表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/331

40話

「レドモンドの奴、何を企んでやがるんだ……?」


 研究施設――随分と前に放棄されているらしく、机を指先でなぞれば埃が付着する。

 内部の電気系統も既に遮断されていた。


 懐中電灯を片手に構え、カルロは周囲を見渡す。


「エーテル濃度は平気?」

「少し息苦しいくらいだが……ま、ちょっと見て回る分には問題ないだろう」


 この施設内は人間が滞在し続けられない状態だ。

 計測器などがあれば、エーテル値は間違いなく"レッドナンバー"を示すはずだ。


「ライトは必要か?」

「いらない」


 魔女になったことで視力も強化されたのだろうか。

 この程度であれば特に支障は出ないらしい。


「積んであるコンテナを開けてみて」


 指差した先にあるのは、クロガネが『探知』で内部を透かせなかったコンテナだ。

 青みがかった独特の色をしているが、材質は金属に近いように見えた。


 カルロはそれをじっと見つめ、驚いたように声を漏らす。


「……こいつは『静性メディ=アルミニウム』で作られてるのか」

「何それ?」

「魔法物質の一つだ。エーテルの遮断性に優れた金属で、対魔武器とかのコアにもよく使われているらしい」


 カルロは愛用の銃を取り出して見せる。

 色味はやや薄いものの、よく見れば黒い銃身に似たような青色が混ざっている。


「俺の『29-49Σ』もそうだ。まあコイツは炭素鋼と混ぜたモンだが……」


 箱だけでもそれなりに値の張る代物だ。

 わざわざ『静性メディ=アルミニウム』を用いたコンテナを用意するということは、運ぶ素材も魔法物質なのだろう。


「さて、開けてみるか――」


 コンテナは厚みのある金属板によって作られている。

 もしロックが掛けられていた場合は持ち帰るしかない――が、特にそうではないらしい。

 蓋は簡単に開いた。


「……こいつはスカだな」


 箱の中には何も入っていなかった。

 放棄されて時間が経っているのだから、肝心の"ブツ"も運搬済みなのだろう。

 開封作業は任せて、クロガネは周囲を見て回る。


 カルロは引き続き他の箱を開けていくが、全て空の状態だった。

 多少値の張るコンテナだけが無造作に置かれているのみ。


「収穫はナシか。ま、仕方ねえ」


 嘆息しつつ、奥の部屋に視線を向ける。

 ドアの前でクロガネが佇んでいた。


「コンテナは全部空だったが……何かあったか?」

「静かにして」


 人差し指を立て、警戒した様子で見つめる。

 中が見えずとも嫌な気配を感じていた。


 ドア上部には"データベース"の文字。

 削除されていなければ、作業記録や外部との通信履歴を見れるかもしれない。


「端末に情報が残ってるなら弄ってみたいところだが……」


 罠が仕掛けられているとは思い難い。

 研究施設内に最近誰かが立ち入ったような形跡は無かった。

 もしそうまでして隠したい物があるならば、エレベーター自体が解体されている方が自然だろう。


 何か理由があって放棄された。

 この場所の特性を考えれば、おおよその見当が付いてしまう。


「……弾をくれ。礼は後日渡す」


 証拠隠滅の恐れがある。

 今でなければ、レドモンドの懐に潜り込めない。


「一箱ね」


 クロガネは作り溜めていたマガジンを呼び出して渡す。

 煙草と釣り合うような価値ではないが、どうせ使い道は同じなのだから問題ない。


 装填を見届けると、クロガネはエーゲリッヒ・ブライを呼び出す。

 さすがに素手で構えるのは危険だ。


「開けるよ」


 電源が落ちているが、それなら蹴破ればいいだけ。

 分厚い金属のドアを粉砕し――即座に『探知』をかける。


「――ッ!」


 接近する反応に後方に退くも、相手は凄まじい勢いで飛び掛かってきた。

 咄嗟に蹴り上げ、仰け反った隙に頭部を撃ち抜く。


「数は二十。全部同じ」

「了解だッ――」


 飛び出してきたのは人間のような形をした――『悪食鬼』と呼ばれる愚者級の魔物だった。

 クロガネが最初の機動試験で戦った相手でもある。


 二人が子どもに見えてしまうほどの巨躯を誇る。

 急所を正確に撃たなければ、銃弾程度の大きさでは足止めにもならないだろう。


 襲い来る悪食鬼を最小限の動きで捌きつつ、確実に仕留めていく。

 その合間を縫うように銃声が後方から響いていた。


「クソッ、化け物がうようよ居やがるッ――」


 そこに恐怖の色は無い。

 仕事に集中している間だけは、泣き言も浮かばないほど頭が冴えているらしい。


 特製の弾があればカルロも比較的マシな戦力になる。

 これまでの戦いで、射撃の腕は人並み以上にあるように思えた。


 とはいえ、愚者級の魔物に接近を許してしまえば即死してしまう。

 大人と赤子以上に身体能力の差があるのだ。

 必然と正面はクロガネが受け持って、隙を突く形で援護射撃をすることになる。


「あと七ッ――」

「っしゃ、殺ってやるッ」


 カルロは弾を撃ち尽くす勢いで乱射している。

 高価な弾薬とはいえ、出し惜しみしている余裕は無い。


「――『装填』」


 エーゲリッヒ・ブライを左右交互に『装填』させる。

 両方同時に弾切れを起こしてしまうと命取りだ。


「これで――最後ッ!」


 両膝を撃ち抜いて崩れ落ちたところに――高々と上げた足を振り下ろす。

 脳天をかかとで叩き割って潰した。


 死屍累々、全て悪食鬼の亡骸だ。

 その数こそ脅威だったが、連携を取って対処すれば問題ない。


「はぁー、これがマシな魔物なら素材で稼げるんだが……」


 カルロは残念そうに肩を落とす。

 人間が変異しただけでは、対魔武器の生体パーツに用いられるような部位は無い。


「……」


 クロガネはカルロをじっと見つめる。


 それなりに有用な男だ。

 危険な現場で冷静さを欠かないほどの胆力を持っている。

 状況を常に窺いながらの援護射撃は極めて正確で、クロガネの動きを阻まないようにという気遣いも感じられる。


 マッド・カルテルの裏切りが発覚した際、アダムは後始末を付けるようにカルロに命令した。

 名誉挽回の機会を与える程度には評価しているのだろう。

 使い捨ての準構成員とは扱いに大きな差があった。

File:カルロ-page2


射撃の腕はそれなりに優秀。

愛用の銃『29-49Σ』にはシグという愛称を付けており、仕事を終える度に分解して整備している。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ