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281話

 戦局が加速していく中で、機動予備隊と襲撃者の戦いが続いていた。


「……っ」


 槍を召喚したハクアが距離を詰め、連撃を繰り出す。

 その速度は視認することが困難なほどだったが、襲撃者は至って冷静な様子で対処している。


 手を添えるように穂先に触れ――衝撃を逸して受け流す。

 どれだけ鋭い突きでも関係ない。

 槍そのものがエーテルを帯びているため、力の向きを変化させてしまえば何の脅威にもならない。


 それでも物理的な攻撃まで逸らせるわけではない。

 その特性に勘付いたハクアが、今度は身を捻るようにして蹴り付ける。


 だが、襲撃者は周囲のエーテルを掻き集めて防護壁を作ることで受け止める。


「人造魔女か」


 ハクアを忌々しそうに睨み付ける。

 CEMケムの人体実験について何か知っているような素振りだった。


「……私は使徒。原初の魔女の右腕」


 穂先を向け、告げる。

 彼女は偉大なる主のため、魔女の血を捧げなければならない。


 殺戮を望んでいる。

 その要求に応えるだけの人形。

 機動試験によって大半の自我は失われ、その隙間を埋めるように思念を送り込まれている。


 危険な気配に気付いた襲撃者が、ハクアを脅威と認め手を翳す。

 この場で仕留めるべき相手だと定めてエーテルを集束させ、


「――爆ぜろ」


 一点に集中させるように炸裂させる。

 シクスラムダの動力炉から奪ったエーテルを全て注ぎ込んだ一撃だ。


「ハクアッ――」


 ジンが声を上げる。

 明らかに無事で済むような威力ではない。

 生身の彼では高濃度のエーテルが渦巻いている空間に割って入ることもできない。


 だが、それは杞憂だった。


「召装――"レビテーション・ウォール"」


 ハクアの周囲を四枚の盾が浮遊している。

 それ自体も高い防御性能を持つが、召喚することでハクアを守るように防護層のようなものが生み出されていた。


 とはいえ、エーテルによって生み出された物体であることには変わりない。

 槍と同様に簡単に対処されてしまうだろう。


 その対策として、最も手っ取り早く有効な手段。

 使徒にのみ許された、魔女としての格を引き上げる強力な加護――。


「――『限定解」

「あー待て待て! 争っている場合じゃない!」


 ハクアの魔力が一瞬だけ高まりを見せ、すぐに元に戻る。

 瓦礫を掻き分けて、カラギが慌てた様子で駆け付けてきた。


 よく見ると、その手には無力化された蜂の魔物を携えている。


「主任、それはいったい……」

「説明している時間も惜しいが、要点だけ話す」


 カラギが手に持った蜂の魔物を襲撃者に見せるように持ち上げる。


「こいつは魔女を凶暴化させる危険な薬物をバラまく生体兵器だ。商業区内に何体投入されたか分からんが、急いで駆除しないとまずいことになる」


 非常事態だとカラギが念を押す。

 フィルツェ商業区には無法魔女アウトローと登録魔女が集まっている。

 もしその全てが被害にあえば止める手立てはない。


「信用出来ない」


 襲撃者はカラギに向かって手を翳す。

 圧縮されたエーテルが弾丸のように撃ち出されるも、カラギは軌道を見切って躱す。


「あぁ、言い忘れていたな……こんな見てくれだが、一応は魔法省特務部の主任をやっている」


 簡単に殺せるとは思わないでくれ、と忠告する。


 彼が機動予備隊に合流した時点で立場は逆転している。

 そう主張しつつも、職務に則って危険因子を捕縛しようというわけでもない。


「別に無法魔女アウトローであるお前たちを助けようというわけではない。だが、今は停戦しなければより厄介な事態になる」


 もう被害が出始めている。

 それを示すように、互いの無線に混乱した者たちの救援要請が流れ始めた。


「……」


 襲撃者が無言で背を向けて駆けていく。

 仲間たちの救援を優先したようだ。


 目先の脅威が去ったことで隊員たちが安堵する。

 だが、これは始まりに過ぎない。


「主任、どうか事情を教えてください」

「あぁ、そうだな。ミツルギ君には教えておくが――」


――軍務局が動いている。


 そう耳打ちする。

 他の誰にも聞かせるつもりはないらしい。


「どのようにしてその情報を……?」

「長官から現場の指揮を任されている。君たちも以後は私の指示に従うように」


 話題を逸らしてはぐらかす。

 まだ情報源についてまで明かせるほどの信用はない。


「この魔物は、君たちの装備であれば駆除は容易だろう。だが通常の機器では反応を掴めない」


 カラギが魔物の背中に取り付けられた装置を指差す。

 これがある限り、どれだけ接近されても魔物と判断することはできない。


「ヘイズ、君はこの魔物の気配をよく覚えておきなさい」

「うぅ、気持ち悪い……」


 蜂の魔物をじっと見つめながら呟く。

 気配さえ分かれば、彼女の探知能力で割り出すことができる。


 問題は、既に被害に遭ってしまった魔女の扱いについてだ。


「カラギ主任。凶暴化した魔女はどう処理すれば……」

「それは私に任せておきない」


 思い出したようにTWLMツウェルムを取り出して、バッテリーを装着する。

 これでいつでも使用可能だ。


 極めて殺傷能力の高い武器だ。

 カラギのTWLMツウェルム――壱式"ナラクバチ"であれば、毒性を帯びた刃で弱らせて無力化することもできる。


 だが、そんな生易しいことをしていられる状況ではない。

 険しい表情を見てジンは息を呑む。


「まさか、鎮圧するのではなく……」

「凶暴化した魔女は魔物と同様に元には戻せない。残念だが、殺処分せざるを得ない」


 その生態を知っているような口振りだ。

 蜂の魔物に関しても、埋め込まれている薬が魔女を凶暴化するということをどこで知ったのだろうか。

 そもそもどうやってそんな魔物が紛れ込んでいることに気付いたのか。


 特務部主任に任命される人物とはいえ、事前情報も無しにそこまで知り得るのだろうかとジンは疑問を抱く。

 単にカラギが優秀というだけでは説明が付かない。

 もしかすれば、魔法省の外部に協力者を作っているのでは……と。


「とにかく今は被害を減らすことに注力しなさい。それが魔法省の使命でもある」


 そんな思考を遮るように、カラギが再度命令する。


 機動予備隊は貴重な戦力だ。

 純粋な魔女は存在しない上に個々の能力も優れている。

 こういった非常事態においても、自由に動けるように裁量も与えられている。


「……始まってしまったな」


 大きく嘆息して、カラギも行動を開始する。

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