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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
2章

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54話

「――まだ、隠している事情がある?」

『そ、そんなまさか。何もありませんよ』


 疑問を解消しようと真兎に尋ねるも、あたふたと誤魔化されるだけだった。


 スピーカーから聞こえる真兎の声はわざとらしい。

 彼女は役者に向いてないらしい……と、クロガネは嘆息する。


 自身に不利益が無いのであれば問い詰める程でもない。

 もし危害が及ぶようであれば、相応の報いを受けさせるのみ。


「これから娼館に潜入して結因の安否を確認するけど」

『はい! 私も同行します!』


 電話越しでも分かるほど気合いの入った声だった。

 咎人級とはいえ、魔女というだけでそれなりに戦力にはなる。


 だが、カルロのように頭の働く人間の方が役立つだろう。

 生存力の高さと幅広い知識は横に置いておく分には非常に便利だった。

 クロガネからすれば、真兎の存在は何の足しにもならない。


 まさか依頼者を囮に使うわけにもいかない。

 彼女の持つ微弱な魔力では、成人男性より力はあるかもしれないが、実戦慣れした相手には無力だ。


「……」


 狡猾な敵に騙されるリスクもある。

 真兎は明らかに幼い。

 この世界で最も搾取されやすい存在だ。


 とはいえ、姉である結因を助け出すには都合の良い駒にもなる。

 見知らぬ無法魔女アウトローより妹の方が事情を飲み込みやすいはずだ。


「座標を送る。夕方にそこで」

『了解です!』


 娼館に連れていっていいのだろうか……などと考えつつも、通信を切ると手早く座標を送信する。

 北部にある繁華街に、結因が運ばれたというのがけむりからの情報だ。

 

 連れ去られてから二週間が経過している。

 哀れむつもりはないが、CEMケムに収容されていた自身の境遇に近いものを感じてしまう。


 弱者は徹底的に搾取されるのが世の理だ。

 魔女とはいえ、三等市民としてスラム暮らしの日々では戦闘経験も積むことは出来ない。

 せめて強い魔女の庇護下に入れたならば、少しは安心して暮らせたかもしれない。


 そういった意味では、裏懺悔との繋がりは大きな価値がある。


 CEMケムは政府直属の対魔機関。

 その最高責任者であるフォンド博士に対して、裏懺悔は脅しをかけられる程度には力関係が上になっている。


 総力戦になれば実際のところは不明だ。

 とはいえ、被害の規模を考えれば標的にするメリットは極めて薄い。


 真兎も結因も、戦力としては孤立しているに等しい。

 対魔武器さえあれば素人でも確保出来るはずだ。

 そもそも天敵が多すぎた。


 その末路が娼館奴隷だというのだから、この世界の酷さを改めて思い知ってしまう。


 何食わぬ顔をして道を行き交う者たちも、誰もが共通して三等市民を"迫害対象"として見なしている。

 そこに一切の悪意は無く、ただ、それが常識として育ってきた。


「……」


 予定より早く合流地点の路地に到着する。

 真兎が来る前に、周囲に危険がないか把握しておく必要があった。


 路地から軽く顔を覗かせて娼館の様子を窺う。

 朝に見た" マクガレーノ商会"の文字が、こちらの建物にも目立つように表示されていた。


 今回は確認作業だ。

 建物内を把握しつつ、結因が本当に並べられているのかを調べなければならない。

 その際に真兎が役に立つ。


「咎人級魔女――真兎、到着です!」


 威勢のいい声が路地に響く。

 接近には『探知』で気付いていたからよかったが、もしそうでなければ即座に蹴り飛ばしていたことだろう。


「そこの娼館に運び込まれたらしい」

「んー、立派な建物ですね」


 ビルが立ち並ぶ狭い繁華街の中で、娼館は他よりも立派な店を構えている。

 悪趣味な色使いの看板は、やはり"魔女専門"を謳い文句にして客寄せをしていた。


「受付カウンターに着いたら、真兎は姉を探して。商品に無ければ退店して座標の位置で待機」

「クロガネさんは?」

「情報収集してから戻る」


 商品として扱われているとはいえ、内部から見える情報は貴重だ。

 漏れ聞こえた機密などがあれば尚良いが、そこまでの期待はしていない。


 そのためには指名をしなければならないわけだが、烟と取引した酒場で飲食したおかげか気分は軽い。

 罪悪感を抱かずに尋問出来るはずだ。


 商品たちはMEDで無力化されてしまう程度の実力だ。

 だが、クロガネが装着させられていたものよりも性能は低いようで、魔力を全て抑え込まれているというわけではないらしい。

 それでも抵抗しないのは、歯向かうことが無意味だと理解しているからだろうか。


 既に飼い慣らされている。

 アレは自身にとっても有り得た末路だ。

 用途が違うとはいえ、鎖に繋がれた状態では大差無い。


 常に『探知』で内部の様子を窺いつつ、クロガネは時刻を確認する。

 午後六時――仕事を始めるタイミングだ。


「真兎が先行して。怪しまれないように、少し遅れて入店する」

「はい!」


 これならば、トラブルが起きても対応出来る。

 最優先は依頼主の命だ。

 先行させたとしても『探知』があれば危険察知は容易だ。


「えっと、好みの魔女がいた場合は……どうしましょう?」


 真兎の下らない質問を無視して、クロガネは『思考加速』を始めた。

File:『探知』


クロガネが多用する知覚型魔法。

範囲内全ての物体の動きを把握出来るのだが、静性メディ=アルミニウムのようなエーテル遮断性を持つ物質は透かせない。

『解析』と併用することで敵の武装を詳細に暴けるため、仕事時には頻繁に発動させている。

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