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326話

 統一政府カリギュラの執行機関――軍務局。

 治安維持に努める魔法省とは違い、独自の行動指針を持っている組織だ。


 政府直属の軍事戦力ではあるものの、必ずしも議会の決定によって運用されているわけではない。

 上層部は悪魔堕ちに支配され、議員を操り巨大な権力を得ようとさえしている。


 その目的も、他組織と同じく"ラプラスシステム"にあるのだろう。

 全能の管理システムを欲しているのか、あるいはより深部に興味があるのか。


「――間もなく接敵する」

『そうか。こちらも丁度、標的を捕捉したようだ』


 通信先でジェンナーロが返答する。

 だが彼自身は前線に出ていない。


 芯の通った佇まいから、彼が格闘術に長けていることは予想できる。

 もしくはスラムで身につけた喧嘩術か何かだろうか。

 銃もよく使い込まれているように見えた。


 きっと護身には事欠かない。

 それこそ能力頼りの低級魔女であれば対処できそうなくらいに。


 そんな彼は、軍部の策略を警戒して本拠地で構えている。

 下っ端の構成員と雇われの無法魔女アウトローを向かわせて、自らは優雅に酒を飲みながら待つ――彼らしい悪党の在り方だ。


「――『能力向上』『思考加速』」


 正規軍との交戦経験はある。

 装備が違うとはいえ、そのやり口には多少慣れている。


 練度の高さに加え、対魔女戦闘における定石を確実に抑えてくる。

 MEDのような魔法阻害を用いるなど能力を発揮させないことに重点を置いている。

 彼らは魔女であることの優位性を奪うのだ。


 だが、対処が難しいわけではない。


「――『疑似・限定解除』」


 破壊の力を大きく増幅させる。

 両手には機式"エーゲリッヒ・ブライ"を持ち、己の力を誇示するように膨大な魔力を隠すこともしない。


 力を解放すると同時に、敵の分隊がこちらの存在に気付く。

 一定以上の魔力に反応するセンサーでも持っているのだろう。

 彼らは即座に迎撃態勢に移行していくが、


「遅い」


 それよりも先にクロガネが接近する。

 展開されたESSシールドに弾丸をバラ撒いて反撃の隙を与えず、そのまま距離を詰めて。

 魔力を乗せた蹴りによって、強引に道を抉じ開けて分隊の中心に割り込んでいく。


 解決方法は至ってシンプルだ。

 彼らの装備で対処できないほどの存在になってしまえばいい。


 敵に囲まれるリスクよりも、陣形を崩すメリットの方が遥かに上だ。

 そして、咄嗟の対処を封じるように全方位に意識を集中させ、


「――『戦闘演算』」


 支配領域内における全ての事象をデータとして脳に送り込む。


 敵の呼吸のタイミングや僅かな指先の動き、脈拍。

 彼らが立っている地面の状態。

 視界に映らずとも能力による補完があるため死角は無い。


 脳が潰れそうなほどの膨大な情報を『思考加速』によって処理。

 導き出された最適解を『能力向上』によって精密に再現。


 あの時、地下で実験体サンプルを始末した後からだろうか。

 自身の持つ『破壊』の力が高まったように思える。

 クロガネやハクアが持つ遺物本体ではないが、欠片程度は埋め込まれていた可能性が高い。


 一方で"原初の魔女"からの干渉はない。

 クロガネ自身の力が高まっているおかげで、この程度であれば吸収できるらしい。


「――ッああああ!!!」


 苛立ちをぶつけるように咆哮。

 破壊の魔力を放出して隊員を押し飛ばし、体勢を崩した隙に装填し直す。


 エーゲリッヒ・ブライのマガジンには各七発ずつ。

 対して、隊員の数は十名。


 こんなもの余裕だ。

 強烈な殺気に隊員たちが怯みつつ武器を構える。


 クロガネは交差させるように銃を構え、


「――『破壊』」


 過剰な魔力を注ぎ込んだ弾丸を、左右に次々とバラまいていく。

 相手は同士討ちを避けるため銃は使えない。

 近接戦闘に持ち込むには、最適解を導き続けるクロガネを凌駕しなければならない。


 つまり、突破不可能。

 接敵した時点で彼らは全員死ぬ運命にあった。


 これは命のやり取りではない。

 ただストレス解消しているだけ。

 ラトデアに恩を売るというのもついでのことでしかない。


 どうせ相手は軍務局の人間だ。

 雑に使い捨てられる程度の駒に同情する必要はない。


 隊員たちが零した生への執着を聞き流して、


「ッ――」


 敵を殲滅する。

 苛立ちは募るばかりだった。


 ジェンナーロたちは上手くやっているらしい。

 一つ目の分隊と交戦中だが、生命反応を見る限り一方的なようだ。

 想定を上回る敵はいない。


 軍務局にしては手緩い襲撃だ。

 配備されている対魔武器こそ性能は高いが、これでは殺してくれと言っているようなものだ。


 ジェンナーロが言っていた通りの陽動作戦だろう。

 本命がカラミティであれば、この場でクロガネが捕捉されてからトリリアム教会が動き出しているはずだ。


 残る部隊は二つ。

 手早く片付けてゾーリア商業区に戻るべきだが――。


「あれは……」


 気になる反応が一つ。

 他の隊員とは違う装備を身に着けている人物がいる。

 指揮官クラスの可能性が高い。


 その分隊はこちらを標的と定めている。

 進路はラトデアに向いておらず、最短距離でクロガネに接近してきていた。


――どうやら命を無駄にしたいらしい。


 力が増幅している今、こうして『疑似・限定解除』も原初の魔女と繋がりがあった頃と変わらない出力で発動できている。

 体感だが十分程度なら持続させられそうだ。

 交戦自体に大して時間はかからないため、短期決戦を繰り返すような今の状況なら余裕がある。


 しかし、魔力消費を抑えるため待機状態にしておく。

 微弱だが『破壊』の魔力を身に纏っているため、簡易的な能力強化が施されている。


 楽に殺してしまっては、まともなストレス解消には繋がらない。

 いっそ魔力を乗せた格闘術で――。


「……はぁ」


 冷静な思考ではない、とクロガネは荒く息を吐き出す。

 こんな事、リスクを背負ってまで優先すべきことではないはずだ。


 普段なら煙草でも取り出して気を紛らわせるところだが、生憎今はストックがない。

 仕入れを任せているカルロが今回はいつもより遅れているせいもある。


 元々高価で生産数が少ないものだ。

 安定して入手できるものではないため仕方がない。

 この機会に、何かしらストレス解消の手段を増やした方がいいのかもしれない……などと考えつつ。


 邂逅と同時、瞬時に片付けるべくクロガネが銃を構えるよりも前に。


「――接触対象ターゲットを確認」


 敵の指揮官らしき人物が、何かの起動装置を取り出した。

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