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225話

 互いの組織幹部を交えての会食。

 とはいえ、料理を振る舞われるのはクロガネとアダムの二人だけ。

 連れてきた幹部たちは席の後ろに控えさせている。


「悪くねぇな」


 並べられた料理を口に運びながらアダムが呟く。

 料理の感想を言ったではない。


「上等な無法魔女アウトローとマクガレーノ商会……後は何だ?」

「アラバ・カルテル。ゾーリア商業区のルード街をシマにしてた組織」


 クロガネが視線を向けると、ロウが緊張した面持ちで一礼する。

 その所作を見て、


「あぁ、拾ってやったわけか」


 アダムはすぐに事情を見抜いた。

 凡人ではないものの、他二人と並べるには少し見劣りしてしまう。

 逆に言えば、それだけ屍姫とマクガレーノが人材として優秀すぎた。


 この場で余裕のある表情で立っていられるような人間などほとんどいない。

 大半はひりついた空気に呑まれ、良くてロウのように緊張した状態で立っているだけだろう。


 それが、屍姫とマクガレーノの二人は自然体で待機している。

 ひと目見て非凡さを感じ取れるほどだ。

 これがクロガネの手駒でなければ、引き抜くか殺すかの二択になっていたことだろう。


 試すように睨み付けてみると、ロウの額を汗が伝う。

 表情を動かさずに立っていられるだけマシだと結論付けて、アダムは視線を戻した。


「北西部のパレシアから東部のルード街まで……お前さんは、四割くらいゾーリア商業区を手に入れたってわけだ」


 アラバ・カルテルが持つ数少ない価値がそこにある。

 手元に置くとして許容可能な範囲の能力を持っていて、なおかつ欲しい地域を牛耳っている組織。

 クロガネが望むものを運良く揃えていただけだ。


「全部取るなら南側の勢力が邪魔になるよなぁ。さっそくドンパチやるつもりか?」

「当然」


 そう言い切って、クロガネはステーキを切り分けて口元に運ぶ。

 柔らかく歯切れのいい肉質。

 溢れ出る肉汁と旨み、そして味覚を刺激する独自のスパイスブレンド――素材も料理人の腕も、他所のレストランとは別格だ。


「おぉ、そりゃいいな。存分に楽しめよ」


 アダムは愉快そうにワインを呷る。

 抗争の結果について心配するようなことは一切無い。

 カラミティは、それこそ一つのシンジケートが保有するには過剰なほど人材も武器も揃っている。  


 これが弱小組織相手であれば勝負にもならなかっただろう。

 激励する言葉さえ必要ないほどだ。


 アダムの見立てでは、デンズファミリーとの対立は"楽しめる程度"には勝負になるようだ。

 組織単体ではなく傘下のシンジケートや子飼いのチンピラまで――全ての情報を考慮した上で判断した。


 南側は既にデンズファミリーに取り込まれている。

 半ば脅しに近い手法とはいえ、格上の組織から「従属か抗争か」と問われれば呑まざるを得ない。

 抵抗した組織は既にいくつか見せしめに処されており、以降に反発する者はいなかった。


「だがまぁ、お前さんも外での活動には気をつけた方がいい。Neef-4ネーフ・フォーは絶対じゃねえしな」


 そう言ってアダムは自身の腕時計を指差す。

 便利な代物ではあるが、これがあれば安全に活動できるという保証があるわけではない。


 ラプラスシステムを欺くための装置。

 これがなければ悪党が――特に無法魔女アウトローが表で活動することはできない。

 とはいえ、強力な魔法の行使はNeef-4ネーフ・フォーによる隠蔽が及ばないという。


 有象無象は脅威ではない。

 クロガネが全力を出せる状況であれば手駒さえ不要なほどだ。

 それでも危機感を抱いてしまうのは、


「ラプラスシステムは侮れねえ。世界の在り方をアレ一つで自由に変えられる、そんな代物だ」


 アダムでさえ警戒してしまうほど強大な力を統一政府カリギュラが保有しているということだ。

 それは権力だけでなく、財力から武力、人材……考え得る全てが最高峰の組織だ。


 その根本を担っている装置を侮るはずがない。

 今の裏社会では、多くの人物がラプラスシステムの情報を得ようと躍起になっている。


「裏懺悔もそれを探してるの?」

「さて、な。情報は欲しがってたが、狙いはさっぱり分からねえ」


 旧知の仲であるアダムも裏懺悔について詳しくはないらしい。

 彼が情報を秘匿している可能性もあるが、自分が持てるもの全てを交渉材料に並べたところで頷かないはずだ。


 そう勘繰ってみるも、どうやら本当に知らないらしい。

 アダムは真剣な表情で考え込んで、少しして肩を竦める。


「そもそも、何も考えてねえのかもしれねえな」


 一気にワインを呷る。

 あれほどの力を持つ怪物が野心を持っていたなら、裏も表も関係なく、社会は彼女に平伏すことになっていただろう。


 自由奔放で無邪気で、気まぐれに動いているだけ。

 裏懺悔はそういう生き物なのだ。

 そう仮定しなければ世界中のあらゆる思惑が全て茶番になってしまう。


「かもね」


 クロガネも肩を竦め、料理を口に運ぶ。


 この問答は無意味かもしれない。

 互いにそう気付いて、安易な着地点に放り投げて食事の続きを楽しんだ。

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