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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
4章 氷翠の召魔律《ゴエティア》
220/326

220話

『一連の事件は、テロ組織による犯行として――』


 街頭ディスプレイにニュース番組が映し出されていた。

 黎明の杜による武装蜂起は失敗に終わり、過ぎ去った今では人々の関心も薄れつつあった。


 カルト宗教による三等市民の扇動。

 彼女たちの掲げた目標などには触れられず、ただ危険因子として凶悪犯罪の数々を挙げられるのみ。

 これでは、活動の全てが歴史の裏側に消えてしまう。


 賛同した三等市民は少なくないが、それでも全体の一割にさえ遠く及ばない数だった。

 声を上げたとしても聞き入れられない状況。

 武力行使に訴えたところで、統一政府カリギュラを相手にしては勝算も何もない。


 とはいえ、その活動によって社会に少なからず影響を与えたのは事実だ。

 続くニュースを見て、クロガネは嘆息する。


『来月から施行される"一望監視制管理社会"について、市民の間では肯定的な意見が大半を占めており――』


 危険因子の存在をいち早く炙り出すための制度。

 人々の生活は全て政府の監視下に置かれ、管理された中で自由に生きられるというものだ。


 生活を脅かされる危険性を考えれば、テロリストを野放しにするより遥かにマシなのだろう。

 それに真っ当に生きている人間にとっては何も不都合はない。

 結果として黎明の杜は、統一政府カリギュラの目論見を後押しする形となってしまった。


 目敏い悪党は既にディープタウンに潜っている。

 地上に取り残された者たちは、すぐにラプラスシステムによって検出されることになるだろう。


――世界に変革が訪れる。


 それも、自分にとっては悪い方向に。

 表での活動が制限されてしまうと、元の世界に帰る手段を探せなくなってしまう。


 来月になれば自由に動けなくなってしまう。

 そう考えているのはクロガネだけではないのだろう。


 変革の時を待たずして、行動を開始した者もいる。


「……」


 近くのビルから爆発的な魔力の高まりを感じ取る。

 何者かが魔法を行使――直後に、辺り一帯のビルが倒壊し始めた。


 爆破等の物理的な手段ではない。

 特異な魔力の流れによって建物を破壊したらしい。

 民間人を巻き込むことに躊躇いは一切無く、人々の悲鳴と轟音で耳が痛くなるほどに騒がしい。


 主犯の姿は見えない。

 常に『探知』によって周囲を見張っていたはずだったが、それらしい反応は一切感じられなかった。


「――特務部機動予備隊より本部、聞こえるか」


 聞き覚えのある男の声。

 何かと因縁のある捜査官――ジン・ミツルギが、魔法省の車両で駆け付けたらしい。


 彼に続くように、五人の男女が降りてきた。

 見た目は人間のように見えるが、その反応はどちらかといえば魔物に近い。


 そして最後に、車両から大柄な――生体兵器シクスラムダが降りてきた。

 以前は苦戦した記憶があったが、今戦ったならどうなるだろうか。

 相手も能力がアップデートされているはずだ。


「現場に到着したが……被害は甚大だ。最低でも死者は――」

《――死者数は十八名。要救助者の反応多数有り》


 当然のように、ラプラスシステムが現場で補佐をしている。

 元々捜査官や執行官の持つデバイスにパスを繋いでいたのだから、こうして表立って動いていてもおかしくはない。


「救助を優先すべきだ。ヘイズ、場所は分かるか?」

「は、はいっ!」


 小柄な少女が頷く。

 どうやら探知能力を持っているらしく、周囲を微弱な魔力の波が流れていく。


「……っ!?」


 さすがに巻き込まれてしまうと面倒だ。

 クロガネは反魔力によって無理矢理に探知を阻害し、捜索範囲から離れる。

 少女は『反動リバウンド』に呻きつつも、再度周囲を探り始めた。


「フォージ、ヒルダ、ホルスターの三名は俺と共に救助活動を。シクスラムダはヘイズの護衛、そして――」


 一人、異質な気配を持つ少女がいた。

 クロガネと近しい魔力反応を持っているが、一方で相容れない"何か"を感じられる。


「ハクアは主犯の捜索を。可能なら身柄を確保するように」


 ハクアと呼ばれた少女は無言で頷く。

 そして、ゆっくりと手を翳し――。


「召装――"アクセラレート・ランス"」


 蒼いエーテルを纏った槍を呼び出して、倒壊したビルの方に駆けていった。


 世界に様々な変化が訪れている。

 今ある状況が盤石なものだと錯覚してはならない。

 常に野心を持ち続けなければ、気付いた時には世の混沌に呑み込まれ手遅れになってしまうことだろう。


 去り際に、フードを深々と被った少女を見かける。

 紛うこと無き戦慄級の魔力。

 先ほど街を破壊した主犯の無法魔女アウトローだ。


 ヒリついた気配を感じるが、こちらに対して敵意を持っているわけではないらしい。

 だが、隙間から一瞬だけ見えた眼光は鋭く――。


「――叛逆は始まったばかりだ」


 次なる動乱が、幕を開けようとしていた。



   ◆◇◆◇◆



召魔律ゴエティアは裏懺悔に敗北。被検体は政府によって回収され、ラプラスシステム本体に繋がれた」


 暗い部屋の中に男が一人。

 淡々とした声色で一連の事件について整理しながら、誰に話すわけでもなく、ただ独り言を呟き続けていた。


「システム本体による戦闘支援は不完全だ。魔力効率だけの話ではない。そもそも、あれを操る者にも相応の――」


 それは思考の垂れ流しであって、何かに書き連ねているわけではない。

 とはいえ彼ほどの男が無意味なことをするはずもなく。

 その言葉全ては音声データとして記録され、また高精度なAIによって要約処理が施される。


「ふむ……」


 全てが上手くいった。

 誰一人として彼の思い描く筋書きを止めることはできない。

 今後何十年、何百年先の未来まで――彼が導くままに世界は動いていくことだろう。


 だが唯一、変数となるものがあるとすれば。


「――0040Δフォーティーデルタ


 己の生み出した最高傑作。

 極めて優秀な殺戮兵器――完成形とも言うべき人造魔女だ。


 これまでの被験体とは異なり、遺物そのものを吸収して糧としてしまった。

 恩恵を得られなくなる代わりに己の力として自在に能力を操れる。


 研究所から逃れて今に至るまでの間、彼女は多くの成果を挙げてきた。

 それも、時には自分でさえ予想の付かないほどの結果を残している。

 今回も強引な手段とはいえ"ラプラスシステム本体にダメージを与える"という偉業を成し遂げてみせた。


 そんな0040Δフォーティーデルタ――クロガネに対して、


「その命が尽きる最期の時まで、私を失望させないでくれたまえ」


 フォンド博士は異様な期待を持って、その活躍を見守っていた。

4章『氷翠の召魔律ゴエティア』終了。

次章開始までしばらくお待ち下さい。

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[一言] 四章完結おめでとう、お疲れ様
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