36話
カルロの愛用する銃――『29-49Σ』は取り回しやすく、耐久性に優れた代物だ。
通常の弾薬だけでなく対魔弾まで使用可能なハイブリッド。
クロガネに渡された特殊弾の使用にも耐えられる。
「さて、と――反撃開始だッ!」
カルロは笑みを浮かべて撃ち合いに応じる。
先ほどまではESS装置を前に無力だった。
頭を出した捜査官の牽制が精々で、直接的な火力はクロガネ頼りだったのだ。
――明滅。
弾薬の威力を察する。
そこらの対魔弾と比べても随分と上等品だ。
これを全く気にも留めずに撃ち続けているクロガネの懐事情に興味を持つも、今はその時ではない。
「――ッ、――――ッ!?」
ESS装置の奥から困惑するような声が聞こえてきた。
銃声に掻き消されて詳しい内容までは分からない。
「休んでる暇なんてねえってッ――」
交戦中に無駄なことをしようと考えているようでは素人だ。
カルロは呆れつつも銃撃を続ける。
――明滅。
既に二回、クロガネがESS装置を破壊している。
バッテリー切れの兆候は既に理解した。
容赦はしない。
こういった時に非人道的だなんだと気にするには、三等市民としての生活が長すぎた。
そして――右前方のESS装置が砕け散る。
敵が慌てている様子が手に取るように分かる。
その隙に装填、再び銃撃を開始。
「なんてことをッ――」
遮蔽物が消え去って、露になったのは殉職した三名の捜査官だ。
無意味に銃口を死体に向けて撃っているのだ。
死体を守るように捜査官たちが銃を構え――出てきた頭部を容赦なく撃ち抜く。
これで四人仕留めた。
冷静じゃない。
彼らの思考は正義に"偏りすぎて"しまっている。
その方が捜査官として都合が良いのだろう。
似た者同士を寄せ集めて、親睦を深めさせて、連携の取れた部隊を構築する。
上層部から見てさぞ使い勝手の良い駒に育っているはずだ。
問題があるとすれば、彼らは狡猾な相手に弱すぎることだろう。
「これ以上、命を冒涜するような真似はやめろッ!」
遮蔽物を捨て、一人の男が姿を見せる。
先ほど名乗りを上げていた捜査官――ジン・ミツルギだろう。
全ての銃口が、機を窺うように静まり返っている。
本来なら顔を出す隙間もないはずだ。
「何をやめろって?」
「死体を撃つなと言っているッ」
銃を真正面に、突き出すように両手で構えている。
極めて模範的な捜査官の姿だ。
体格はかなり良い方だろう。
日頃から相当な訓練を積んでいなければ、ここまで鍛え上げることは出来ない。
近接戦闘にもそれなりに長けていると見るべきだ。
「それをやめたら道を開けてくれるのか?」
「ほざけッ――」
銃弾が柱に直撃する。
威嚇のつもりだろうが、その程度で怯むような小心者ではない。
「要求だけして対価もねえって、魔法省の捜査官様は横暴なんだなぁ?」
「お前がふざけた真似をするからだろうッ」
真面目で熱い男だ。
そんな彼の勇姿を馬鹿正直に見守っている仲間たちも、同様に扱いやすい情熱を持っている。
カルロは思わず笑ってしまいそうになり、辛うじて圧し殺す。
「この人数差で、正々堂々殺り合えって? そんな暴論に付き合う物好きなんていねえよッ――」
カルロは再び死体に弾を撃ち込む。
手前で倒れていた中年捜査官の頭部を弾けさせた。
ESS装置の奥から、幾つか小さく悲鳴が上がり――。
「――貴様ぁああああッ!」
激昂したジンが叫ぶように声を荒らげて駆け出す。
柱の影からこそこそと嫌がらせをされることに焦れたらしい。
息を呑むほどの剣幕。
カルロも思わず怯みそうになる――が、これで実質的に一対一に持ち込んだ。
後ろに控えている捜査官たちは、無闇に銃を撃てば味方を撃ちかねないため静観する他ない。
相手は訓練を積んだ捜査官のエリート。
身長に差は無いものの、近接戦闘の腕は相手の方が上だろう。
それでも多人数を相手に撃ち合いをするよりはマシだ。
カルロも銃を構え、意を決して駆け出す。
「いいぜ。タイマン張ってやるよッ――」
挑発に乗って愚行を踏み止まる理性を奪う。
そしてこの状況を作り出すまでは、全てカルロが想定した通りの内容だ。
牽制に銃を乱射――互いにマガジンの弾を全て吐き出させるも、僅かに掠める程度。
殺気に震えるジンと、緊張に震えるカルロとで、両者とも狙いが定まりきらなかった。
そして、武器を捨てた殴り合いが始まる。
File:特殊組織犯罪対策課
魔法省特務部において、主に犯罪シンジケートの組織犯罪を取り締まる捜査官が所属する。
基本的には対人間を想定した訓練を積んでいるが、現場では雇われの無法魔女と遭遇することもあるため対魔女戦闘にも備えがある。




