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273話

 堕の円環ディプラヴィアと魔法省の交戦が苛烈さを増していく。

 各地で繰り広げられる大規模戦闘の数々。

 商業施設の立ち並ぶ大通りも、その被害を受けて見るも無惨な姿になっていた。


 同じ区画内に戦慄級の魔女が何人も存在しているという異例の事態に、巻き込まれたくない市民たちがパニックを起こして検問所に殺到し始めている。

 もしその中に工作員が紛れ込んでいたとしてもすぐには見抜けない。

 PCMAを用いて、一人ずつ魔女か否かを判別する必要があった。


「そりゃ、これだけ派手に暴れてたらそうなるよな」


 仮眠を取って落ち着いたらしいカルロが肩を竦める。

 魔法省が迅速に制圧できるのであれば問題ないが、今回は相手の規模が大きすぎた


 魔法省側は時間が経てば経つほど不利になる。

 立場上、彼らは市民たちを蔑ろにすることはできない。

 秩序維持という役割を担う捜査官たちが対応しないわけにはいかないのだ。


 一方で、堕の円環ディプラヴィア側は戦力が尽きない限り条件は変わらない。

 自分たち以外は全て敵でしかない。


「……あぁ、そういうこと」


 クロガネが呟く。

 始めからこうするつもりで動いていたのだと。


「えっと、どういうこと?」


 色差魔が首を傾げる。

 横では真兎が同じような反応をしていた。


「エサってことだろ? 奴らの主義主張を考えれば、魔法省は憎くて仕方ないだろうからな」


 カルロも気付いたらしく、納得した様子で尋ねてきた。

 彼の推測は合っている。


――魔女解放運動。


 秩序の名の下に、全ての魔女は魔女名簿によって管理される。

 又、有事の際は公的戦力として出動し能力を使用することを義務とする。


 事実上の自由剥奪。

 プライバシーを侵害され、従わなければ罰則を科されることになる。

 無法魔女アウトローの大半はそれを嫌がって身を潜めている。


「少数の構成員をエサに魔法省を釣り出して、本命で強襲を仕掛ける。そして、足手まといの市民を押し付けながら攻撃する」


 いい性格をしている……と、クロガネは笑みを浮かべる。

 彼女たちのボスはかなりの悪党か、そうでなければ極端な選民思想でもあるのだろう。

 無関係の命だろうと容赦なく利用する狡猾さがあった。


 市民たちが足を引っ張り始めたことで魔法省の統率が崩れ始めている。

 遊撃要員の登録魔女はともかく、班単位で行動する捜査官たちには厳しい状況だ。


 検問所は混乱状態。

 区画内の捜査官たちは保護を求める市民を抱えている。


「俺たちも混乱に乗じて脱出するか?」

「……いや、まだこの場に留まっていたほうがいい」


 それでも魔法省は秩序維持を担う大規模組織だ。

 この状況を覆すほどの駒をまだ残している。

 どこまで通用するかは不明だが、


『あー、あー。クロガネ様、聞こえるかしら?』

「用件は?」

『機動予備隊の車両が確認できたわ。すぐにでも突入しそうな雰囲気よ』


 予想通り、追加の戦力が現れた。


『それと、特務部の主任も見えるわね。カラギ・シキシマだったかしら』


 厄介な相手も紛れ込んでいるらしい。

 戦闘技能も高いが、カラギにはどこか危険な気配を感じる。


「カラギは単独行動?」

『今のところはそう見えるわね。途中で合流するかもしれないけれど』


 このまま身を潜めていてもリスクが無いとは言い難い。

 下手に取り囲まれてしまうより、索敵しつつ安全に脱出した方がいいかもしれない。


「カルロは動けそう?」

「ああ、少し休めたからな。足は引っ張らねえはずだ」

「そう」


 魔女が三名、人間が一名。

 それぞれが戦闘慣れしており、真兎も既に素人ではない。


「脱出ポイントは?」

『ロウが確保してるわ。途中でお邪魔虫が来たけど排除済みよ』


 全て問題ない。

 商業区内では四人で対処しなければならないが、目的のトンネル付近まで辿り着けばロウと合流できる。

 人数的な不安も解消されるだろう。


『追加のドローンを導入したわ。脅威になりそうな相手はマップに座標を表示させるから、一分おきに情報が更新されるわよ』

「了解」


 色差魔のようにエーテルに敏感な者も少なくない。

 広域に『探知』を発動すると他の魔女に気付かれるリスクもある。


 端末を取り出してマップを表示させる。

 商業区中央では雷帝と火輪が交戦中で、その場所に向かうようにフードを被った魔女が移動しているらしい。

 機動予備隊とカラギは南西側から突入する準備をしている。


 敵の数は多いが、近辺の索敵にはクロガネの『探知』があり、身を隠すには色差魔の『色錯』が揃っている。

 そう簡単に敵に見つかることはないだろう。

 万が一があっても敵を排除できるだけの戦力がある。


「シキは二人を守って」

「おっけー、あたしに任せて!」


 戦力としてカウントされていることが嬉しいのか、色差魔は頬を緩めて返事をする。

 魔女としての格もそうだが、現状の混乱に包まれたフィルツェ商業区でも通用する技量も備えている。


「カルロは周囲に気を配って、真兎は肩を貸してあげて」

「分かった」

「りょーかいです!」


 セーフハウスに貯蔵している武器の中から好きなものを選ばせ、クロガネも装備の調整を手早く済ませる。


「俺はコイツがあるから、弾だけ分けてくれ」


 カルロは手に馴染んだ銃を使うらしい。

 負傷している状態で慣れない武器を使用するよりは戦力になれるはずだと。


 洞察力と判断力に関しては彼が一番頼りになる。

 いざという時に真っ先に動いてもらうために、


「――『タキオン生成』」


 クロガネは手のひらに魔力を集める。

 恐らく、エーテルそのものを用いた攻撃手段の中では最も殺傷力の高い魔法。


「――『弾薬錬成』」


 その力を込めた弾薬を生み出す。

 計七発――マガジン一つ分をカルロに手渡す。


「必要だと思ったら迷わず使って」

「いいのか?」


 上級の対魔弾か、それをやや上回る性能の特殊弾。

 クロガネが魔法によって生み出す弾の中でも性能は頭抜けている。


 それこそ、この弾があれば魔女とも殺り合えるほどに。

 以前アダムが特級対魔弾を欲しがったのもそういった事情があったからだ。

 そう簡単に他者に与えるような代物ではない。


「それに見合った働きを期待してるから」

「……お、おう。報酬に色を付けておくから勘弁してくれ」


 怪我している状態ではあまり役に立てない。

 そう言いつつも、カルロの視線は特殊弾に向けられていた。

 既に使い道とタイミングを考え始めているようだ。


『みんな聞こえるかしら? 今なら脱出ポイントまで楽に行けそうよ』

「分かった」


 上空から監視していたマクガレーノが今が好機だと言う。

 四人は顔を見合わせて頷くと、移動を開始する。

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