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253話

 テロメアの力量は底知れない。

 だが、現在地はゾーリア商業区――クロガネの縄張りだ。

 迎え撃つための準備は整っており、ロウとマクガレーノも即座に動ける状態だ。


 視線をケリーたちの方に向ける。

 本来ならカラミティの傘下に収まるはずだったが、その筋書きは軍務局の介入によって崩されてしまった。


 不愉快だ……と、殺気を込めて睨み付ける。


「その者たちは軍務局に楯突こうとしていた。処罰は当然だろう」


 判断の一切の疑問を抱いていない。

 敵対者には容赦はせず、生死に関しては彼女にとって些末な問題だ。


「この程度のシンジケートが怖いの?」

「反政府組織に与しようとしていた。それだけで、十分すぎるほど死罪に値する」


 一度の死で許されるなら手緩いくらいだと。

 その傲慢な物言いも気になったが、それよりも引っかかる言葉があった。


――反政府組織。


 ロシオを誑かしたのは、一等市民という身分の恩恵を受けているはずのパリオ・レリクスだ。

 その策略によってゾーリア商業区を占有する腹積もりだと読んでいたが、テロメアの言葉通りであれば前提から間違っていた可能性がある。


 クラブフォレッタを訪れて以降、彼の消息は不明だ。

 軍務局絡みの組織なのか、そもそもが直属の"清掃班"なのか。


 いずれにせよ彼は消されていた事に変わりない。

 問題は"何を知って反政府組織に参加していたのか"という点だが、今持っている情報から推測することはできない。


「……そう」


 クロガネは不愉快そうに眉を顰める。

 結局のところ、今回は無駄骨を折っただけになってしまった。


 デンズファミリーを傘下に収めることには失敗した。

 壊滅した組織の縄張りくらいは手に入るとしても、その稼業や人員は得られずに終わった。

 これによって、想定していた筋書きから逸れる事になってしまう。


 社会を手のひらの上で転がすことは難しい。

 人類最高峰の頭脳を持つと言われる"あの男"には、いったいどのように世界が見えているのだろうか。

 何手先まで描いたところで、こうして不測の事態が発生して崩れてしまう。


――なら、強引に修正すればいい。


「機式――"フェアレーター"」


 身の丈の倍はあろうかという魔力砲。

 高出力の煌学エネルギー波を放出することで物理的な破壊を齎す最大火力兵器だ。


「まさか"下等生物"如きが歯向かうつもりか?」


 テロメアが手を翳して魔法を構築する。

 生み出すものは至極単純な、莫大なエーテルを用いた衝撃波だ。


 彼女の身に宿る力は計り知れない。

 得体の知れない魔法もそうだが、こうして単純な攻撃行為に用いるだけでも脅威的な破壊力になるだろう。


 だが――。


「テロメア、あれやばそう」


 プロトが尾をピンと立てて呟く。

 何かを感じ取ったように肩を震わせている。


 その直感は正しい。

 確かに敵は格上と断言できるほどの力を持っている。

 しかし純粋な力比べであれば、クロガネにも対抗し得る能力があった。


 砲身に集束していく煌学エネルギーを変質させ――『タキオン錬成』

 さらに『破壊』の性質を付与――その威力は何段階も跳ね上がる。


「原初の魔女ッ――」


 テロメアが驚愕の声を漏らすと同時に、


「消えて」


 最大出力――周囲の空間が歪むほどの熱量を持つエネルギー波が放たれる。

 奈落から引き摺り出した闇のように昏い魔力砲だ。

 その危険性を察知したのか、テロメアの手元で発動直前の魔法が書き換えられる。


「――『断界ノ理セクタ・セパレーション』」


 テロメアの目の前にエーテルの層が生成される。

 これは単純な防御魔法ではない。

 空間の繋がり自体を断ち切ることで、特異な障壁を生み出している。


 これは世界を構築する概念そのものだ。

 クロガネとテロメアの間に"空間的な繋がりはない"というデータが書き加えられたことで、本来あるはずのない隔たりが生じている。

 打ち破るには、概念そのものを崩壊させるような常軌を逸した魔法が必要で――全力の魔力砲でさえ届かない。


 まさか完全に防がれるとは思わず、クロガネは砲身を向けたまま睨み付ける。

 一方で、テロメアもまた忌々しそうに眉を顰めていた。


「既に使徒を生み出していたか」


 そう呟いて、品定めするようにこちらを見据えている。

 クロガネの持つ『破壊』の力が原初の魔女由来であることを知っているらしい。

 使徒としての繋がりは絶たれているものの、魔法の性質自体はそのまま引き継がれている。


 何かを知っている様子だ。

 少しでも情報を引き出せればいいが、現状ではこの場から撃退できれば御の字といったところだろう。


 駆け引きの余地はある。

 そう期待したが、しかし――。


「――今なら殺せるか」


 力量差は歴然。

 潰せる内に潰してしまった方が後々面倒が無くていい……そうテロメアは判断したらしい。


 直後に震えるほどの殺気が一帯を支配する。

 指の一本すら、ピクリと動かすこともままならない程の重圧。

 体が石のように固まってしまっている。


「……ッ」


 全ての魔法が解除される。

 常時発動していた『探知』も『能力向上』や『思考加速』も、この途方もない格の違いによって生み出される支配領域内では一切許されないらしい。

 呼び出していたフェアレーターでさえ維持できずに消滅してしまうほど。


 だが、違う。

 この殺気の主はテロメアではない。

 確信できた理由は、以前に一度だけこの重圧を感じ取ったことがあるからだ。


 現に彼女は、障壁を維持したまま身構えていて――。


「もー、それはダメだよ~」


 どこからか現れた裏懺悔が、殺し合いの場に似つかわしくない呑気な声で言う。

 頬を膨らませて、指でバッテンを作ってテロメアの考えを咎めていた。

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