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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
4章 氷翠の召魔律《ゴエティア》
214/326

214話

 犠牲を厭わない統一政府カリギュラの強襲。

 至近距離に降下すれば混戦状態となって隊列を崩せるが、代わりに兵士たちの犠牲も増えることだろう。


 ある意味では正解と呼べる戦法だが、マクガレーノの持つ美学に反していた。


「アナタたち、地面に着く前に殺しなさいっ!」


 降下中の兵士たちに向けて銃弾をバラ撒いていく。

 三機の輸送機全てを抑え込むことは難しいが、それでも数を減らせば地上で囲まれることもない。


 だが、敵の装備は想定以上に高性能なものだった。

 強固なプロテクターによって守られた重装備の兵士。

 さらにESSシールドを展開させて降下してきているため、大半は仕留めきれずに着地を許してしまう。


 戦いが始まって即座に地上戦に切り替わり、続々と戦力が投下されていく。

 着地の衝撃は脚部の装置で減衰させているらしく、降り立ってすぐに攻撃を仕掛けてきていた。


 敵の想定通りの混戦状態だ。

 こちらの戦力を把握した上で、確実に押し潰せる数を用意してきたらしい。


「もう、敵が多すぎなのよ!」


 敵の装備は両腕に装着されたESSブレード。

 高出力の煌学エネルギーによって形成された刀身は、こちらの所持しているESSシールドを容易く斬り裂いてしまう。

 近接装備主体とはいえ、接近を食い止めるには弾の威力が不足していた。


 そんな理不尽な性能差に文句を付けつつも、戦況に対して焦りはなかった。

 CEMケム特製の戦闘スーツであれば構造は熟知している。

 研究所のゲハルト支部を襲撃した際に得られる限りの情報を強奪してきたからだ。


 当然、その対策も用意があった。

 マクガレーノは装備を切り替えるよう仲間たちに指示を出す。


「試式HMFP――起動」


 指を鳴らして装置を起動――途端に兵士たちの動きが鈍くなった。

 それだけではなく、腕部装甲から形成されたブレードが解除されている。


 大幅に戦力が低下した敵部隊に、屍姫がすかさず攻撃を仕掛ける。


「――『冥拳』」


 対魔武器が扱えなければ、頑丈な装甲を身に着けているだけの人間だ。

 重装備ともなれば動きの鈍い的にしかならない。 


 魔力によって強化された拳打。

 操る能力は死を司り、掠めるだけでも生命力を削られることになる。


 まして直撃などすれば――。


「ぐぁっ――」


 呻き声を漏らしたかと思えば、力無く倒れ伏す。

 どれだけ性能の良い装備を揃えても。


「脆いですね」


 人間では魔女に対抗できない。

 存在の格が違うのだと示すように、容赦無く命を刈り取っていく。


 それに合わせてマクガレーノたちが攻勢に転じる。

 銃撃と屍姫の猛攻によって敵を着実に減らしていくが、


「そろそろ効果が切れるわよ!」


 マクガレーノが声を上げる。

 先ほど使用したHMFPは開発段階のもので、有効時間は一分にも満たない。


「ッ――」


 危険を察知して屍姫が後方に飛ぶ。

 同時にESSブレードの先端が目の前を通過する。


 敵の装備が正常動作に戻ったようだ。

 鈍っていた動きも俊敏なものに戻っており、両腕から再びブレードが発生している。

 効果時間内で十人ほど数を減らせたが、それでも形勢に大きな影響はない。


 だが、格闘術だけが彼女の能力ではない。

 死を司る大罪級の魔女――築き上げた屍の山を踏み付け、冒涜するように。


「――目覚めなさい」


 アンデッドの軍を作り上げる。

 ゆらりと魔力を馴染ませるように立ち上がって、屍姫たちを守るように横一列に陣形を組んだ。


 屍姫の魔力を分け与えられた屍は、人間の頃よりも身体能力が向上している。

 その上、CEMケム開発の高性能な装備を纏っている状態だ。


 統一政府カリギュラの部隊は練度も高く、極めて高水準で統率が取れている。

 その戦力を崩すには、より凶悪な"理性無き屍の軍勢"によって圧し潰す他にない。


 アンデッドは死を恐れない。

 主が命じれば、朽ち果てるまで動き続ける。

 たとえ四肢をもがれたとしても、這いずり回って主命に従うのみ。


 それだけではない。

 ここまで時間稼ぎをしたおかげで――。


「間に合いました」


 C-4地区各地に潜んでいたアンデッドたちが、波のように押し寄せてきた。

 総数は統一政府カリギュラの中隊を上回る百五十体。

 彼らは全て、このエスレペスの地で命を落とした三等市民の亡骸だ。


 汚染された空気を吸い続けていた者たちの亡骸は、ただの人間よりもエーテルとの親和性が高い。

 使い捨てるには惜しい駒ではあったが――。


「上々……でしょうか」


 敢えて特攻させることで、アンデッドを除いた被害を最小限に抑える。

 既に死んでいる者であれば躊躇いなく使い捨てられる。


 高性能な装備を揃えた統一政府カリギュラの兵士たちも、さすがに数の暴力を前にしては無力だ。

 全方位から襲い掛かるアンデッドの軍勢。

 さらに屍姫やマクガレーノたちが加われば、戦況が完全に覆る。


 このまま攻勢に出て殲滅すべき――そう考えた直後。


「――ッ!」


 凄まじい魔力の反応を感じて屍姫が振り返る。

 その数瞬後、クロガネたちが交戦しているであろう場所から、蒼い光柱が空高くまで突き抜けた。

File:HMFP


煌爆発パルス発生装置(High altitude Magical-Flare Pulse)

エーテル粒子に過負荷を与え崩壊させることで爆発反応を引き起こし、発生した異常振動波が連鎖的に周囲のエーテル環境を不安定にさせる。

兵器としては光学迷彩を搭載したドローンを用いる。

魔法工学に基づいた機器が一時的に使用不可となり、また強度の低いものであれば内部の煌回路を破壊することもある。

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