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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
1章

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45/331

45話

 魔法省の輸送車は大型車両二台、普通車両十台。

 総数で言えば、約五十名ほどが派遣されたらしい。


 やや離れた位置にある鉄塔の上で、クロガネは戦況を窺う。


通信士オペレーター。戦力はどれくらい?」

『構成員五名、準構成員二十名。ボスも含め、大半は裏手の貨物置場に 待機している』

「了解」


 それ以外に、狙撃手もどこかで息を潜めている。

 強襲を掛けるには十分な戦力だろう。

 状況を常に『探知』で窺いつつ、双方が疲弊した辺りで突入する。


 魔法省への"通報"はカルロが行った。

 当然ながら、レドモンドの手勢について全容まで明かしていない。


 応戦できる最小限の範囲で派遣されるように、コンビナートを警備状態を偽って伝えたのだ。

 そのおかげか、程よい数が集まっている。


「……」


 統制の取れた動きだ。

 仕事に当たって一切気の緩みがない。


 先頭に立っているのは、ネペリ支社で指揮を取っていたジン捜査官だ。

 手加減したつもりはなかったが生きていたらしい。


 あれから大して時間は経過していない。

 即座に現場復帰できるのは、運が良いのか、或いはよほど頑丈な体を持っているのか。

 どちらにしても、結局この現場に回されてしまうのでは不運に変わりない。


 そして――。


「始まるよ」


 捜査官たちが一斉に突入する。

 事前に喧しくサイレンを鳴らしていたため、マッド・カルテル側も戦闘の用意は出来ている。


 怒鳴るような"魔法省だッ!"の名乗りの直後――最初の銃声が響く。


 離れていても激しい撃ち合いの音が聞こえてきた。

 捜査官たちの動きは手慣れており、負傷した者は即座に後ろに下がって交代している。


 対するマッド・カルテルは金で雇ったならず者の集まりをけしかけていた。

 威勢こそ良いものの、射撃の腕も連携も遥かに劣っている。

 それを唯一補えるのが無法魔女アウトローの存在だ。


無法魔女アウトローが五人。登録魔女はいないみたい」

『――了解』


 探知に掛かる反応はほとんどが平凡だ。

 戦況を覆す一駒に成り得るほどの逸材はいないが、魔法省と五分に持ち込むには足りている。


「一人、戦い慣れてる魔女がいる」


 恐らく現場で最も力を持つ――咎人級の魔女。

 等級こそ並程度だが、どうやら金属を自在に操る能力を持っているらしい。


 対魔弾も通用しない相手だ。

 捜査官が発砲しても、その直前で弾が軌道を変えている。


 攻撃性こそ低いものの、その分は他の無法魔女アウトローで補っている。

 魔法省側が劣勢に立たされていた。


「……そろそろ情報操作に勘付かれるかも」 


 思いの外、レドモンドの手勢が健闘している。

 カルロの読みも大きくズレてはいないが、戦場では僅かな差異によって大きな動きが生まれてしまう。


 劣勢にしても、罠だと勘付かれるにしても、この状況下で本部に連絡を入れない訳がない。


『――通信妨害装置を起動する』


 政府統一規格による通信周波数を対象として妨害電波を流す。

 これで増援を呼ばれることもない。

 そして、ガレット・デ・ロワでは異なる周波数で通信しているため影響はない。


『エクリプ・シスの位置を教えてくれ』

「中央にある一番大きな鉄塔。そこの根元にあるよ」

『主蒸留塔だな』


 一際高い鉄塔が中央に聳え立っていた。

 その周囲には小さな鉄塔が並んで、入り組んだ足場によって囲まれている。


 戦力を前線に割いているため警備は薄い。

 レドモンドは狙撃を警戒してか、内部の整備室から指示を出しているらしい。


「あれは……」


 そこから離れた位置にある別の蒸留塔群。

 中心となる鉄塔の上に女性が佇んでいるが――『探知』に引っ掛からない。

 目視するまで一切気付けなかった。


 ふと、視線が合う。

 仮面越しではあるものの、顔の動きは明らかにこちらを捉えているものだった。


「……」


 敵意は感じられない。

 相手は高みから見物するだけで、手を出すつもりはないと言いたげに手をヒラヒラと振ってみせる。


『どうした』

「……いや、なんでもない」


 不用意に敵を増やすわけにもいかない。

 横槍を入れてくるようであれば殺す必要があるが、そうでないなら放置すべきだ。


 少なくとも、仮面の魔女は『探知』に引っ掛からない程度の反魔力を持っている。

 無闇に手を出すより放置した方が賢明だ。

 狙撃手の殺意に勘付かれて敵対されるよりもマシだろう。


 思い返せば、裏懺悔もクロガネの意識圏外から現れることが多々あった。

 同等の実力者だと仮定するなら、場を単騎で覆す駒に成り得る。


「……無法魔女アウトローが捜査官を押し返してる」


 戦況はレドモンド側が優勢だ。

 そうなるように虚偽の通報を行ったのだから当然だろう。


『魔法省の退路は塞いである。突入のタイミングは任せるが――』


 と、そこでガサゴソと擦れるような物音が聞こえてきた。


『よぉ、禍つ黒鉄。そろそろカチ込んでもいいんじゃねえか?』


 銃声と喧騒を聞き続けて焦れたらしいアダムが、通信士オペレーターから電話を掻っ攫ったようだ。

 漁夫の利を狙うにしてもノーリスクでは面白味が無い。


「血気盛んだね」

『ドンパチやるなんざ久しぶりだからなぁ!』


 心底楽しみといった様子だ。

 根っからの悪党である彼にとって、こういった現場は遊技場よりも刺激的に映るらしい。


 無理に作戦通りの動きをする必要はない。

 アダムは現時点で強行突破が可能だと判断している。

 通信のやり取りを聞いた上で、これ以上待ち続ける利点は無いのだと。


「……いいよ。派手にかますから、後に続いて」

『それでこそ無法魔女アウトローだ!』


 肩を竦めるが、クロガネ自身も気分の良い高揚を味わっていた。


 力を持つ者は自由だ。

 溜まった鬱憤も全て殺意に乗せて吐き出せる。

 大真面目に撃ち合いをしているマッド・カルテルと魔法省の脇腹を、好き放題に蹴り飛ばしても咎められない。


 クロガネの役割は高台からの強襲。

 手を前に突き出すようにして、狙いをど真ん中に定める。


「機式――"フェアレーター"」


 呼び出してからエーテルを集束、砲撃まで時間が掛かってしまう。

 同じ失態を犯さないよう慎重に威力を定めていく。


 やはり桁違いの魔力喰らいだ――と、クロガネは笑みを浮かべる。


「全部消し飛べ――ッ!」


 夜の闇が激しく明滅し――落雷のような轟音が響き渡る。

File:通信士オペレーター-page1


ガレット・デ・ロワにおける情報部の通信補佐担当。

ちょっと機械に詳しいという理由だけでアダムから無理やり任されたが、その後の努力によって他組織の情報部に引けを取らない補佐能力を身に付けた。

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