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265話

 事態は極めて単純――堕の円環ディプラヴィアという危険因子を魔法省が追い詰めただけ。

 雷帝に対する不意打ちは予測されていなかったのだろうが、その後の対処の早さはヘクセラ長官の手腕によるものだろう。


 無法魔女アウトローによるテロ行為に対して世間は敏感になっている。

 これが後押しとなって、告知などせずに検問を敷いても反発する者はほとんどいない。


「――『能力向上』」


 Neef-4ネーフ・フォーの制限ギリギリまで出力を上げ、街中を駆け抜ける。


 市民たちは非常事態のため外を出歩いていない。

 見かけるとしても魔法省の捜査官か、あるいは堕の円環ディプラヴィアの構成員くらいだろう。

 ガレット・デ・ロワ以外は全て敵と見做みなしていい。


 幸いにも指定座標まで距離は無い。

 出力を抑えているとはいえ、クロガネの身体能力であれば五分もかからず――。


「チッ――」


 これでは間に合わない。


 クロガネの『探知』にはカルロと真兎、負傷した構成員三名の反応がある。

 そして、彼らを取り囲むように至るところから魔法省の捜査官が続々と駆け付けてきていた。


 辛うじて耐えているのはカルロの機転によるものだろう。

 だが魔法省側は間もなく二つの班が合流し、さらに数分後には三つの班が到着する。

 さらに、主戦力である真兎は登録魔女と交戦中のようだ。


 ラプラスシステムによる感知を警戒しなければならないが、今は"不完全な監視"という情報に賭ける他ない。

 この救援依頼は既に引き受けているのだから見捨てるわけにはいかない。


 リスクを承知の上で『能力向上』の出力を上げようとするが、


「……ッ!」


 後方から小型ドローンが追尾してきていることに気付く。

 だが敵のものではない。

 マクガレーノが所有する、カメラとマイクを搭載した支援用ドローンの一つだ。


 移動速度は極めて速く、そのままクロガネを追い抜かすように加速する。

 その意図は尋ねるまでもない。


『ちょーっとだけ、時間を稼ぐわね』


 煌学技術による推進力を搭載した最新式。

 そのドローンに何かしら装置を積むだけで有用な攻撃兵器になる。


 魔法省の装備は対魔女専用――魔法工学に頼り切った代物だ。

 どれだけ凶悪な性能を誇っていようと、エーテルに依存した兵器など彼女にとって脅威足り得ない。


 フィルツェ商業区を監視していたおかげで、マクガレーノが自由に動かせるドローンが各所に配備されている。

 それらを動員すれば撹乱するくらいは容易だ。

 本来は堕の円環ディプラヴィアに関する情報を収集すべきだが、クロガネにリスクを負わせるべきではないと判断したらしい。


 ドローンはそのまま指定座標まで突き進み――煌爆発パルスを発生させた。



   ◆◇◆◇◆



「このっ、そりゃあああああ!」


 真兎が力任せに捜査官を叩き潰す。

 これで仕留めたのは三人目だ。


 遮蔽物となるESSシールドも上級の対魔武器があれば簡単に突破できる。

 生まれ持った能力が『身体強化』でなければこうはいかなかった。

 咎人級という微弱な魔力保有量でも、十分に活躍できている。


 そんな自信を持った直後、


「へぇー、小さいのにやるじゃない」


 黒スーツを着た少女――登録魔女が現れる。

 その腕章は赤色だ。


「わ、わたしより強い魔力を感じます、ね」


 途端に体が震えてしまう。

 魔女には階級というものが存在し、その中でも咎人級は最底辺の存在。


 登録魔女にすらなれない。

 研究用のサンプルとして扱われるような生命でしかない

 生身の人間よりは恵まれているものの、微々たる差のためだけに虐げられている。


「分かるんだ? そう、私の階級は――」

「愚者級ですね!?」

「まあ、そうなんだけど」


 相手は呆れた様子で「調子が狂うなぁ」と呟く。


「魔法省登録魔女、特務部魔女管理課執行官。愚者級『闇璃あんり』」


 捜査官手帳を見せて名乗りを上げる。


 魔女管理課――魔女名簿の登録を推し進める、ヘクセラ長官が就任時に新たに設立した課だ。

 一方で、特務部の中で最も対無法魔女アウトローに特化しているとも言える。


「捕縛しようと思ったけど……なんか面倒だし。咎人級くらいなら殺しちゃってもいいか」


 圧倒的な階級差。

 彼女の支配領域に呑まれ、真兎は魔法を行使することができない。

 辛うじて『身体強化』を維持しているものの、大きく減衰され巨大鎚を持ち上げられなくなっていた。


「じゃ、そういうわけで――死んで」


 その手を翳すと、無数の魔力弾が飛来して――。


「うぐっ――」


 横から飛び出してきたカルロが、真兎にタックルして弾の軌道上から外す。

 そのまま衝撃の勢いで車両の陰に転がり込む。


「うー、だからカルロさん重いって……」


 カルロを退かそうとして、その手を止める。

 生温かい液体が自分の服に染みている。


――血だ。


「か、カルロさん? こんな幼気いたいけな少女の胸に顔埋めてる場合じゃないですよ……?」

「……んな趣味はねぇよ」


 苦しそうに声を漏らす。

 先ほどの攻撃に脇腹を抉られてしまったらしい。

 すぐに意識を失うほどではないが、処置しなければ命に関わる。


「えっと、救援は?」

「取引はしっかり成立した。あと数分持ちこたえれば俺たちの勝ちだ」


 だから……と、カルロは続ける。


「お前は隠れてろ……ッ」


 出血は酷いが、痛みのおかげでかえって冷静になれている。

 そう思い立ち上がろうとするが上手く力が入らない。

 息を荒くしてもがいているカルロを見て、真兎は心配そうに尋ねる。


「……やっぱりそういう趣味ですか?」

「んなわけ……ッ」


 出血は大した量ではないはずだ。

 先ほどの魔法に何か仕掛けがあったのだろうが、それを知ったところで今更だろう。


「それじゃ終わりにしよっか」


 闇璃あんりが回り込んできて、身動きの取れない二人に向けて手を翳す。


 獲物を衰弱させて弱ったところに止めを刺す。

 こういった仕留め方に慣れているようだ。

 今回もまた、同様のパターンを繰り返すだけの作業でしかない。


 そのはずだったが――。


『――HMFP、起動』


 飛び込んできたドローンが爆発を起こし、一帯のエーテルを激しく揺さぶる。

File:HMFP


煌爆発パルス発生装置(High altitude Magical-Flare Pulse)

エーテル粒子に過負荷を与え崩壊させることで爆発反応を引き起こし、発生した異常振動波が連鎖的に周囲のエーテル環境を不安定にさせる。

兵器としては光学迷彩を搭載したドローンを用いる。

魔法工学に基づいた機器が一時的に使用不可となり、また強度の低いものであれば内部の煌回路を破壊することもある。

また、エーテル環境が不安定になるため魔法等の使用も阻害する。

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