表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/331

24話

「――死ねッ!」


 後方に跳躍しつつの射撃。

 弾は捜査官の脚を貫いて動けなくさせる。


 続く追い討ちは――巨大な剣によって阻まれる。


「……チッ」


 異様に硬度の高い剣だった。

 翡翠のように煌めく薄い幅広の刀身。

 先ほど廃工場で見た槍型対魔武器とは質が違うようだ。


――執行官。


 捜査官より優れた戦闘能力を持つ実行部隊。

 その事前情報に恥じない技量を、この短い交戦の間に感じ取っていた。


「――止血をッ」


 手早く捜査官に指示を出しつつも、可能な限り隙が生まれないように立ち回る。


 欠員を補うため、極めて攻撃的な陣形を取っていた。

 迂闊に攻めれば反撃を喰らう。

 警戒を生じさせて治療の時間を稼ぎたいのだろう。


 ただ戦闘に慣れているだけではない。

 対魔女に特化した装備を持って、クロガネを相手に足止めを担っているのだ。


 そして不可解なことに。

 どういうわけか、人間相手に弾丸の威力が減衰している。

 さらに身に着けたスーツは防弾性の高い素材らしく、被弾しても多少の傷を付ける程度に留まっていた。


「……無法魔女アウトローめッ」


 忌々しそうに執行官が呟く。

 煌々と対魔武器が輝いて、その度に苦痛に呻いている。


「――『解析』」


 ほんの少しだけ興味が湧いた。

 この執行官の男に……というわけではない。

 魔女相手に生身の人間が食らい付くという不可解な現象に、どのようなカラクリが潜んでいるのか気になったのだ。


 解析を終え、クロガネは息を呑む。

 そうまでして戦力増強をしなければならないのかと。


「……反吐が出る」


 執行官の体内には、クロガネと同様にコアが埋め込まれている。

 それは特に変わらない。


 問題は、その中に"薬物タンク"が仕込まれていることだった。


 執行官は体内に様々な装置を埋め込まれているのだ。

 空間に作用させる魔法装置によって拳大のコアに収まっているものの、内部には戦闘時に身体強化を行うための薬剤や、対魔武器を扱うための動力源が確認できた。


 人体に必ず悪影響を及ぼすだろう。

 執行官は魔女と戦うため、改造手術によって強引に同じステージに上がっているだけだ。

 出力こそ大したものだが、割に合わない負担を背負っている。


 だが、そのおかげでクロガネの動きに対応できている。

 手に持っている剣型対魔武器も、体内のコア無しでは起動すら難しい代物なのだろう。


「……」


 クロガネから見て脅威となるほどの力は引き出せていない。

 それでも、咎人級や愚者級の魔女からすれば十分に脅威足り得るだろう。


 この情報はどこまで知られているのか。

 後で裏懺悔にでも確認してみようか、などと考えていると――。


「――戦闘中に余所見とは、舐められたものだッ!」


 しかし、剣はクロガネの眼前を通り過ぎた。

 最小限の動きで躱すと、執行官の胴体に強烈な蹴りを入れる。


「ぐっ――」


 これも耐えている。

 或いは、痛覚に鈍感になるような薬を投与されているのかもしれない。


 厄介な相手だが、クロガネは片手がアタッシュケースによって塞がっている。

 さすがにこれを手放して戦うのは不自然だ。

 かといって、鉛玉では有効打にならない。


 本当にめんどくさい、と嘆息する。


「機式――"ペルレ・シュトライト"」


 呼び出したのは、鈍器のように重い大型のライフル。

 貫通力に特化させた銃で、大罪級を相手にしても致命傷を与えられるほど。


「良いトレーニングになったよ。それじゃ――」


 無感情に引き金に指をかけ、マガジンの五発を全て叩き込む。

 それなりに経験は積めたのだから、これ以上無駄な遊びはせずに仕事をすべきだろう。


「がはッ――」


 執行官の男はスーツごと体を撃ち抜かれ、その場に崩れ落ちる。

 残されたのは低級対魔武器ガラクタを手にした捜査官が一名。


「こ、降伏を――あぐッ」


 喉元を掴み、そのまま地面に引きずり倒す。

 再びエーゲリッヒ・ブライに持ち直すと、容赦なく射殺する。


「ひっ……」


 か弱い悲鳴に振り返り、もう一人いたことを思い出す。

 真偽官白火――咎人級とはいえ、そこらの人間よりは良い捧げ物になるだろう。


「やっぱり、悪人だった……わたしが見落としたから、わたしのせいで……うぅ……」


 今から自分が殺されることに気付いていないのだろうか。

 クロガネは呆れたように肩を竦める。


 腰には銃を携帯しているというのに、先ほども戦闘に加わろうとさえしていなかった。

 味方が死んでいく中で自分だけ隅で震えていたのだ。

 非戦闘員だったとしても、検問所で行く手を阻んだ時点で敵であることに変わりない。


 そう考えていたが――。


「チッ――」


 銃を納めて即座に駆け出す。

 遠くからサイレンの音が聞こえてくるが、それ自体は関係ない。

 増援が来たとしても対処する余力は十分に残っている。


 それよりも嫌な気配を『探知』してしまった。

 連戦の後に相手をするには厄介な相手――少なくとも大罪級以上の力を持つ魔女だ。


 魔法省の戦力は捜査官たちだけではない。

 名簿に記された登録魔女は、場合によっては彼ら以上に脅威になるのだ。

 今回はあくまでカルロの護送が目的であって、無為な殺し合いに興じている暇はない。


 仕事が優先だ。

 最大速度で街中を駆け抜け、合流地点へ向かう。

File:上級-剣型対魔武器『透翠刃とうすいじん


全長1.5m刀身1.2m刃幅37cm

大罪級の甲虫型魔物『翠羽すいう』の羽部分を磨き上げて刀身に加工したもの。

自己完結した低級~中級の対魔武器と違い、外部出力を必要とする執行官専用武器。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ