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266話

 煌爆発パルスに反応して、ドローンに搭載されていた煌学推進装置が爆発を引き起こす。

 不安定なエーテル環境を揺さぶるように波が生じている。

 一時的に一帯のエーテル濃度が高まって、着弾点付近にいた捜査官たちが気を失って倒れ込む。


「ウソ、魔法がっ――」


 構築していた魔力弾が消え去って闇璃あんりが驚きの声を漏らす。

 魔法による影響が全て失われ、


「おおっ!? いけるッ」


 身体の自由が戻ったカルロが、闇璃に鉛玉を叩き込む。

 銃では十分な傷は負わせられないが、これだけ至近距離で当てれば怯ませるくらいのことは可能だ。


 エーテルの影響が全て阻害されている。

 捜査官たちも対魔武器ばかりを装備していて、こういった時に使える武器を持っていないらしい。

 パルスによって内部から破壊されては何もできない。


 この場では唯一、実弾銃アンティークのみが使用可能。

 ガレット・デ・ロワの構成員たちは、アダムに半ば強制的に所持されられている。

 それは彼の趣味というだけではない。


「っしゃあ! 殺るぞお前らッ!」


 こうなってしまえば人数差は関係ない。

 ほとんど素手と変わらない集団が相手なら幾らでも押し返せる。

 魔法を封じている間に闇璃を仕留められたら尚良しだろう。


 とはいえ、無理してまで仕留めようとする必要はない。

 カルロの視界には既に"救援"の到着が見えている。


「な、無法魔女アウトローかッ!?」


 捜査官の一人が接近に気付いて声を上げる。

 魔法が使えない状況だというのに、凄まじい速度で疾走してきている。


 二丁拳銃を交差するように構え、彼らの間を突き抜けるように、


「邪魔」


 銃弾をバラ撒きながら通り過ぎる。

 狙いは極めて正確に。

 すれ違った捜査官は誰一人逃さず、頭部や心臓を撃ち抜いていた。


 そのまま勢いを付けて、カルロが応戦している魔女を側面から蹴り付ける。


「がッ――」


 頑丈だが『能力向上』を発動せずともダメージは通る。

 愚者級程度だろうと予想しつつ、続く一撃で遠くに蹴り飛ばす。


「生きてる?」

「あぁ……た、助かったぜ」


 地面に横たわりながらカルロが感謝を告げる。

 苦しそうに呼吸をしているが、手当さえすれば助かるだろう。


 その傍らでは、真兎が安堵した様子で胸を撫で下ろしている。

 かなり大暴れしたらしい。

 周囲を見回すと、至るところに巨大鎚を振り回した痕跡が残っている。


「あ、新手の無法魔女アウトローだッ」


 捜査官たちがクロガネを警戒した様子で見据えている。

 対魔武器が使えなくなっていることにはもう気付いているらしい。

 後続の捜査官たちは使えるかもしれないが、視界に映る範囲では武装を解除された生身の人間しかいない。


 かなりギリギリの状態だったようだ。

 カルロと真兎以外は交戦中に命を落としている。

 二人と捜査官たちの位置を見れば、全滅する寸前だったのはすぐ分かる。


 救援は間に合った。

 後は敵を片付けるだけ……そう考えていると、


「仕方ないわね……ッ」


 起き上がった闇璃が、懐から筒状の何かを二本取り出す。

 ボールペン程度のサイズだ。


 先端部分のキャップを歯で噛んで外し、逆手に持ち替えて――。


「ッ、させない」


 その正体にいち早く気付いたクロガネが銃弾を浴びせる。

 対魔武器ではないが、特殊な改造を施した銃だ。

 愚者級の魔女相手であれば効果は十分に期待できる。


 だが、闇璃は被弾を覚悟の上で続ける。

 二本の筒を同時に、自分の腕を叩くように押し当てる。


「ッぁ――」


 カシュッという音がして、充填されていた薬液が注入される。

 こういった状況で使用するものとなれば一つだけ。

 煌性発魔剤を投与するためのオートインジェクターだ。


「チッ」


 まさか登録魔女が携帯しているとは予想していなかった。

 愚者級の彼女にどれだけ恩恵が得られる代物なのかは不明だが、実戦投入されているとなれば――。


無法魔女アウトローが一人増えたところで……ッ」


 爆発的に魔力量が膨れ上がる。

 愚者級に収まらない飛躍的な成長を遂げている。


 一時的なものとはいえ、体から湧き上がる力は本物だ。

 負傷したカルロたちを庇いながら相手をするには厄介だ――と、警戒しつつ銃を構えるも、


――視界にノイズが走る。


「う、あぁ……ッ!?」


 闇璃の様子がおかしい。

 魔力量が膨れ上がるだけでなく、その体を蝕むようにエーテルが侵食している。


 体は色素を失っていき、瞳は爛々と蒼く染まり。

 変異したその姿は、まるで軍務局の幹部たちと同じだ。


 周囲を取り囲んでいた捜査官たちも狼狽えている。

 認められている副作用であるはずがない。

 何らかの要因が重なって、不測の事態に陥ってしまったとでもいうのだろうか。


「……二人とも動ける?」


 尋ねると、カルロと真兎が頷く。


 煌爆発パルスの影響は既に失われている。

 損傷した対魔武器は修理が必要だが、真兎は『身体強化』を扱える状態に戻っていた。


 理性を失った闇璃が、自分のすぐ近くにいた捜査官に襲い掛かる。

 やはり敵味方の区別は付かないらしい。

 あるいは、テロメアやプロトのように自我を保っているほうが稀なのかもしれない。


 捜査官たちの意識が逸れている間に三人は離脱する。

 わざわざ手を下さずとも、変異した彼女が暴れるだけで相当な被害になるだろう。

 その対処に人員が割かれることで動きやすくなる。


「……」


 この現象はあまりにも不可解だ。

 魔女が別の"何か"に変異して、同時に自我を失ってしまう。


 元凶は何者なのか。

 自然現象によるものか、意図して生み出されているのか。

 この未知を解明するには情報が足りない。

File:闇璃あんり


対象を衰弱させる麻酔弾に似た魔法を行使する登録魔女。

殺傷能力も高く戦闘向きの能力で、魔法自体の規模は小さいため継戦能力も高い。

元はシンジケートから依頼を引き受ける無法魔女アウトローだったが、統一政府カリギュラによる一望監視制管理社会の実現によって魔法省の傘下に収まる。

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