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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
7章

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309/332

309話

 魔女の能力については未だ謎が多い。

 仕組み自体は単純だが、どのような法則が働いているのかまでは解明されていなかった。


 一般的に、エーテルによって引き起こされる現象は魔法と定義され、エーテルに干渉する力を魔力と定義される。


 扱える魔法は個々によって異なる。

 物体に干渉する超能力や、炎や雷など自然現象を操るもの。

 自身の力を増幅させるものから、稀有なものでは他者の心を読むものまで。


 魔法省の真偽官は嘘偽りを暴く能力を持つ魔女が選ばれる。

 多様な能力は様々な場所で活躍する一方で、研究サンプルとして人知れず連れ去られていることも少なくない。


 そんな中でも、

 

「……魔物を操る無法魔女アウトローですか」


 一通りの報告を読み終える。

 ユリンホーフ居住区における交戦記録は、屍姫から見ても興味深いものだった。


 およそ百体近くの魔物を同時に操る少女。

 特級−星球式鎚矛『冥帝めいてい』という対魔武器を振り回し、実戦経験に関してはハスカの格闘術に対処できるほど。


 魔女は基本的に個としての力に優れている。

 だからこそ生物的優位に立てるのだが、それを覆すために発明されたのが対魔武器だ。

 これを用いることで、魔法省という組織は治安維持を可能としている。


 その中でも特級は規格外の性能を持つ。

 報告書には"意識が飛びそうになるほどの衝撃波を生み出す"という破壊力の高さが記されていた。


 魔物を操る能力という意味では屍姫も同様だ。

 死体をアンデッド化させて使役するため、一度殺さなければならないという手間はかかる。

 だが、その少女はハスカの使役している黒鬼の支配権を奪おうと干渉していたのだと。


「これは少し、対策が必要かもしれませんね」


 屍姫が生み出すアンデッドも魔物だ。

 数を揃えたところで、支配権を奪われてしまえばかえって不利になってしまう。


 そうでなくとも、アンデッドには基本的に細かな命令が効かない。

 僅かでも支配権を乱されてしまえば役立たずだ。

 対抗するには結び付きの強い――"名付き"の駒を揃える必要がある。


 だが、以前の戦闘でルークとビショップは失われている。

 今持っている手駒はナイトのみで、後は使い捨ての駒程度しか残っていない。


 より強いアンデッドを従える必要がある。

 黒鬼たちが干渉に耐えられたとなれば、それと同等以上――最低でも大罪級相当の力が必要だ。


 だが、屍姫自身が大罪級の魔女だ。

 等級の高い魔物や魔女を仕留めるには入念な下準備が必要となる。

 これまでの"名付き"も苦労して手に入れたものだったが、今後のことを考えればより質の高いアンデッドが欲しい。


 少しばかり癪だが、彼女の手を借りるべきだろう。

 そう考えて屍姫は手短にメッセージを送る。


――戦力拡充に協力してほしい。


 クロガネが不在の今、カラミティ内部から戦力を連れ出すべきではない。

 外部の有力な無法魔女アウトローに依頼すべきだ。


 時刻は深夜三時。

 さすがに朝まで返信はないだろう。


 待ちながら別件の処理を進めていると、端末に通信が入る。

 目当ての相手ではなかった。


「……こんな遅くに、何の用ですか?」

『あぁ、すまん。一つ聞きたいことがあってな』


 通信先の相手はカルロだった。

 普段ほとんどやり取りのない彼から連絡が来たということは緊急の用件なのだろう。


『そっちにはあと何箱残ってるんだ?』

「……煙草のことでしょうか?」


 カルロは煙草の買い付けを任されている。

 そろそろ減ってきた頃だと思って連絡してきたのだろう。


 屍姫は自身の記憶を辿る。

 今朝も灰皿に吸い殻が三本増えていた。

 必ず出掛けに一箱は持っていくため、その分の余裕もあるが――。


「ちょうど最後の一箱を持って出かけたところですね」

『マジかぁー……どうするかなぁ……』


 通信越しでも項垂れている様子が伝わってきた。

 どうやら煙草を確保できていないようだ。


「クロガネ様のペースなら二、三日は余裕があるはずです。それに、流通量の少ない煙草とは聞いていますが、手に入らないほどではないでしょう?」

『いや、それがダメだったんだ。どこのどいつか知らないが、片っ端から買い占めてるヤツがいるらしい』


 打つ手無しだ、とカルロが言う。

 流通量の少ないものとはいえ、高価な煙草を買い占められるような人物がいるらしい。


『どこかに流れているような形跡もないんだ。一日に何カートンも吸うような、バケモノ級のヘビースモーカーがどこかにいるかもしれない』

「そうですか」


 そんなバケモノがいるはずもない、と呆れつつ。

 だが、それも集団で買い占めて吸っているとすればあり得る話だ。


 お気にいりの煙草があるため他のものでは誤魔化せない。

 甘ったるいバニラの香りが特徴的な、スピカという銘柄のものだ。

 原料の都合で大量生産は難しいと言われている。


 たかが嗜好品とはいえ、これはクロガネがストレスが溜まっている時に吸うことが多い。

 そんな様子を見ていたため、確かにまずい事態だと屍姫も納得する。


『とりあえず、クロガネが戻ったら適当に伝えておいてくれ』

「分かりました」


 その状況下で動くには猶予が少ない。

 確実にカルロは怒られることになるだろう。

 そんな事を考えながら通信を切る。


 クロガネを煩わせる者たちを疎ましく思いつつ。

 だが一方で、屍姫はこれもチャンスなのだと捉える。


(煙草がなければ、ストレス解消に私を可愛がっていただけるのでは……?)


 普段より多く構ってもらえるかもしれない。

 そんな事を考えつつ、進めていた事務処理を再開する。

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