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240話

――歪な街だ。


 往来を行き交う人間はいない。


 夜とはいえ、全く人出がないというのも不自然だ。

 時刻は午後八時過ぎ――いくら怠惰な生活を送っていたとしても、まだ誰かしら姿を見かけてもいいはずだ。


 至る所に銃を持った"機械兵"が佇んでいて、それ以外は全くと言っていいほど誰の姿も見られない。

 カメラ機能による探知システムか、あるいは索敵装置を内蔵しているのか。

 後者であれば厄介だが、Neef-4ネーフ・フォーによる隠蔽が通用するなら却って安全かもしれない。


 一等市民居住区フォルトゥナの警備を担うのはTECセキュリティという巨大な軍事企業だ。

 統一政府カリギュラ正規軍の装備等も製造しているが、自律型の機械兵を各所に提供する警備会社としての面が本来の姿だ。


 立ち並ぶ建物こそ発展した都市を思わせるが、住民がいなければ映画のセットのような違和感を生み出してしまう。

 この場所には生身の人間がほとんど存在しない。


 Neef-4ネーフ・フォーによる制限下で情報を収集する。

 車両は静性メディ=アルミニウムによってエーテルを通さない。

 だが、隠しスペース部分は魔法工学に基いて単方向へのエーテル透過を可能とさせたユニラテラル構造を用いているため、内部から『探知』によって状況を把握することができる。


 この世界の技術水準は元の世界よりも高い。

 科学技術だけでなく魔法工学も発展しているため、こうした未来的な都市は幾つか存在している。


 とはいえ、その大半は一等市民居住区フォルトゥナに費やされている。

 他に魔法省本部が聳えるアルカネスト特別区域や、統一政府カリギュラの軍事拠点でありアルケー戦域との境界でもある前線都市トラニス等もあるが、少なくとも一般市民には縁のない話だ。


「……」


 検問所から搬入先に向かうまでのルートを詳細に記憶していく。

 作戦終了時、必ずしもドライバーが無事とは限らない。

 万が一の場合は独力で脱出する必要がある。


 機械兵の戦闘能力は不明だ。

 量産できる程度の性能なら脅威ではないが、魔法工学技術は侮れない。


 周囲の事象全てに細心の注意を払いつつ――目的の搬入先に到着する。


 大型の輸送車両でさえ小さく見えてしまうほどの巨大な自動倉庫。

 管理システムは機械化されているが、一応は人間の作業員もいるらしい。


 納品書を渡して認定証を提示する。

 やり取りは簡潔に終わり、そのまま納品場所まで案内された。


――作戦開始。


 作業員が持ち場に戻っていくと同時にクロガネは外に出る。

 倉庫内部も機械兵による警備が行われているが、こちらに反応した様子は見られない。


 監視カメラ等の類も見当たらない。

 よほどセキュリティに自信があるのだろうか。

 石油タンカーの陰から入口側の様子を窺いつつ、後方を振り返る。


 ドライバー達も裏社会の人間だ。

 デンズファミリーの下部組織ではあるが、今回の作戦のためにリュエス運送の幹部を派遣したらしい。

 視線を合わせるだけで大体の意思疎通は図れそうだった。


 彼らは入口側からの死角を広げるように運転席のドアを開け、そのままにした状態で作業を開始した。


 リュエス運送が積んだ石油は燃料庫に納品される。

 どうやら一等市民居住区フォルトゥナ内の一部は動力源をエーテルに頼らず稼働しているらしい。

 原始的ではあるが、エーテルの影響を受けないという点で石油燃料は便利らしい。


 一体どの部分に用いているのか。

 この街の構造を暴ければ以後の作戦もスムーズだが、あまり欲張りすぎて足元が疎かになっては意味がない。

 いずれ一等市民居住区フォルトゥナの全容を調査すべきだ。


 などと考えつつ機械兵が巡回するパターンを頭に叩き込んでいく。

 彼らは人間と違い規則的な動きで警備している。

 どこか一点で、必ずゼロから同じ順路を辿り始めるはずだ。


 クロガネは記憶力も人体実験の影響で人並外れた高さを持つ。

 じっと見つめているだけで、同じパターンを繰り返し始めるタイミングを見極められる。


 気配を消すように息を押し殺し――大きく跳躍。

 自動倉庫の棚に飛び移って、死角を縫うように移動していく。


 本来ならば、ラプラスシステムによる監視だけで全てが事足りるのだろう。

 Neef-4ネーフ・フォーによる隠蔽と統一政府カリギュラの認定証がなければ侵入はできなかった。

 様々な納品物を横目に移動している最中、気になる文字列が刻まれた荷物を見付ける。


――ヴィタ・プロージット。


 一メートル四方の木箱に貼られたシールにそう書かれていた。

 中身自体に興味は無いが、送り主の意図が気になる。


――あの戦争屋ゲーアノートが一等市民に屈服した?


 あり得ない疑問だとクロガネは肩を竦める。

 彼は一等市民や政府に対して強烈な敵意を抱いている。

 通信士オペレーターをガレット・デ・ロワから引き抜くなどして人員を拡充させ、今もなお対抗戦力を増やしているはずだ。


 あるいは一等市民とのツテを得たのだろうか。

 内部に協力者を用意できたなら、確かに彼の野望も実現に近付くことだろう。


「……」


 気になる点があまりにも多すぎる。

 この街を調べ尽くせばどんな情報だって手に入るのではないだろうか。

 外界では気付くこともできない思惑にも届きそうだ。


 だが、今すべき事ではない。

 クロガネは目標地点との座標を見比べて、移動ルートを計算していく。

File:ユニラテラル構造


エーテル遮断性に優れた静性メディ=アルミニウムを単方向に限り遮断率を下げたもの。

こういった魔法物質の性質に手を加えることを"変性"と呼び、車両のタンク部分に用いられている素材は"変性"メディ=アルミニウムと呼ぶ。

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