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46話

 道を抉じ開ける――言葉にすれば単純だが、齎した結果は想像を遥かに上回る。

 フェアレーターから射出された高出力のエネルギー弾は、遮蔽物を物ともせずに消し飛ばす。


 直撃した中心部は地面が赤熱して熔けている。

 余波を受けた者たちは、突然のことに呆然と戦慄いてしまう。


 双方が数を削り合って、戦闘可能な人員は半分以下に減っていた。

 そこにクロガネの一撃が叩き込まれ、六人が即死、近くにいた者たちも巻き添えをくらって負傷している。


「マッド・カルテルの用心棒十人、無法魔女アウトロー三人、魔法省の捜査官は十四人」


 残りの標的を『探知』で瞬時にカウントして通達。

 携帯を捨て、首の関節を鳴らす。


 先程の一撃は始まりにすぎない。


「機式――"エーゲリッヒ・ブライ"」


 鉄塔から大きく跳躍し――堂々と敵地に降り立つ。


「新手かッ――」


 捜査官たちが銃を構え、警戒した様子で無法魔女アウトローと交互に視線を向ける。


 この場で最も警戒すべき相手は横槍を入れてきた魔女。

 しかし、マッド・カルテルの用心棒たちも無視できない。

 金で集められた無法魔女アウトローたちは、仕事を邪魔されては困るとクロガネに敵意を向けてきた。


「ねぇ――」


 その態度が気に入らない。

 狩られる側の分際で、力量差も弁えない愚かさが不愉快だ。


「反抗的な目をしてる」


 咎めるように引き金を引く。

 銃弾の軌道を逸らそうと魔女が手を翳すも――そのまま心臓を穿った。


 串刺姫の時と同じだった。

 取るに足らない有象無象では、クロガネの支配領域で魔法を行使することは許されない。

 この程度の相手なら、全てを反魔力で捩じ伏せられる。


 次の獲物に狙いを定めようとして――軽く身を揺らす。


「なッ――」


 不意打ちを狙っていたらしい捜査官が声を漏らした。

 死角の動きも『探知』で常に把握している。


 先に魔法省を全滅させてしまおうか……と、考えたところで後方から銃声。

 粗暴に声を張り上げて、ガレット・デ・ロワが乱入する。


「さあ野郎共、がむしゃらに殺せ殺せ殺せぇッ――皆殺しだッ! 装備は一つ残らず剥いでいけ!」


 アダムが声を上げる。

 自らが一番前に躍り出て、嬉々として銃声を響かせる。


 乱雑なようでいて、その射撃は極めて正確だ。

 迂闊に顔を出した捜査官はすぐに頭部を弾けさせ、反対側の無法魔女アウトローたちにも牽制するように弾をばら蒔いている。

 彼につられるように、他の構成員たちも好き放題に暴れ始めた。


 この場に死角は無い。

 こちらから見えない位置に待機していても、各場所に潜んだ狙撃手が順番に仕留めていく。

 瞬く間に敵の数が減っていく。


「応援を、応援をッ――クソッ!」


 見覚えのある男が通信機を放り投げるところが見えた。

 ジン捜査官――通信妨害に気付いたようだが、それだけでは何かを出来るわけでもない。


 カルロを軽く制圧する程度には格闘に長けている。

 放置すれば面倒だが、この場に留まっているとレドモンドに逃亡の好機を与えてしまうだろう。


「捜査官はあと五人、マッド・カルテル側はほとんど逃げ出してる」


 主蒸留塔側に逃走する魔女を追う。

 この場はアダムに委ねれば問題ないだろう。

 お楽しみを邪魔するほど野暮ではない。


 このまま強行突破して、密輸される前にエクリプ・シスを確保するのがクロガネの役割だ。

 それ以降は手出しするつもりはない。


「――『能力向上』」


 脚力を飛躍的に向上させ――瞬時に魔女の背中を捉える。


「ひぃっ……ッ」


 急接近する殺気を感じ取ったのか、情けなく声を漏らす。

 クロガネより幾つか年下くらいの少女だった。


 金目当てに雇われただけの無法魔女アウトローだが、一度敵対してしまった時点で見逃すつもりはない。

 後に報復のリスクを抱えるのも面倒だ。


 背中を蹴り飛ばしてバランスを崩すと、少女はそのまま情けなく転倒してしまった。


「い、痛ぁっ……」


 転倒した際にコンクリートの床で肌を擦ってしまったらしい。

 弱々しく涙を溢れさせて、じっと見つめてくる姿から戦意は感じられない。


「お、お願い……許してっ」


 この世界に来てから、もう命乞いは聞き飽きてしまった。

 並みの人間より身体能力は高いものの、この程度の魔女なら支配領域内では年相応の少女でしかない。


 体が微かに熱を帯びる。

 少女の持っている魔力に対して、食欲にも性欲にも似た衝動を感じていた。


 フェアレーターを一撃放っただけでも結構な消耗をしている。

 まだ戦闘に支障はないものの、やはり現状では乱発できるような代物ではないのだろう。


 周囲の『探知』を忘れないようにしつつ、怯えきった少女に手を伸ばす。


 魔力を奪う――その原理は簡単だ。

 強い支配によって相手の体内魔力にまで干渉して吸い出すだけ。

 わざわざ試す者こそ少ないだろうが、災害等級の高い魔女の中には似たようなことを出来る者もいるはずだ。


 とはいえ、反魔力による抑制と同様に"体に密着させた魔力"への干渉は難しい。

 反魔力だけでは、魔女の能力を封じられても人間離れした身体能力までは制限できない。


 だからこそ、境界を曖昧にさせるのだ。

 指でも舌でも何でも構わない。

 体内への侵入は、手っ取り早く魔力を奪える方法の一つだ。


 死体には魔力が残らない。

 消耗が激しい時には、生きたままの状態を利用する必要もある。


「ぅあっ……っはぁぁ……っ」


 少女は呼吸を乱れさせ、ぐったりと疲れ果てた様子で倒れている。

 口内を掻き回された感触に恍惚として、倒れたまま起き上がる気力も湧かないらしい。


 当然、二度と起き上がることはない。

 放心状態の少女に銃口を向け、無言で引き金を引く。


「……」


 酷い殺し方だと嘆息する。

 同時に、自分が魔力を吸い出すことに夢中になってしまったことが不快だった。


 どうやら、魔女としての意識が体に熱を帯びさせていたらしい。

 その先まで望んでしまうほどに。


 これはあくまで魔力回復の手段でしかない……と、クロガネは途中で強引に自制した。


 この程度の魔女では、思っていたほど魔力の足しにならなかった。

 それでも、原初の魔女への捧げ物としては十分だろう。


 主蒸留塔付近では、マッド・カルテルの構成員たちが荷運びの支度を大急ぎで行っていた。

 これを殲滅すれば依頼は完了となる。

File:咎人級『七深ななみ


クロガネに魔力を奪われた少女。

等級は一番下の咎人級だが、遠距離から無数の火球を飛ばす攻撃性の高い能力の持ち主。

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