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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
1章

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31話

 アルケミー製薬株式会社ネペリ支部――医療用バイオプラントの培養場という名目で作られた施設。

 大層な肩書きだが建設途中で、未だに至るところで工事用の重機が慌ただしく稼働している状態だ。


「――訪問のご予約はございますか?」

「レドモンド支部長と十四時から。カルロが来たと言えば伝わるはずだ」

「少々お待ちください」


 ゲートの警備員が問い合わせる。

 直接顔を見に来られては、さすがにレドモンドも無視するわけにはいかないだろう。


「確認が取れましたので、このままお進みください」


 渡された入館証を首にかける。

 クロガネは念のため『解析』をかけておいたが、特に問題はないようだった。


 そして――『探知』に引っ掛かる反応が幾つか。

 対魔武器を携帯して防弾チョッキまで身に着けた警備員がいる。


 培養施設としての重要性を考えれば不自然ではない。

 とはいえ、レドモンドの息が掛かって私兵状態になっている場合も考慮すべきだろう。


「……ビル内に戦闘要員は二十人。内五人が銃型の対魔武器を携帯してる」

「内部までお見通しってことか。頼りになるぜ、ったく」


 カルロは呆れたように肩を竦める。

 そういった情報を事前に得られるのはありがたい限りだったが、同時に相手が哀れに思えてしまう。


「なあ、ちょっと聞きたいんだが。アンタ、災害等級は?」

「そういうのは興味ない」


 借り物の力を誇るつもりもないし、どのような評価をされているのかも気にならない。

 クロガネにとって重要なのは元の世界に戻ることだけだ。


 とはいえ、実際に検査せずとも大凡の推測は出来る。

 これまでの戦闘経験から言えば、魔女としての地力は戦慄級に届いているだろう。


「……」


 あくまで"地力"だけ。

 裏懺悔を相手に互角に渡り合えるかと聞かれれば否だ。

 大罪級だった色差魔は力任せに捩じ伏せられるが、彼女に関しては底知れない異質な気配を感じてしまう。


 今は関係ないことだ……と、クロガネは思考を切り替える。

 仕事に集中しなければ。


 駐車場に車を停める。

 建物から比較的近い位置で、他の車両が多い場所を選んだ。

 カルロは敗走する場合も想定しているようだ。


 車外に出て、ビルの入口に向かう。

 入館証を見た警備員に案内され、エントランスに堂々と足を踏み入れた。


「よく来てくれた、カルロ」


 予約無しでの面会だったが、強引にスケジュールが入っていたように改竄したらしい。

 質の良いスーツを身に着けた四十半ばほどの男性が二人を出迎える。


「……あぁ」


 何事もなかったかのように振る舞っている。

 睨み付けられても涼しげな表情で、その胆力は見事なものだ。


「それで、用件の方を聞きたいのだが……」

「コーヒーぐらい淹れてくれよ。立ち話は疲れる」


 エントランスにはまともな遮蔽物がない。

 対魔武器には意味を成さずとも、通常の銃火器を相手にするなら撃ち合いをしやすい空間の方がいい。


「……これは失礼。同行のお嬢さんにも、紅茶と焼き菓子を用意させよう」


 レドモンドに連れられてエレベーターに乗り、最上階の応接室まで移動する。

 階数は地上三十五、地下は三階までとかなりの高層ビルだった。


 応接室も間取りは広い。

 執務用のデスクが窓側に配置されており、入口側には長いテーブルを挟んで四人掛けのソファーが向き合わせに二つ。

 それなりの大人数を想定して作られているのだろう。


 とはいえ、クロガネからすれば部屋全体が自身の間合いと変わりない。

 機式を呼び出してから照準を合わせ、引き金を引くまで――精々コンマ三秒程度だ。


 相手が生身の人間ならば、高い身体能力を駆使して徒手空拳で容易に制圧出来る。

 銃を構えさせたところで豆鉄砲に変わりない。

 対魔武器だけ警戒すればいい。


「……」


 当然ながら相手も警戒体勢に入っている。

 再び『探知』を行うと、いつでも襲撃を仕掛けられるように部屋の周囲で待機しているのが分かる。


「立派な事務所を構えてるじゃねえか」


 上座にはカルロが堂々と腰掛け、その後方にクロガネが待機する。

 立場はこちらが上だ。

 対面に座ったレドモンドを威圧するように足組みをして、カルロが口を開いた。


「あぁ、支部長さんよ。アンタの"事業"が上手く運んでいるようで何よりだ」

「これも全て、ガレット・デ・ロワの助力あってのことだよ」


 あくまでしらを切るつもりらしい。

 未だに余裕に満ちた表情を崩さない様子に、クロガネは僅かな違和感を覚える。


「その通り、助力あってのことだ。中小企業のままCEMケムに使い捨てられるより、目を盗んで腹を肥やした方がずっと良い」


 口調は冗談目かしているものの、カルロの眼光は鋭い。

 直接言わずともレドモンドは理解しているはずだ。


「……密輸ルートが割れてしまったことは詫びよう。それはこちら側の不手際だ」


 損害に対する補償はする、とレドモンドが言う。

 魔法省がどのようにして嗅ぎ付けてきたのか、全く分からないといった様子で深刻そうに頭を下げる。


「裏切り者がいる。横槍を入れてブツを掻っ払おうとしたバカがな」

「ふむ……目星は付いているのかね?」

「ああ。こんな顔をした奴だ」


 カルロは懐から何かを取り出す。

 背後で身構えているクロガネには見えていないが――それは小さな鏡だった。


 当然、そこに写るのはレドモンドの顔だ。


「一体どういうことだね、カルロ」

「襲撃してきた魔女が自供した。もっと金をかけるべきだったな」


 愚者級であれば、魔法省の捜査官と輸送班を相手にしてもお釣りが来る……と、そこまでは凡人の想定だ。

 運が悪いことに、その匂いを嗅ぎ付けた悪逆の男がいた。


「ウチのボスは始めからアンタらを信用していなかったらしい。輸送班がリュエスから離脱できなくなった時に、ここにいる戦慄級の魔女を送ってくれたってワケだ」

「……戦慄級だと?」


 レドモンドは訝しげにクロガネを見つめる。

 雇うために莫大な費用を要する戦慄級の魔女を、こんな些末な仕事に使っているのだという。

 事実とは到底思えない発言だ。


 だが、カルロは護衛をたった一人だけ連れてこの場にいる。

 戦慄級でなくとも、相応の実力者であることは確かなのだろうと推測していた。

File:レドモンド・アルラキュラス-page1


アルケミー製薬株式会社の幹部。

これまでの仕事を評価されネペリ支部の経営を一任されている。

紳士的で愛妻家、部下からの信頼も厚く、表向きの顔はとても出来た人物。

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