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269話

「……ドローンの制御が効かなくなったわね」


 呟いて、動力の切り替えを行う。

 煌学推進装置は機能していないが、電力に依存するモーター駆動は生きている。

 速度は期待できないが監視カメラ程度には使えるだろう。


 魔法省のドローンは全て制御を失って落下している。

 普段から魔法工学に頼り切っているツケが回ってきたようだ。


 ざまあみろとマクガレーノが嗤った直後、彼女が操作していたドローンが何らかの攻撃を受けて信号がロストする。


「……あーらら」


 カラミティの拠点からは状況が窺えなくなってしまった。

 クロガネの身に危険が及ぶことは考えづらいが、魔法省も堕の円環ディプラヴィアもかなり大きな戦力を投入している。

 あまり脱出に時間がかかると状況が変わるかもしれない。


『マクガレーノ、聞こえるか?』


 ロウから通信が入る。

 彼はフィルツェ商業区の近くに待機して、脱出ルートを保持する役を担っていた。


「聞こえてるわよー、どうぞ」

『脱出ポイント付近で武装した無法魔女アウトローがうろいている。奴ら、まだかなりの戦力を残しているかもしれん』


 魔法省の検問は地上に限られている。

 老朽化によって封鎖された地下道などであればマークされていない場合もあり、シンジケートにとっては移動に都合のいいルートとなっている。


 ロウが待機している場所は局所的なエーテル値の上昇によって放棄されたトンネルだ。

 フェンスとチェーンによって封鎖されているが、公的機関による見張りや監視カメラの設置などはされていない。


 だが、よく見ると一箇所だけフェンスが開閉するように"手を加えられて"いる。

 以前通りがかった悪党が、この場所が使えると考えて気付かれない程度に細工をしたらしい。


 定期的な見回りなどもされておらず、近辺を行き来するシンジケートにとっては穴場となっている。

 その分だけ悪党同士の争いも発生しやすいが、魔法省が動いている中で下手な横槍を入れるような者もいないだろう。


『PCM値135……78……238……それなりにやれるようだ』


 ラプラスシステムと繋がりのない旧式のPCMAを用いて等級を調べる。

 三百未満は愚者級、百を下回ると咎人級の等級判定となる。


『装備は非魔法工学アンティークばかりだな。動きも手慣れている』

「脱出ポイントを奪われると厄介ね。交渉できるかしら?」

『奴らは魔女至上主義だろう』


 言う事を聞くとは思えない……そう言って、ロウは首を振る。

 同じ無法魔女アウトローであれば別だが、犯罪組織に所属している人間とは相容れない。

 彼女たちはあくまで互助機関という名目で結成されているため、自分たちと同じ悪党というわけではない。


「突入しそうなの?」

『いや……見たところ、この場で待機して脱出ポイントの確保をするつもりのようだ』


 装備を展開して、他者の介入がないように警戒している。

 堂々とトンネルの入り口を確保しているあたり、よほど腕に自信があるのだろう。


 ロウは魔法省に勘付かれないように離れた場所で待機していたため、ちょうど堕の円環ディプラヴィアの部隊を観察できる場所にいる。

 魔女が三人一組で行動しているとなると、迂闊に手出しするわけにもいかない。


『……排除すべきだな』


 いざという時に脱出ポイントが塞がっていると面倒だ。

 まさかクロガネを相手に「これから敵を排除します」などと馬鹿なことは言えない。


 堕の円環ディプラヴィアの作戦行動によってカラミティも不利益を被っているのだ。

 こうして時間を取られている現状が組織にとってマイナスとなっている。


 何よりも、


『首領であるクロガネ様を煩わせたのだ。命を取るには十分すぎる理由だろう』

「いい心掛けじゃない」


 彼にしては珍しく忠誠心を表に出している。

 当初は生き延びるために軍門に下るといった様子だったが、幹部筆頭である屍姫に影響されたのだろう。


 元より、彼はゾーリア商業区内で随一の武闘派組織を運営していたのだ。

 普段は慎重な姿勢を崩さないでいるが、本来は血の気の多いタイプなのかもしれない。


 商才で成り上がった自分とは違った強みを持っている。

 荒事ではロウの方が上手だ。

 そういった面では、マクガレーノは彼を素直に評価していた。


「援護はいるかしら?」

『不要だ。自分の仕事に集中しておけ』


 そう言ってロウが通信を切る。

 処理するには十分な戦力が揃っているようだ。


「さーて、アタシも気を引き締めないと」


 彼だけに手柄を立てられては立つ瀬がない。

 クロガネが見ているのは"使える手駒"か否か――たったそれだけ。


 とはいえ、得意としているドローンによる遠隔支援は現状使えない。

 それ以外となると自ら赴くのが手っ取り早いが、今は拠点を空けてしまうわけにもいかなかった。


 可能な限りフィルツェ商業区内の情報を掻き集めて、クロガネから折り返しが来るまで待機するしかない。

 器用に何でもこなせるのがマクガレーノの強みだ。


 既にSNS等で様々な情報が流れている。

 大半は憶測混じりの使えない投稿ばかりで、中には「黎明の杜の再来」などという文言も見かける。

 商業区の建物に避難している者たちによって魔法省と堕の円環ディプラヴィアが衝突している映像も出回っていた。


 それらを一つ一つチェックしながら、マクガレーノはため息をつく。


「屍姫ちゃんも別の仕事に出ているし……一人で留守番なんて退屈よ~」

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