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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
7章

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325/332

325話

 ドートミル居住区――犯罪組織"ラトデア"が本拠地を構えるこの一帯は、居住区ながら封鎖区画に近い荒廃を感じさせる。

 大半のシンジケートなら金の匂いがしないと見向きもしない土地。

 そんな場所であれだけ稼いでいるジェンナーロたちは、悪党の中でも特に悪辣な部類に入るだろう。


 魔法物質も鉱物資源もない。

 薬物の原料も育たない。

 寂れた土地で得られるものといえば、人的資源くらいだ。


 力を得てしまえばなんてことはない。

 誘拐、拉致、監禁……そのまま売り飛ばしてもいいが、飼育して"ドナー"として扱っても構わない。

 銃を突きつけてしまえば、生身の人間では泣き喚くくらいが精々だ。


 他者を陥れ、自らの糧とする。

 その繰り返しで成り上がってきた彼らは、まさしく大悪党と呼ぶに相応しい。


 だからこそ、統一政府カリギュラに目を付けられてしまったのだろうか。


 既に日が暮れて久しい時間帯。

 夜目が効く者でなければ、駅から離れ灯りの乏しいこの場所で戦うことは困難だ。

 当然、相手は暗視スコープを装着しているはずだ。


「――『探知』」


 自身の力を隠す必要はない。

 ラプラスシステムによる観測は、実際のところは名前だけのハリボテでしかなかった。

 Neef-4ネーフ・フォーによる妨害機能を真似てしまえば、今更どうということもないだろう。


――やはり、誰もがラプラスシステムを欲しがっている。


 全知全能の観測装置。

 その出力は、きっと今のクロガネでも遠く及ばないほど。

 議員と軍部、魔法省――恐らく"あの男"も争奪戦に参加しているはずだ。


 気掛かりな点があるとすれば、ラプラスシステムの発案・制作に携わった人間が一切不明な点だ。

 高名な魔法工学技術者は全て調べたが、誰一人として関わっていない。

 ユーガスマから連絡先を預かったチェリモッドのように、精々が後から仕組みを知らされて関与した者くらいだ。


 議員についても、軍部についても。

 未だ謎が多い相手だ。


 もし、今回のラトデア襲撃に姿を見せてくれるのであれば――。


「――見つけた」


 徹底的に尋問して情報を吐かせる。

 幹部クラスが控えていれば手っ取り早いが、さすがにそこまでの期待はできない。


 捕捉した標的は十名――極めて高性能な対魔武器を装備している。

 生命反応としては人間に分類されるが、どこか違う気配も纏っているように思える。

 何かしら改造手術を受けているのだろうか。


 同規模の分隊が別方向に三つ。

 総数は小隊規模のようだ。


「軍務局に恨みでも買った?」


 クロガネは呆れたように尋ねる。

 傍らではジェンナーロが肩を竦める。


「金銭が得られるなら手段は問わない。そうやって生きてきた」


 生まれながらの三等市民が成り上がるにはそうせざるを得なかった。

 報復に怯えて過ごすような性格でもない。


「トリリアム教会が仕向けた可能性がある」


 何か証拠を掴んでいるわけではない。

 だが、この推測は正しいと彼は考えている。


 カラミティとラトデアが手を組んでいる現状。

 トリリアム教会もそれぞれに引けを取らない規模の組織だが、同時に相手をするには戦力が足りない。


「だが、この規模を考えると……本命は禍つ黒鉄、キミの方かもしれない」


 ラトデアを足止めしつつカラミティを制圧する。

 軍務局の立場からすれば、政府機関を揺るがす可能性が高い組織を潰しておきたいはずだ。


 この隙にトリリアム教会がゾーリア商業区を襲撃していてもおかしくはない。

 恐らく同じ答えに至っているはずだが、クロガネは落ち着いているように見える……その様子にジェンナーロは感心しつつも、


「声をかけておいて今更だが、我々だけでも戦える。多少の損害を甘受すれば……という前提だがね」


 純粋な財力で言えばカラミティより優れているように思える。

 そんなラトデアが総力を挙げて挑めば、この襲撃も退けられるはずだ。


 だが、クロガネは首を振る。


「気を遣うほどヤワじゃないから」


 揃えた手駒は各々が優れた才覚を持っている。

 この程度の不在で揺らぐ程度であれば、それはそれで仕方がないと割り切れる。


――本当だろうか。


 一瞬だけ疑問を抱くも即座に握り潰す。

 自問自答を始めるつもりはない。

 ただの手駒だと結論付けて、クロガネは現在に意識を戻す。


「……各方向から等間隔で接近してきてる。包囲される前に仕掛けた方がいい」


 距離はまだ開いている。

 このタイミングで各個撃破していけば、ラトデアの本拠地に損害が出る事もない。


「今回はツテのある無法魔女アウトローも雇っている。だが戦力を分散させるとなると……一方向は任せたいところだが」


 分隊一つを相手取れ、と。

 そんなジェンナーロの言葉に大きく嘆息する。


「馬鹿なこと言わないで」


 そんな程度で満足するはずがない。

 あの男のせいで苛立っていて、その発散のために駆け付けたようなものだ。

 地下での戦闘で魔力が高まった今、存分に暴れてやりたい気分だった。


「半分は私が殺る。あとは自分で何とかして」


 返答を聞くこともせずクロガネは駆け出す。


 彼もまた優れた悪党だ。

 連携など取らなくとも上手くやってくれるだろう。

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