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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
7章

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327/331

327話

 こちらを"禍つ黒鉄"だと認識した上で接触対象ターゲットと言った。

 ならば相応の準備をしているはずだ。


 ヘルメットの奥から、無感情な女性の声で宣言する。


「――"MER装置"を起動します」


 装置を起動させると同時に、周囲のエーテルが凍り付いたかのように静止する。

 同時に、クロガネの『探知』が効力を失った。


 煌現象減衰装置――通称"MER"は、以前に黎明の杜本拠地を襲撃した際に軍務局が使用していたものだ。

 対象は魔女ではなく空気中のエーテルであるため、反魔力の影響を受けない。


 既に実用化して実戦配備しているらしい。

 人間が魔女という生き物に対抗するためには、魔法という煌現象を封じなければならない。

 逆を言えば、魔法さえなければ魔女はただ頑丈なだけに過ぎない。


 それでも生身の人間と比べれば身体能力に優れている。

 優位性を全て失ったわけではない。


 既に弾丸を込めたエーゲリッヒ・ブライも解除されない。

 魔法という現象を封じるための装置だが、具現化された事象に対して後から効力を発揮することはないようだ。


 ハンデとしては十分だ。

 このくらいの制約がなければ勝負にならないだろう。


「それで、準備はできた?」


 クロガネが自然体のまま尋ねる。

 返答代わりに、隊員たちが先手で動き出す。


 左右から挟み込むように接近。

 ナイフを逆手に持ちながら近接戦闘を仕掛けてきた。


「はッ――」


 包囲されないようバックステップで間合いを取りつつ、迂闊に突っ込んできた相手に強烈な蹴りを叩き込む。

 生身であれば既に骨を粉砕している。

 さすがに頑丈な装甲を身に着けているため、この程度ではダウンしない。


 各隊員の装備は頑丈な装甲とコンバットナイフのみ。

 数の優位はあっても対魔武器などは使用不可能な状況だ。


 MER装置は性質上"エーテルに頼れない"という状況を双方に強いることになる。

 対魔武器の開発によって魔女との差を縮める研究とは正反対のものと言えるだろう。


 身体能力に差があるとはいえ、装甲を貫通するほどの有効打を与えることは難しい。

 それでも物理法則に則った衝撃は与えられる。


 クロガネは蹴りによってバランスを崩した相手に接近し、装甲の薄い腹部に抉り込むように肘を打つ。

 頑丈な装甲でも各部位は独立している。

 無理やり押し込めば圧迫することも可能で――。


「ッ――!」


 力任せに、腹部を潰すように捩じ込む。

 肺の中の空気を無理やり押し出されて呼吸もろくに出来ないだろう。


 即座に反対側にいる隊員が割って入ろうとするが、その動きもクロガネは予想済みだ。

 目の前の隊員は呼吸ができず悶えている無防備な状態。

 そこから容易くナイフを奪い取って、振り向きざまに突き立てる。


 ナイフは装甲の連結部の隙間――左胸部に刺さっていた。

 武器の損傷を気にせず力任せに捻り、引き抜く。


「……」


 この程度で自分が殺られるはずがない。

 不満そうなクロガネと対照的に、隊員たちは一人脱落したことで警戒を強めている。


 だが、敵の指揮官は後方から様子を見ているだけ。

 自分を測るために隊員たちに命を捨てさせているのだ。

 魔女を狩るには、まずは手の内を明かす事から始めるべき――それは紛う事無き事実ではある。


 だが、命の価値があまりにも軽すぎる。

 この世界は特権階級のために他に存在する全てが犠牲を強いられている。


「もう一度だけ確認するけど、準備はできた?」


 まだ仕掛けがあるならさっさと使えばいい。

 こんな不誠実な戦法に付き合うよりずっと気分はマシだ――と、指揮官を睨み付けながら問う。


「では、お言葉に甘えさせていただきましょう。上級-刀剣型対魔武器《透徹》の使用許可を要請――」

《要請を確認――承認。制限を解除します》


 ラプラスシステムに要請し、MER装置による制限下で対魔武器を起動させる。

 優位性を逆転させる切り札と呼ぶべき一手だ。


 視覚情報で得られるのは持ち手部分のみ。

 刀身は《透徹》の名を冠する通り透き通っていて何も見えない。

 形状が一切分からない。


 エーテルを帯びた刃が、間合いが掴めない状態で振るわれる。

 使い手に心得があるなら威力に特化したものよりよほど厄介な代物だ。


「貴女がどのように捌くか、見極めさせていただきます」


 不可視の剣を閃かせ、彼女自ら先頭に立つ。

 同時に隊員たちが左右に散開する。


 魔法を封じ、動きを封じ、その上で指揮官自らが敵を仕留める。

 理想的な対魔女戦闘と言えるだろう。


 真正面から応じるようにクロガネが銃を構える。

 機式ではないが、人間相手なら十分すぎる威力を誇る改造銃だ。

 事前に『錬成』した弾薬をマガジンに込めているため、現状でも最低限の戦闘行為は可能だ。


「見極めるって? 誰が、誰を?」


 銃口を向け、苛立ちを露わにする。

 ただでさえ不機嫌なのに、なぜこの世界はこうも自分を苛立たせるのか。


 戦闘データを取りたいのか、他に理由があるのか。

 どのような事情があったとしても、軍務局内部の人間にそんな事をされる筋合いはない。


 確かめるように向けた銃口。

 その先で、指揮官の女性は意図に気付いたようでじっとこちらを見据えていた。


「……へえ」


 なかなか胆力はあるようだ。

 一方的な無礼に対して気にする様子もなければ、銃口に対する恐れも感じられない。


 その様子にクロガネは疑問を抱きつつも、同時に興味を持つ。

 他の飼い慣らされた家畜共とは違うようだ。

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