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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
4章 氷翠の召魔律《ゴエティア》
211/326

211話

――『解析』


 悪魔式の充填は七十一。

 能力詳細までは反魔力に阻まれて明かせないが、今の氷翠は十分に脅威だと認める。


 最後の一つとして標的を自分に定めたのだろう。

 氷翠の保有魔力で『破壊』まで得られたなら、統一政府カリギュラと渡り合うことも不可能ではないかもしれない。

 それに、このイレギュラーな魔法ならば、不完全なはずの儀式を成功させる変数にもなり得る。


 彼女はこの一戦に全てを賭けるつもりなのだ。

 戦慄級の力を存分に発揮して、この事態を打破するための鍵を得ようとしている。


「――『能力向上』」


 出し惜しみをする余裕は無い。

 自分もまた、彼女を殺すために本気を出さなければならない。


「――『思考加速』」


 全ては"元の世界"に帰還するため。

 目的のためならば、罪なき命を奪うことも厭わない。


 氷翠の命さえも、成長の糧にして――。


「――『戦闘演算』」


 力強く地を蹴って距離を詰める。

 情けも容赦も一切不要だ。

 思い付く限りの策を弄して命を奪うのみ。


 氷翠が手を翳し、宙に無数の氷刃を生み出す。

 その全てがクロガネを狙っている。


「切り刻めッ――」


 飛来する氷刃を見据えながら、クロガネは冷静に『探知』を発動させる。

 一つ一つがどのような軌道で、どのタイミングで着弾し、どれほどの威力を持っているのか。


 銃声が響く。


 被害を最小限に抑えられるように。

 急所を狙ったものは撃ち落とし、四肢を狙ったものは身を捻って避け、掠める程度のものは受け入れる。


 発動した『戦闘演算』は『探知』によって得られる効果範囲内の情報を全て処理している。

 最適解を即座に見出して、後はその通りに体を動かせばいい。

 積み重ねてきた戦闘経験によって、最小限の動作のみで距離を詰めていく。


「『魔刀』――」


 氷翠は即座に氷剣を呼び出して下段に構える。

 その動作と魔力反応には見覚えがあった。


「――『地這ちはすずめ』」


 振り抜いた斬撃はコンクリートの床を抉るように、無数の刃となってクロガネに襲い掛かる。

 悪魔式の中には彼女の仲間も含まれているようだ。


 烙鴉が扱う魔剣術を基に、氷翠の性質が付与された高出力の剣戟。

 その軌道は極めて精密に命を刈り取るよう放たれている。


「上級-刀型対魔武器『死渦しか』――起動」


 相応の得物でなければ対処できない。

 ハンドガンを投げ捨て、迎え撃つように刀を構える。


 氷翠は『万象先視アーリィビジョン』によって数秒先まで未来を見ることが可能だ。

 刀を呼び出すことも知っていて、その上でこの攻撃手段を選んだ。


 迫り来る刃は強烈な魔力を帯びて、反魔力による減衰は期待できない。

 実力で凌ぐ以外に手段はない。


 最も重要なのは魔法の性質を見極めることだ。

 一つの能力と呼べるほどの洞察力を持つユーガスマのように、この斬撃を"見て"処理するのだ。


 観察から行動に移すまで猶予はない。

 だが、『思考加速』と『戦闘演算』によって冴え渡る脳が最適解を導き出す。


「――ッ」


 鈍い手応えと、微かな痺れ。

 この『地這ちはすずめ』は魔力によって形成されているが物理的な干渉も可能だ。

 刀身を斜め後方に構え、連続で振り抜いて左右に受け流す。


 最小限の魔力で全ての攻撃を凌ぎ――忍ばせていた改造銃を即座に引き抜く。


「なっ――」


 魔法による先読みを覆すクロガネの技量に、次の魔法を用意する間もなく。

 銃弾が氷翠の右肩を撃ち抜いて氷剣を取り落とさせる。


 痛みに声を漏らすほどの時間さえ与えない。

 弾丸の直撃を見るまでもなく、駆け出して距離を詰めていた。


 既に近接戦闘の間合いだ。

 互いに魔法を発動すれば自分自身を巻き添えにすることになってしまう。

 クロガネも機式を扱えないというデメリットはあったが、詳細不明な七十一の悪魔式を警戒するより遥かにマシだ。


 研究早期に救出された氷翠は、機動試験プログラムの大半を終えていない。

 長期間に渡り様々な格闘術を叩き込まれたクロガネとは違う。


 刀と銃を捨て、即座にナイフに持ち替える。

 懐に潜り込むようにやや低い姿勢で、喉元を目掛けて順手で刃先を突き出す。


「ぐッ――」


 咄嗟に氷翠が左手を盾にするが、鋭利な刃先に貫かれて声を漏らす。

 撃たれた右肩ではガードが追い付かなかったのだろうが、これで両腕共に負傷してしまった。


 この状態から反撃に出ることは困難だ。

 クロガネは力任せに氷翠を押し倒し、突き立てたナイフにさらに力を込めていく。


「ッ、ぐぁ……!」


 痛みに悶えながらも、氷翠はナイフで貫かれたままクロガネの手を押し返そうとする。

 身体能力では拮抗しているようだったが、さすがに苦痛を堪えながらいつまでも抑え続けることはできない。


 徐々に刃先が喉元に近付いていく。

 それでも氷翠の戦意は衰えるどころか増しているように見えた。


――アグニが原因だろうか。


 ほんの一瞬だけ姿を見せ、それ以降は一切の干渉もない。

 どんな話をしたのか興味はあったが、情報を引き出そうとして変なリスクを抱えるわけにもいかない。


 手早く済ませて撤退するべきだろう。

 そう判断して、クロガネはさらに『能力向上』の出力を高めていく。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うおお!久し振りの戦闘演算とクロガネ様の戦い! クロガネ様かっこいい!
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