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319話

 原初の魔女とは、汎ゆる魔女の源流となる始祖。

 万象を司る『創造の右腕』と、終焉を司る『破壊の左腕』を持つ者。


 対となる能力を兼ね備え、魔法によって様々な現象を自在に操る。

 全ての生き物から畏怖される力の象徴。


 そんな彼女が持つ魔力は特別だ。


『――"創造"』


 実験体の少女が手を翳す。

 研究施設から莫大なエネルギー供給を受けながら生み出したものは、金属質な素材で作られた巨大な円環。


 よく見れば、それは無数の銃口を束ねた攻撃装置だった。

 危険を察知したユーガスマが庇うように前に立つ。


『――"破壊"』


 指示は極めて単純。

 自分の目の前にいる二人を殺せ、と。


 円環がカラカラと音を立てながら回転を始め――弾丸の雨が降り注ぐ。


「ッ――!」


 その全てをユーガスマが素手で撃ち落としていく。

 どれだけ数を増やしたところで、銃火器の類では決して彼に害を与えることはできない。


 そのはずだったが、


「威力を見誤ったか」


 だが約十秒ほどの攻防の後に、ユーガスマは己の拳を見つめる。


 その手には僅かだが出血があった。

 目の前の実験体は、彼の技術さえ強引に捻じ伏せる威力の魔法を扱えるようだ。


「だが――」


 それを好機と見たらしい実験体が、凄まじい速度で接近してきた。

 馬鹿げた出力の『破壊』を手に宿している。


 確かに彼女の魔法は脅威だが、威力だけが全てではない。

 それを示すように、繰り出される攻撃の全てをいなしていく。


 同時に、観察に徹することで戦闘スタイルを見極めていく。

 そして攻撃の途切れるタイミングに合わせ、


「破ッ――」


 魔力を乗せた掌底を押し込み、そのまま実験体を吹き飛ばす。

 警戒しているらしく追撃は仕掛けない。


 代わりにクロガネが銃を構え、


「――『破壊』」


 出し惜しみせず高出力の弾丸を浴びせる。

 だが、軌道を何かに阻まれるような感覚があった。


 セクタβベータの戦闘支援によって障壁を張っているようだ。

 その強度はラプラスシステムのそれに引けを取らない。


「あれは物理的な障壁ではない。対象の受ける負担を緩和する魔法装置だ」


 ユーガスマも同じものを相手にしたことがある。

 その時、攻撃はあまり通用していなかったが確かに痛みは与えられていた。


 同様に目の前の少女も攻撃を受けた箇所を押さえている。


『痛い……ッ』


 縋るような弱気な声を出す。

 かと思えば、すぐに殺気を取り戻して手元に魔力を集めていく。


 何か来る――と、危険を察知した時には、既にユーガスマが動いていた。


 力強く地面を踏み込む。

 距離を詰めるだけの前動作ではない。

 周囲の足場を粉砕し、一帯を激しく揺さぶる。


 そして体のバランスを崩した少女に向かって急接近する。


『来ないでッ!』


 これまで戦ってきた魔物とは違う。

 殺しの技術を持つ二人に狙われ、死の恐怖から反射的に力を解き放つ。


 乱雑ではあるが、施設から供給されるエネルギーを上乗せしている。

 迂闊に近付けば致命傷になりかねない。


 ただ身に纏うだけでも脅威となる。

 それだけ『破壊』の魔力は危険なものだ。

 ユーガスマも正面から突破するには厳しいと判断して接近を断念する。


 この実験体はひたすら魔物とだけ戦ってきたらしい。

 自らの発する高濃度のエーテルによって魔物が勝手に生まれ、その中で必死にもがきながら生を繋いできている。

 大振りな攻撃手段もその中で培われてきたようだ。


『なんで殺されてくれないのッ――』


 鬼気迫る形相。

 それはきっと、この地下空間に長く閉じ込められていることだけが原因ではないはずだ。


 彼女もあの男に何か吹き込まれているのだろう。

 例えば――。


「私たちを殺したら自由になれるって?」


 そんな甘い言葉を信じるバカはいない。

 悪魔の囁きに縋らざるを得ないほど追い詰められているのだろうか。


『ッ――』


 挑発が効いたらしい。

 殺気立った様子で今度はこちらに狙いを定めている。


 感情に呼応しているのだろうか。

 周囲のノイズがより激しさを増している。


 ユーガスマが確認するように視線を送ってきたが、首を振って拒む。


「こいつは私が殺る」


 相手の対人技術は素人と変わらない。

 ただ暴力的に魔法を振り回しているだけ。

 それでも殺し合いになれば、自分の方が不利だと理解している。


 だが、二人で力を合わせるほどかと問われればそうでもない。

 道中の魔物の大半はクロガネが処理してきた。

 ほとんど消耗していない状態のユーガスマであれば、一対一であれば負けることはないはずだ。


 殺せば殺すほど強くなる――それが原初の魔女による報酬。

 繋がりの途絶えた今でも、手に掛けた相手の魔力を微量だが吸収することができる。


 本当によくできている、とクロガネは嘆息する。

 この状況で自分にリスクを取らせるように仕組まれている。

 そうなれば戦闘も記録されているはずだ。


「"横槍"が入らないようにして」

「いいだろう」


 これが全てとは思えない。

 単純なゲームで満足するような性格なら、ここまで自分たちが苦しめられることもなかったはずだ。

 そんな考えを察して、ユーガスマは後方に下がる。


「――『能力向上』『思考加速』」


 出し惜しみをする理由はない。

 悪魔堕ちの相手を引き受ける代わりに、あらゆる想定外をユーガスマに任せてある。


「――『戦闘演算』」


 ここで魔力を使い果たしても構わない。

 殺戮の報酬――今回の標的はそのリスクを取るだけの価値がある。


 何よりも、彼女には確認したいことがあまりにも多すぎる。

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