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280話

 堕の円環ディプラヴィアと魔法省が市街地戦を繰り広げている。

 逃げ惑う市民さえ無法魔女アウトローたちは標的にして、徹底的に"人間社会"を壊しに来ていた。


 彼女たちにとって想定外だったのは、雷帝らいていを仕留めきれなかったことだろう。

 エルバレーノ四番街での奇襲を防がれてしまった結果、火輪かりんを始めとした魔女たちが逃げ道を塞がれてしまった。

 だが、この状況を利用することでかえって混乱を生み出すことに成功している。


 逃げ遅れた市民たちは次々と餌食になっていく。

 直接何かをしたわけではなくとも、この社会に生きているだけで彼女たちから見れば罪人と変わらない。


 全ては魔女のため。

 虐殺も厭わない過激な思考の持ち主が集まっている。


「……当初はそんな組織じゃなかった」


 クロガネは烟に勧誘された際のことを思い出す。

 少なくとも、あの時点では互いの仕事を邪魔せず情報共有を行う程度の組織だった。

 魔法省に追い詰められた際に救援に向かうくらいで、先手を打って仕掛けていくようなものではなかった。


 そのうち暴走する……そんな予想は当時からしていた。

 元々が今の社会に不満を持った魔女たちの集まりなのだ。

 力を持つ者たちがあれだけ所属していれば強気に出るのも当たり前だろう。


 身を守るだけでは何も状況は変わらない。

 ならば力を使って解決に向けて進めるしかない。


「あの堕の円環ディプラヴィアって組織、クロガネさんはどう思います?」

「質も量も揃ってる。魔法省相手にこれだけやれるなら、そう簡単に潰される組織じゃない」


 特に、フードを被った無法魔女アウトローが気になる。

 恐らくは組織のリーダーなのだろう。

 各所で交戦が続いているが、戦況は常に彼女を中心に動いている。

 

 反体制派の組織となると"統一政府カリギュラの掌握"を目的とするクロガネと争いになる可能性もある。

 元の世界に戻るための手段を得るまでは潰させてはならない。


 話し合いで解決できる相手ではない。

 魔女至上主義のように見える過激な思想。

 これが人造魔女である自分も含まれているとは考え難かった。


「――止まって」


 クロガネが歩みを止める。

 色差魔も異変に気付けたらしく、真兎とカルロを庇うように周囲を警戒している。


――周囲のエーテルにノイズが走る。


 エーテルによって変質した魔女が現れる兆候だ。

 距離は少しあるようだが、接敵する可能性はゼロではない。


 野良の魔女か、もしくは軍務局の幹部が姿を現したのか。

 後者であれば厄介なことになる……と、クロガネが『探知』の範囲を広げていると、


――周囲のエーテルにノイズが走る。


「――ッ!」


 新たに一つ、変異した魔女の出現を感じ取る。

 探れる程度の距離で二体。

 四人で同時に相手をするよりは、自身の手で各個撃破した方が楽だろう。


 元が魔女ということは分かっても、登録魔女か無法魔女アウトローかの判別は出会ってみなければ分からない。

 より出力を上げて『探知』を行えば装備から割り出せるかもしれないが現状はリスクでしかない。


 クロガネは色差魔に視線を向ける。

 微弱な『探知』ですら、これだけ把握出来ているのだ。


「……これちょっとヤバそうだよね?」


 色差魔も異変をしっかりと感じ取っている。

 あまり商業区内に留まっていると、次の厄介事に巻き込まれかねない。


「なあ、何が起きてるっていうんだ?」

「魔女が変異してる。さっき見たアレと同じ」


 救援に駆けつけた際、登録魔女が変異する瞬間を二人も目の当たりにしている。

 そのトリガーとなったものは煌性発魔剤だったが、まだ原因が同じとまでは断定できない。


『あー、あー。聞こえるかしら?』


 状況確認のために端末を取り出すと、同じタイミングでマクガレーノから通信が入る。


「商業区内で何が起きてる?」

『例の変異した魔女がそこら中で発生してるわ。勢力問わず、ね』


 双方とも大きな被害が出ているのだと。

 煌性発魔剤を使用しているのであれば説明は早かったが、堕の円環ディプラヴィア側も同様となると原因が分からない。


 通信の最中、どこからか微かな羽音が聞こえてきた。

 ただの虫に時間を割いている暇はない……と、気にせずマクガレーノと話していると。


「うおっ――」


 急に近付いてきた虫に驚いたカルロが声を上げ、銃で撃ち落とす。

 周囲に銃声を響かせてしまった。


「……カルロさん?」

「いや、悪いって。なんかちょっと気持ち悪かったんだよ」


 真兎の咎めるような視線にカルロが言い訳をする。

 クロガネから渡された弾を消費してしまったことを後悔しているようだ。


 だが、その虫を見て色差魔が目を見開く。


「え、なにこれ……」


 エーテルによって変異した蜂の魔物。

 銃弾が片側の羽を撃ち抜いたことで飛行能力を失ったらしく、地面で藻掻くように脚を動かしている。

 大型の蜂よりさらに一回り大きなサイズだが、体の構造自体は通常のものと何ら変わりない。


 本来なら、こんなエーテル値の低い市街地に魔物が発生するはずがないのだ。

 それだけでも不自然だというのに、


「……これは」


 クロガネも確認のため魔物に近付く。


 その腹部には改造手術を施された跡があった。

 何らかの薬液で充填されたカプセルが埋め込まれており、先端部分には注射針のようなものが伸びている。


 そして背部には、Neef-4ネーフ・フォーに似た隠蔽装置を取り付けられていた。

 これのせいで『探知』でもただの虫と誤認してしまったのだろう。


「なあ、これお手柄ってことにならないか?」


 驚いて発砲してしまったことを誤魔化すようにカルロが魔物を指差す。

 蜂の魔物を撃ち落とした功績は大きい。

 クロガネが手渡した特殊弾でなければ魔物には通用しなかった可能性もある。


「弾代くらいにはなるんじゃない?」


 期待通りの働きをしてくれた。

 ガレット・デ・ロワと関わるようになった当初から、彼の悪運の強さは高く買っている。


『銃声が聞こえたけど、大丈夫?』

「問題ない。けど、面白いものを拾った」


 何者かが魔物に改造手術を施してフィルツェ商業区に放した。

 見たところ足が付くような痕跡はないが、仕組みそのものに関しては回収して調査すべきだろう。


 微かな抵抗を感じつつ、嫌悪感を押し殺して腹部のカプセルだけを切除する。

 この場で魔物まで回収する余裕はない。


「魔物の生態を利用して薬を投与しようとしているヤツがいる。中身が煌性発魔剤なら」

『第三者が介入を始めたってことね』


 こんなものを常識人が作れるはずがない。

 真っ先に候補に挙がるのは"あの男"だったが、こんなに強引な形で仕掛けてくるとも考え難い。


「大量の魔女を変異させて誰に得がある……?」


 その疑問を解消するには、まだ情報が不足していた。

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