す。

 相手にするつもりは無かったが、乱暴に扱われたのが"そういう趣味"だと思ったのだろう。


「そういうのがお好きでしたら……」


 恍惚と笑みを浮かべ、屍姫は受け入れるように脱力する。

 服従するように腹を見せ、あざとく吐息を漏らす。


 乱れた髪を直すこともせず、潤んだ瞳で見つめてきていた。



   ◆◇◆◇◆



 選んでいた一時間コースを終え、クロガネは退室する。

 明日、屍姫が情報を掴んでいるか確かめに来る必要がある。


 娼館を出て真兎との合流地点へ向かう。

 その際も『探知』を怠らずにいると、見知った反応が後方から近付いてきた。


「……何か用?」

「いや、その……えっと。どんな感じだったかなーって思って」


 色差魔が尋ねる。

 さすがに興味本位で仕事の詮索をするほどバカではないはず……と、楽観的に考えていた自分に呆れてしまう。


 殺気を向けると、色差魔は慌てた様子で否定する。


「いやいや、そっちじゃなくて!」

「じゃあ何?」

「お楽しみの時間はどうだったのかなって。一番高い娘を選んでたでしょ?」


 商品の具合を知りたいのだろう。

 手をわきわきとさせて、好奇心旺盛な子どものように尋ねてきた。


「従順で献身的。扱いやすい」

「そ、そっかー」


 魔女としての格で黙らせた――と、色差魔は誤解したらしい。

 実際にクロガネと彼女の関係も似たようなものだ。


「こっちはなんというか、体も痣だらけでかわいそうでさー。声も震えてたから……あたし、一時間ずっとその娘の頭を撫でてるだけだったよ」


 待合室での興奮は一瞬にして消え去ったのだと。

 言葉通りであれば、それは納品間近の魔女なのだろう。


 崩壊寸前まで追いやられた状態の商品に情を抱いてしまったらしい。

 無法魔女アウトローらしくない善良さだが、そもそも彼女は悪人というわけでもない。

 魔法省の管理下に置かれていないというだけだ。


「あたしが純情すぎるのかもしれないけどさー」

「あまり深入りしない方がいい」


 待合室での様子を見る限り、間もなくCEMケムに向けて出荷されるのだろう。

 明日も同じ魔女が並んでいるとは限らない。


 色差魔は敵対者ではないが、事情を知らない状態で来られても仕事の邪魔になるだけだ。


「もしかしてさ。仕事ってあの娼館絡みだったりする?」

「……はぁ」


 クロガネは面倒そうに肩を竦める。

 好奇心からの詮索を受けるつもりはない。


 色差魔を引き込む必要はない。

 屍姫の監視だけでも手間を取られてしまうというのに、人数を増やすのは悪手だ。


 戦力としては使えるかもしれないが、自身の引き受けた依頼に巻き込むつもりはない。

 馴れ合うだけ時間の無駄だろう……と、視線を外す。


「ちょっと、キスまでした癖に無視なんてひどくない!?」

「ならそういうことがしたいの?」


 気付けば人気の無い路地に。

 大通りの喧騒も随分と遠くから聞こえていた。


 クロガネは拒絶するように、乱暴に壁に押し付ける。


「あ、あたしは……その……っ」


 色差魔は顔を俯かせて言葉を震わせる。

 明確な殺意を込めて、その首を掴み上げる。


「……たい、から」


 呻くように必死に声を漏らす。

 その体を捩らせつつ、クロガネの手に自身の手を重ねる。


 喋りやすいように僅かだけ手を緩めると、色差魔は吐息を漏らし――。


「――そういうことがしたいから、声をかけてるのよっ!」


 嬉しそうに頬を紅潮させていた。

 乱雑な扱いさえ、彼女にとっては愛されることと変わらない。


「初めて殴られたときから、なんかヘンな感じが――あぐぅッ」


 無言で殴り付けて地面に捨てる。

 痛みに悶絶しているようで、実際には恍惚と痛みを受け入れていた。


 魔力を込めたおかげか、さすがに大罪級と言えど起き上がれないらしい。

 気持ちよさそうに「もう一発……」と呟いていたが、そのまま放置して立ち去った。

File:娼館


マクガレーノ商会のような経営体制が大半で、"仕入れ"は法に守られない相手――三等市民もしくは無法魔女アウトローを誘拐・監禁することを主とする。

犯罪シンジケートのシノギとして有名で、治安の悪い地域には多くの娼館が建ち並ぶ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 色差魔ちゃんかわいい。 [一言] 色差魔ちゃんかわいいのでいっぱいひどい目にあって死んで欲しい。でも死んじゃったら悲しいから生きててほしいかも。
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