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247話

――ディープタウン、カラミティ本拠地。


 幹部である屍姫、マクガレーノ、ロウの三人を交えた会合。

 一等市民居住区フォルトゥナで得られた様々な情報を共有しつつ、今後の段取りを確認していた。


「魔法省にCEMケム統一政府カリギュラ……それに軍務局までもが、醜い権力争いをしているとは」


 ロウは嘆息する。

 各組織がパワーバランスを崩す機会を窺いながら、表向きは社会のためと手を取り合っている。

 それぞれの思惑は不明だが、まともな理由ではないだろうと考えていた。


「魔法省にとっては苦しい状況よね。他と違って、一通りの戦力が開示されているのだから」


 登録魔女という制度は魔法省の力を強める一方で、リストを開示する必要も生じる。

 政府に対して隠し事はできない。

 詳細な組織図や人員配置、魔女の能力詳細まで全てを握られているのだ。


「だが、魔法省には機動予備隊とやらもいるのだろう?」

「あんなの素人集団よ」


 マクガレーノが即座に否定する。

 個々の能力は秀でていても、実戦の場で十分に発揮できなければ評価に値しない。

 それこそクロガネの手を煩わせるまでもなく対処できると見ていた。


「そうでしょ?」


 視線を向けると、クロガネも頷く。

 現状では脅威足り得ない。

 戦力としては優秀だが、殺し合いに最も必要なものが欠如していた。


「飼い慣らされた獣は脅威じゃない」


 目指すべき場所も、果たすべき役割も。

 そういった目的がない中で、一体どうやって成果を上げようというのか。


「……」


 だが、どうせこの程度で終わらせるはずがない。

 あの男が生み出した実験体サンプルなら、惨いくらいに"理由付け"をされることだろう。


 様々な組織が暗躍している。

 ゲーアノート率いるヴィタ・プロージットも密かに一等市民居住区フォルトゥナとのツテを得ていた。

 勢力拡大だけに意識を向けず、今後に向けて新たな一手を打つべきだ。


 現状、明確に敵と呼べる存在に対処するならば――。


統一政府カリギュラの議席を奪い取る」


 何事でもないように告げる。

 それがどれだけ途方のない道程か、わざわざ語るまでもない。


 だが、そうすべきだと判断した。


「裏も表も掌握する」


 裏社会でカラミティの地位を確立させる。

 表社会で一等市民の肩書きを得て、そして筆頭議員に上り詰める。

 この世界を堂々と闊歩する――裏懺悔のような、力による自由を手に入れるのだ。


 それさえもクロガネの目指す"元の世界に戻る"という目的からすれば手段でしかない。

 だから、野心も憧れも何も抱かずに言葉が流れ出る。


「クロガネ様……っ」


 屍姫が歓喜に身震いする。

 彼女が想像していた以上に大きな目標を、何の興味もなさそうに呟くその姿。

 首領として底知れない器を感じて身悶えてしてしまう。


 筆頭議員に上り詰めれば、これまでのように目障りな組織に手を煩わせる必要はない。

 統一政府カリギュラにおいて議会の決定は絶対だ。

 組織の一部でしかない軍務局も、表立って事を起こすことは難しくなる。


「だが、一等市民の地位を得るには推薦枠が必要だろう?」


 裏社会の人間とコネを持つこと自体はそれなりに利益になる。

 権力を強めた一等市民は、統一政府カリギュラに承認されることで迎え入れられる。


「その辺は、とってもおざなりなシステム運用で成り立ってるのよねえ。七つある議席も流動的で安定しないものだし、まして推薦枠制度なんてものも一等市民個人の嗜好によって決まるようなものよ」


 対価を支払える者に推薦枠を与える。

 それが金銭的なものか、あるいは精神的なものかは一等市民それぞれに委ねられている。

 それこそ一時の勢いで推薦枠を使用してしまうような者もいるくらいだ。


「まあ、ウチもそれなりに資金はある方だけれど……推薦枠を買うならもう一声ないとダメそうね」


 マクガレーノがそう言って締める。

 不可能ではないものの、推薦枠を得るには心許ないようだ。


「我々が資金を掻き集めて、クロガネ様を筆頭議員にするというわけか」

「違う」


 ロウの言葉をクロガネがすぐに否定する。

 その程度で終わるような、そんな生易しい話をしているつもりはない。


「……では、我々はどうすれば?」


 そう尋ねると、傍らからわざとらしく「はぁ……」と溜め息が聞こえてきた。

 ロウがその方向を睨み付けると、


「ほんとおバカね。クロガネ様は、アタシたち四人揃って議員になることで政府を乗っ取ろうって話をしているのよ」


 当然のようにマクガレーノは理解している。

 議員の席は七つ――カラミティの構成員で過半数を占めたなら、政府を掌握したと言っていいだろう。


「まさか、そんな事を……」


 あまりにも恐ろしい発想だ。

 理解しがたい現実味のない目標を掲げている。


 本来ならロウの反応が正しい。

 端から見れば絵空事を描いているだけ。

 それでも、クロガネの目標を叶えるにはこれしか手段がない。


 どれだけ探しても、一般社会では元の世界に戻る方法など見つけられない。

 異世界に関する記述すら存在せず、行き来に関して観測されたデータも存在しない。


 データベースを閲覧するための最高権限を得るか、もしくはフォンド博士に吐かせるか。

 前者の道程は途方もないが、後者はあまりにも危険が多すぎる。

 それこそ、先に政府を掌握してしまえばCEMケムと対立しても問題ないだけの力を得られるだろう。


 入念な下準備が必要だ。

 事をスムーズに進めるために――今回データベースから得た情報を組織外の"二人"にも送信する。

 それぞれ、上手く活用してくれることだろう。


「後は……」


 残っている些末な話題に移る。

 各稼業の収益に関するレポートや規模拡大に関するもので、一通り順調に進んでいる。

 資金繰りはマクガレーノに任せておけば問題ない。


 一等市民との繋がりを得るなら様々なものが必要になるだろう。

 資金が多いに越したことはない……と、そこまで考えてふと思い出す。


「あぁ、そういえば――」


 都合良く、多額の資金を得る手段が転がっていたことを。

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― 新着の感想 ―
[一言]  一等市民になるのか。クロガネだけでなく四人全員ができるのかな。
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